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私のこと好き?って聞かなくても

「彼に『私のこと好き?』って聞いてみることある?」
私はルカに聞いてみた。
ルカは首を振る。
「ない。だって」
ルカはそこでごくんとアイスミルクティーを飲む。
ルカは寒くても断固いつでもアイスミルクティーだ。
「だって、聞かなくても一日中、朝から晩まで『ルカちゃん大好き』って言われるもん」
はあああぁ…そうでごじゃりますか…私は心の中で脱力する。
そんな人がいるなんて思いもしなかった。
「メグは言われないの?」
「…ない、今まで誰にも」
ルカはまたミルクティをごくんと飲むと天井を見上げた。
きれいな巻いた髪が背中に揺れる。
ルカは可愛い顔を天井から戻して私に向けた。
「これ、貸してあげる」
バッグからごそごそ出したカラフルな、糸を巻いたような小指ほどの人形。南米か。
「きっとこの子が毎日『メグちゃん大好き』って言ってくれるよ。
それに慣れたらそのうち、知らないうちに、好き好き言われるパラレルワールドに行けるから」
「?」
「メグ、この世はミルフィーユみたいにいろんな層になってるんだよ」
ルカは目の前のミルフィーユのパイを一枚、フォークでめくって食べる。私はなんのことか分からない。
「まあとにかく、このお守持ってきなよ」

その晩から私は何度も同じ夢を見た。いや、見えていない。ただ「メグちゃん大好きだよ」という甘く優しい声が聞こえる夢だった。
朝起きた時の幸福感にびっくりした。
日に日に幸せ感が増していった。
夢でもこんなに幸せなんだから実際に言われるルカは幸せだな~
可愛くなるわけだな~
いや、可愛いから好きって言われるんだし。

そろそろ人形のお守りをルカに返そう。と思った頃、
一日中私のことを好きって言ってくれる彼が出来た。
「私のこと好き?」って聞いた時、目を逸らした前の彼の顔をもう思い出せない。
きっとルカのいうパラレルワールドに移動できたに違いない。

(了)

三羽 烏さんの企画への参加です。
三羽さん駆け込みました。よろしくお願いします。


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