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道路の蝉

夜の散歩をするときいつも下を向いている。自転車も車も通らない遊歩道。でも虫は歩いている。死んでいる虫もいる。倒れている虫もいる。じっとしている虫もいる。どれも走る人に踏まれてしまう。
昨日はじっとしている蝉をみた。生まれたてほど色が薄くないが、死にかけているようにも見えない。葉っぱでつつくと怒ってジーっと鳴く。でも動かない。もうちょっと大きな枝を探してつついて掴まらせようとする。ついにその蝉は怒って鳴きながら百日紅の木の方へ飛び立っていった。
私は安心してまた歩き出す。今度はひっくり返った蝉がいる。よく見ると足を少し動かしている。これは死んでいると思って突くと急に暴れる蝉爆弾というやつだ。でもこのままだと踏まれてしまう。踏むのも踏まれるのも想像すると恐ろしい。今度は靴先で退けようとしてみる。ジジッと鳴くがもう爆弾というほど飛び上がる元気はなかった。踏まれない場所まで動かして私はまた歩き出した。

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