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あなたの中の素敵な森へ

「あなたの中には素敵な森がありますね」

ふいにそういわれてびっくりする。

森?私の中に?

そんなもの、ない、です。

おどおどしながら答えると

その人はいきなり私のほうにスマホを構え、

ぱしゃっと写真を撮った。

「ほら、これですよ」

みせられたスマホに映っているのは私の顔ではなく、

瓶の中の森。

木々の間に草や花が茂り、動物たちがくつろいでいる。

まさか。

私は知らない、こんな森なんて。

首をぶんぶんと振るとその人は笑って

私のほうに水平にスマホをかざした

私のスマホに画像が送られてきた音がする

さっきの、森の写真だ。

「あなたの森はこんな香りがするのですよ」

その人は、肩にかけていた空色のサコッシュから

小さな手帳を取り出して

ぱららっと開くと一枚の、

薄緑色の薔薇の花びらのような栞を取り出して

私のほうに差し出した。

私は受け取って鼻に近づける。

目を閉じて匂いを吸い込む。

どこかから風が吹く。

まぶたの裏に森が見えた。

そうだ、この森はこんな香りに満ちている。

目を開くと私は森の中に立っていた。

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