みも

猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し…

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猫好き、本好き。でも読んだ本を片っ端から忘れるので、忘れないように2021年から記録し始めました。 どれも勝手な感想ばかり。おまけにネタバレありなので未読の方はご用心ください。

最近の記事

アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

クリスティの推理小説は安心して読める。間違いなく面白いし、不快な描写もないから。春のせわしない気分の合間に読むにはぴったり。それに大戦間期の作品が多いから、当時のイギリスの雰囲気がよく伝わるのも魅力なのだ。 翻訳は中村妙子さん。こちらも安心して読めるけれど、「~ですわ」「~しましてよ」などの女言葉がいまとなってはかなり古めかしい。ほかの翻訳者のものも読んでみようかな。田村隆一訳とかどんなだろう。 解説によれば、クリスティの推理小説の共通点のひとつに「若い恋人たちを見守る」

    • 岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

      著者を「ほか」としてしまったが、正確には岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美。この4人がある日、『罪と罰』を読まないで、それがどんな本か推理しようという変な企画を思いついた。そんなの無理でしょと思うけれど、これほど有名な小説だとまったく読まなくても、たとえば主人公はラスコーリニコフという名前だとか、ソーニャという女性が出るらしいとか、金貸しの老婆を殺す話だなど、何らかの情報が耳に入っているものだ。そこから想像を広げていく。でもやっぱり無理っぽい気がするが…。 お助けの

      • 青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

        久しぶりにすごく楽しいエッセイ本を読んだ。内容は、本をめぐるあれこれ。具体的な作品名もあちこちに出る。後書きによると雑誌のコラムをまとめたものらしい。十数行ごとの短い文章が並び、間に数行の空白がある。短い断章がなんとなくつながっている感じだが、この空白がとてもいい効果を出していて、「そうだよねー」と思いながら、のんびりと読み進むことができた。 本を読むスピードの話。拾い読みの効用。ダイジェストとオリジナルの関係(そもそもオリジナルとは何か)。カバーをかける人、取る人。ひとつ

        • ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

          品のあるホラー小説を書く作家アンドリュー・J・ラッシュには、実は心に秘めた暴力性があり、最近では家族にも黙って匿名作家「ジャック・オブ・スペード」としてもホラー小説を書いている。こちらの方は、マッチョで、品性がなく、やたらと残虐に人が殺されるのだ。あるときラッシュが近所に住む素人作家の老婆に「自分のアイディアを盗んだ」と訴えられたのをきっかけに、彼の中で「ジャック・オブ・スペード」の声が大きくなっていく…。つまりこれはジキルとハイドのような人間の二面性を描いた小説なのだ。

        アガサ・クリスティ『三幕殺人事件』中村妙子訳、新潮文庫

        • 岸本佐知子ほか『「罪と罰」を読まない』文藝春秋

        • 青山南『本は眺めたり触ったりが楽しい』筑摩書房

        • ジョイス・キャロル・オーツ『ジャック・オブ・スペード』栩木玲子訳、河出書房新社

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        記事

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          贅沢な小説だなぁと読み終わって嘆息した。日本文学の若手研究者である主人公の安佐子と、その恋人で有能なビジネスマンの長良の恋愛が中心になっている小説だ。安佐子の研究ネタである『源氏物語』がこの恋愛にだんだん重なってくる。安佐子は紫式部に、長良は藤原道長に、さらには光源氏に…。 『源氏物語』の数々の巻の中で、かつて存在していたらしいのだが、どういうものだったかわかっていない巻、「輝く日の宮」。研究者の安佐子はこの謎の巻について大胆な主張をする。学会では権威のある学者たちから冷笑

          丸谷才一『輝く日の宮』講談社

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫

          織田作之助賞大賞受賞とのこと。なんとなく大阪に興味があって買った本である。薄いし、バッグに入れて電車で読むのに最適だ。ところが読み始めて困った。ちっとも面白くないのだ。 二人の語り手が交互に自分の生活を綴っている。ひとりは離婚した中年男。工場で働いている。ひとりは恋人と離れてしまった若い女。水商売に片足を入れている。どちらも貧乏。そのわびしい生活がリアルに描写される。水商売の下品さ、あほらしさ。痰を吐いたり、ゲロを吐いたりまで。 ほんとに面白くないし、楽しくないので読むの

          西加奈子『通天閣』ちくま文庫

          平野啓一郎『ある男』文春文庫

          映画を見てから原作を読んだ。両者にいろいろ違いがあるのは当たり前だが、原作がやや情報過多なのに対して、映画は部分的に変えながらうまくまとめていると思った。 とても面白い内容である。殺人者の息子である男が、生きるのが辛くて別人と戸籍を交換し、その人となって別の人生を生きる。出身や家族や悩みなどの情報も自分のものとする。なるほど、今の人生をキャンセルして、乗り換えたいと思うこともあるのかもしれない。主人公は事件を調べる弁護士の城戸だが、彼は在日三世で日本に帰化しているので、これ

          平野啓一郎『ある男』文春文庫

          J. M. クッツェー『モラルの話』くぼたのぞみ訳、人文書院

          「モラルの話」ってどういう意味だろう? ちょっと構えながら読み始めたら、最初の短編「犬」はわりと軽めだった。ある家の前を通るたびに大声で吠えかかる犬がいる。飼い主に話をするがまったく聞く耳を持たない。犬はきっとこちらの恐怖の匂いをかぎつけているのだろうと主人公は思う。こういう体験をした人は多いだろう。こうして人を恐怖させていると知りながら、平気でいられる人間がいる。 そのあとは年を取った女がこの先どのように暮らすかという話が多かった。エリザベス・コステロ(クッツェーの作品に

          J. M. クッツェー『モラルの話』くぼたのぞみ訳、人文書院

          岸政彦『にがにが日記』新潮社

          岸さんが仕事や飲み会で超多忙な日々の合間に書いた日記。想像したまんまの日常だ。張り切って仕事したり、来る仕事をどんどん引き受けてしまって鬱状態になったり、好きな仲間と徹夜に近い飲み方をしたり、猫を猫かわいがりしたり、死んだ猫のことを思い出しては泣いたり、ライブで演奏したり、奥さんとだべったり散歩したり飲んだり。ところがそのうちコロナで自粛ということになり、あの岸さんでも一日家に籠るようになる(驚き)。でもそのうちちょっと抜けだしたりする。そして最後は「おはぎ日記」。22歳で認

          岸政彦『にがにが日記』新潮社

          谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫

          谷崎家で雇っていた代々の「女中」さんを題材にしたフィクションである。この女中さんたちがみな個性的でパワフルなのである。雇われている身でありながら、けっしておとなしくはしていない。主人である磊吉(谷崎自身)もたじたじだ。文章もコミカルだし、マンガのような挿絵もおかしい。(この挿絵、磊吉はなぜかいつもウサギの着ぐるみ(?)をかぶっている。)これを読むと、文豪谷崎潤一郎のイメージがかなり変わるかもしれない。 女中さんたちの性格だけでなく、容貌や体つきも細かく観察しているのは、やっ

          谷崎潤一郎『台所太平記』中公文庫

          トニ・モリスン『青い眼がほしい』大社俶子訳、早川書房

          トニ・モリスンの『タール・ベイビー』に感心して、この第1作も読んでみたら、これがまた素晴らしかった。『タール・ベイビー』は登場人物の設定が新鮮で、まったく新しい黒人文学が登場したなと思ったが、それに比べて第1作である『青い眼が欲しい』は何人かの黒人の群像劇で、それぞれの人がどのように不幸だったのか、それぞれの物語を書いている。と言うと、従来の黒人文学ではないかと思うだろうが、構成、文体、描写がさすがトニ・モリスン、なのだ。 登場人物の中では「わたし」という少女が一番幼く、一

          トニ・モリスン『青い眼がほしい』大社俶子訳、早川書房

          武田百合子『遊覧日記』ちくま文庫

          久しぶりにnoteを書く。たまたま英語の小説をつづけて読んでいたり、図書館で予約した日本語の本をなかなか取りに行けなかったりで、しばらく書くことがなかった。このままではnoteから遠ざかってしまいそう…。そんなとき、わたしは武田百合子を読むのです。この『遊覧日記』は何度読んだかわからないのだけど、今度も面白く(そして「百合子さん、文章うまいなぁ」と唸りながら)読んだ。 浅草や上野など賑やかだがわびしさが漂うような下町が百合子さんにはほんとうに似合う。そこで見かける人々は活動

          武田百合子『遊覧日記』ちくま文庫

          たまに英語の小説を読む。クレア・キーガンのSo Late in the Day(苦い)、マーガレット・アトウッドのWilderness Tips(まだ途中)。あと数年前に読んだアリス・マンローDear Lifeをもう一度読みたくて翻訳を入手したがなぜか読みにくくて中断中。

          たまに英語の小説を読む。クレア・キーガンのSo Late in the Day(苦い)、マーガレット・アトウッドのWilderness Tips(まだ途中)。あと数年前に読んだアリス・マンローDear Lifeをもう一度読みたくて翻訳を入手したがなぜか読みにくくて中断中。

          アントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』吉田洋之訳、新潮社

          少し前に読んだ『赤いモレスキンの女』が軽めの楽しい小説だったので、同じ作者のこの小説も読んでみた。風邪っぽくて外出を取りやめたある日、一日で読んでしまった。 さて感想はというと、やはりスイスイ軽く読めるのだが、こちらの小説はフランス人の方がずっと楽しめそうだということ。つまり、舞台となっている1980年代のフランスの社会的、文化的なあれやこれやを知っていて、空気感がわかる人の方が、日本人のわたしよりもずっと楽しめそうなのだ。ミッテラン大統領がどんな政治家だったかも、もちろん

          アントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』吉田洋之訳、新潮社

          ジョン・チーヴァ―『巨大なラジオ・泳ぐ人』村上春樹訳、新潮社

          アメリカ作家、ジョン・チーヴァーの短編集。各短編の扉に訳者である村上春樹の簡単な紹介があり、巻末には村上と翻訳チェックをした柴田元幸の対談が収められている。 チーヴァーは主に『ニューヨーカー』誌に短編を発表した人で、小説の舞台はニューヨーク郊外の富裕な中産階級の家庭が多い。彼はレイモンド・カーヴァーと親しかったらしいが、労働者階級を扱った短編を書いたカーヴァーとどこか似ている雰囲気もある。大きく違うのは、カーヴァーの描く男たちが自分のダメ具合をよく意識していて、妻や娘に甘え

          ジョン・チーヴァ―『巨大なラジオ・泳ぐ人』村上春樹訳、新潮社

          池波正太郎『池波正太郎の銀座日記(全)』新潮文庫

          食通のおじ(い)さんのイメージがあった池波正太郎。昭和の最後頃の彼のコラムを集めた本である。読んでみると、たしかにおいしいものを食べる話が多いのだが、決して高級な食事を好む美食家ではなく、山の上ホテルの天ぷら屋で「悪いけどご飯に醤油をたらしていい?」と頼むなど、自分が好きな食べ物を好きに食べたい人だったようだ。とはいえ、銀座に出るたびに本当によく食べている。そしてしょっちゅう映画の試写会に出ている。読んだ川口松太郎は「食べ過ぎ、飲みすぎ、(映画を)見すぎ」と感想をもらしたらし

          池波正太郎『池波正太郎の銀座日記(全)』新潮文庫