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平松洋子『おあげさん』PARCO出版

平松さんの文章はたまに凝り過ぎていると感じ、「もっとプレーンに書いてくれたらいいのに」と不満に思ったりもするのだが、今回のこの本のプロローグを読んだときにだ、「素晴らしっ!文章力!!」と拍手したくなった。自分で油揚げを袋状に開いたことがある人は、ぜひ読んでほしい。(やったことがない人にはちょっとわからないかと思います。経験しないとわからないことが世の中にはあるのだ。)

とにかく、油揚げについての本である。日本の各地で人々がおあげをどう食べ、どう愛してきたか。平松さんのいつもの食べ物エッセイに比べてかなり力が入っているように思うが、それもおあげさんだからか。実はわたしも少し前から突然に油揚げのおいしさに目覚めた者である。そのきっかけのひとつは、このエッセイでも触れられているが、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』だと思う。あの映画で立憲民主党の小川淳也氏が、質素な自宅アパートで油揚げを実においしそうに食べる。彼は油揚げが大好きなのだ。あぶったりせずに、生で食べるのだ。そんなおいしいものなのか、とこの映画のおかげでわたしも油揚げを見直したのである(立憲民主党にはかなり不満があるが)。さらには土井善晴先生の料理動画で、稲荷ずしのおあげの煮方(油抜きに時間をかける!)を学んだので、この頃はいそいそと稲荷ずしを作ったり、きつねうどんを作ったりして、日々油揚げに親しんでいるのだ。

わたしのことはどうでもいい。とにかくおあげさんである。ある既婚の女が家庭を捨てて好きな男と出奔した。しかしその男は京都出身で油揚げは3時間煮ないといけないと主張する。女はそんな馬鹿なと反発するが、とうとう意地で3時間煮た話。(その後ふたりは別れた。人生いろいろだ。)

ほかにもいろいろ。ハトヤで有名な伊東の稲荷ずしの話。四国の松山には「松山あげ」というのがある話(便利そうだ。ぜひ買おう。)松山では冬だけでなく年中なべ焼きうどんを食べる話。油揚げカレーはガッツがあるという話。キツネはなぜ「コンコン」鳴くのかという話。東京の豊川稲荷の境内にある誰も知らない小さな茶店の話。大阪の立ち食いうどんの店の「きざみうどん」の話。油揚げじゃないけど、塩漬け卵というのもやってみたい。酒の肴になるらしい。

いやもう、平松さん久々のヒットだ。おあげさん好きならぜひ一読を。わたしは図書館で借りて読んだけど文庫になったら買って読み直そうと思います。


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