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くま

最近、熊に人が襲われたというニュースが多い。
襲われた人は怖かっただろう。
噛まれたり引っ掻かれたりして怪我をした人は痛かっただろう。

机の上のちいさな熊の人形が「スミマセン」と謝る。
「キミが謝らなくていいのよ」
私がびっくりして言ってもまだ「スミマセン」と熊は言う。
「きっと山の食べ物が少なかったんでしょう?
柿とか栗とか。私もあんまり食べてないもの」
私がそう言ってもまだ小さな熊はすまなそうにしている。
「そうかもしれないけど、でもスミマセン」

私は心の中で熊のことを考える。
昔昔のおそろしいヒグマの事件をいくつか。
ツキノワグマも人を食べたという事件もいくつか。
襲ってきた熊を巴投げした人のニュースもいくつか。
そして謝っている目の前の熊の人形。

「みんなキミみたいに小さければいいのにね」
私はそんなお話を書きかけている。
熊が小さければ人が食べられたり大怪我したりしない。
「ハイ」
うなだれている小さな熊に
私は今日の散歩で拾ってポケットに入れていたドングリを出してわたした。
「散歩のおみやげよ。今度一緒に行こう」
熊はドングリを両手で受け取った。
ラグビーボールみたいだ。
「落としたら負けよ」
熊はきょとんしたけれど、ツヤツヤ光るドングリを、しっかりと落とさないように持ってペコリとお辞儀した。

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