見出し画像

こおりを喰らう

あつい。ここ連日の暑さにすっかりバテている。
外出するとつい新作のアイスをチェックしちゃったりする。おかげで冷凍庫の中はカラフルなアイスで一杯だ。家の中は涼しいからあんまり食べないのにね。暑さで朦朧とすると財布の紐が緩んでしまうらしい。

ここ数年、氷を口に入れたくなることが増えた。四季に関わらず口の中に放り込みたい。医療者の端くれなので鉄欠乏性貧血も頭をよぎったが、検査の値は正常だった。

自分の意識を氷に集中させようとしているのかもなあ、と思う。氷を口に入れると、直様口の中に意識がいく。ひやっとした冷たさと、ぬるっと溶けていく氷。いわばマインドフルネスのようなものなんだと思う。「今、ここ」に意識を集中させるためのギミックなのだ。飲めなかった炭酸水も、食べれなかった激辛料理も同様のものだと思った。

伊藤詩織さんがエッセイの中で、激辛料理を好むようになったと仰っていた。すごくすごく分かる。トラウマを持つようになると、ぬるいぼうっとした意識の中に浸かっているような日常なのだ。そしておどろおどろしい墨汁がバシャっと急に入ってくる。意識が朦朧としてもクリアでも苦しい。自分の輪郭をここまで意識した期間もなかったろう。そんな中、わたしを幽体離脱させてくれるのが氷であり、炭酸水であり、激辛料理だったのだと思う。

口の中にそれらを入れると、口の刺激で頭がいっぱいになって、そのあとバシッと幽体と肉体がハマるような気がするのだ。

胃腸の病気にもなってしまったので、刺激物はなかなか取れなくなってしまったのだけれど、段々と精神的にも落ち着いてバカみたいに摂取しなくなってきた。

氷や炭酸水は自前で用意できるけど、激辛料理は作る気がしない。そのため、未だに週一回は近くの中華料理屋さんで、とっても辛い四川坦々麺を食べる。麺の茹で具合もまちまちだし、タレは毎回量が違う。パクチーとニラと唐辛子、もやしにひき肉が絶妙に合わさってるけど、それもまた量が違うので目分量なのだろう。その安定しないところも含めて楽しんでいる。

ふっふっふ、こういうので良いんだよと頭の中で孤独のグルメごっこが始まるのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?