見出し画像

夫と息子と3人暮らしの公務員が、コツコツ投資を10年続けたら、“自己投資“の大切さを感じられるようになった話

先日、コツコツ投資にとりくむ、公務員の河本ゆかりさん(仮名・38歳)にお話をうかがってきました。その際、こんな言葉が印象的でした。

投資をすることで金融資産は成長していきますよね。同じように、自分に投資したら、自分も成長していけるんだ、と思えるようになりました。

ゆかりさんとお会いするのは、著書『臆病な人でもうまくいく投資法ーお金の悩みから解放された11人の投信投資家の話』の取材でお会いして以来、8年ぶりです。ゆかりさんは几帳面な性格で、家計簿もきっちりつけるタイプでした。

彼女はこの間、どのようにして、投資を続けてきたのか。どういった意識の変遷があったのか。神奈川県にあるカフェでお話をうかがいました。


――今日はありがとうございます。改めて、ゆかりさんのプロフィールを教えてください。

ゆかり:変わらず公務員として働いています。夫と息子(11歳)と3人で神奈川県のマンション暮らしです。プライベートで今いちばん時間とお金をかけているのはミュージカル。3年程前からは謎解きにハマっています(笑)。俳優の佐藤健さんが謎解き番組にでていて、謎解きがうまいのです。それで、ハマった感じです。山登りは、最近、息子があまり一緒に行ってくれなくなりました(苦笑)。

息子さんと訪れた、丹沢の塔ノ岳

きっかけは「NISAはじまります」のポスター

――相変わらず多趣味ですね。そもそも投資を始めようと思ったきっかけは何ですか。

ゆかり:子供が生まれて、「教育費は足りるかな」「このまま給与収入だけだとツライのではないかな」と思っていた時に、郵便局で「NISA(少額投資非課税制度)始まります」と書かれたポスターを目にしたのがきっかけです。

――それが2014年の1月。ちょうど一般NISAがスタートした年ですね。どの金融機関もNISA口座開設しよう、と積極的にPRしていました。

ゆかり:はい。ポスターには「投資信託ならドルコスト平均法(*2)で毎月1万円から同じ金額ずつ積み立てられる」という説明がされていました。それで、「NISAって何?」「投資信託って何?」と疑問に思い、勉強を始めました。

それまで投資をするには、たくさんのお金が必要だと思っていたのですが、1万円なら私でも始められる、と思えて、投資のハードルが下がりました。

*ドルコスト平均法:投資信託や株式のように価格が変動するものを定期的に一定の金額ずつ買い付けていく方法のこと。

人気ブログを参考にネット証券口座開設

――そこからどんな行動をしましたか。

ゆかり:投資に関する本を買おうと書店に足を運びましたが、投資本コーナーには株式投資やFX(為替証拠金取引)など、たくさんの本が並んでいて…。どれがよいか自分では判断できませんでした。かといって、初心者がひとりで投資関連のセミナーに参加するのもこわいですし…。

そこで、ネットで情報を収集しました。その時に出会ったのが「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」というブログ。インデックスファンドやETF(上場投信)を使って、あまり手間をかけなくても世界中の株式などに分散投資できる投資法について、ご自身の経験も踏まえて書かれていたので、参考にしました。

同時期に、FP(ファイナンシャルプランナー)の勉強も始めたのですが、かなり役に立ちました。

インデックスファンドを積み立て

――実際に投資を始めたのはいつからですか。

2014年4月にはSBI証券に口座を開設し、毎月1万円から投資信託の積み立てを始めました。最初は「eMAXISバランス(8資産均等型)」というバランス型の投資信託を購入していました。

ただ、投資を始めてみると、(上昇局面でも)バランス型だとそんなに基準価額(投資信託の価格のこと)は上がらないな、と。そこで、翌年(2015年)春には、長期投資が前提なのだからと、株式を中心とする投資に方針転換しました。

その時、参考にしたのは投資信託ブログ「ファンドの海」です。サイトで資産配分のシミュレーションができるので、いろいろ試してみました。そして、外国株式70%、日本株式30%の割合にすると決めて、先進国株と国内株式のインデックスファンド2本を積み立てていくことにしました。

「一般NISA・つみたてNISA」で購入した投資信託
・<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックス(ニッセイアセットマネジメント)
・<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックス(同)

2015年春からは積立額も毎月5万円にふやし、その後も、余裕がある年は毎月6万円にするなど、徐々に積立額をふやしていきました。最初に買ったバランス型投信はそのまま保有しています。

――その後は一般NISA口座で投資信託の積み立てを継続していたのですか。

ゆかり:2018年からは「つみたてNISA」に切り替えました。非課税期間が20年と一般NISAより長く、長期で運用することで利益を得やすいのではないかと考えたからです。

2018年には1年間に積立できる金額が100万円程度になったので、つみたてNISAの非課税投資枠(年間40万円)を超えた分は特定口座で積み立てていました。

――現在、どのような投資をしていますか

ゆかり:現在は月12万円で積み立て投資を継続しています。ボーナスの時に上乗せなどはせず、毎月淡々と積み立てを続けています。

ところで、ずっとNISA口座をメインに積み立て投資をしてきたのに、特定口座に投資信託がいっぱいあるのはなぜなんでしょう?

――えっ!? 一般NISAの非課税期間が5年なので、自分で手続きをして新しいNISAの非課税枠に移さないと(=ロールオーバー)、非課税期間終了時に時価で特定口座(課税口座)に払い出されてしまいますが、まさか…。

ゆかり:え、ロールオーバーしたことはないです。商品と投資のし方を決めて、あとは積み立てていけばよいと思って、あまり見ていませんでした。

――2016年、2017年、2018年に一般NISA口座で積み立てをした投資信託が特定口座に払い出されてしまったんですね…。

ゆかり:わー、そういうことだったんですね。

2024年からの運用方針

――2024年からは非課税期間が無期限になったので、ロールオーバーといった複雑な仕組みはなくなります。NISAはどう活用されますか。

ゆかり:なるべく早めに生涯投資枠を埋めていきたいと思っています。特定口座にある投資信託を少しずつ解約しながら、2024年からのNISA口座で購入しようと思っています。

そこで、一定金額ずつ投資信託を解約していく「定期売却」サービスについて調べてみたのですが、(金融資産全体ではなく)商品ごとに設定しないといけないんですね。保有する商品が多いと、設定が面倒だと思いました。

長期運用をしていき、高齢期に定期的に取り崩していくことを考えると、たくさんの投資信託を積み立てていくよりも、1本に集約したほうがラクなのではないか、と。そこで、2024年からは1本で世界の株にまとめて投資できるインデックスファンドを積み立てようと思います。今は保有中にかかる運用管理費用(信託報酬)も非常に安くなっていますし。

2024年から「NISA口座」で積み立てる投資信託
・eMAXIS Slim 全世界株式<オール・カントリー>(三菱UFJアセットマネジメント)

――iDeCo(個人型確定拠出年金)にも加入されているんですね。

ゆかり:はい。2017年1月に対象者が拡大されて公務員も加入できるようになったので。上限額の月額1万2000円まで利用しています。掛金が少額ですし、運用益非課税なので、iDeCoでは全額先進国株のインデックスファンドを積み立てています。

投資にかける時間は月10分程度

――投資にはどのくらい時間をかけていますか。

いまは投資信託を積み立てるだけなので、月に10分程度です。投信の積み立ては住信SBIネット銀行のSBIハイブリッド預金から自動的に振り替えるサービスを利用しているので、時々口座の残高を確認します。あとは、無リスク資産(預貯金)とリスク資産(投資信託で運用している資産)を5対5にしたいと思っていて、現金が多くなってきた時には投資金額を増やすようにしています。

――コロナショックの時は怖くなったりしませんでしたか?

ゆかり:その時は仕事が忙しくて、それどころではありませんでした。投資しているのも忘れるほどでした。あとからみて「あの時はマイナスだったんだ」と思ったくらいです。

投資を始めた当初は不安で…。資産配分をエクセルに入力、円グラフにして、1カ月値動きをずっと見ていたりしていました。そうする中で、いろんな要因で上がったり下がったりするし、自分ではどうにもならない。ジタバタしても仕方ないな、と悟ったというのはあるかもしれません。

最初はこわくて当たり前。変に悟ったふりをして、無理に見ずにモヤモヤするよりも、「売らない」ということだけ決めて、あとは自分が好きなように行動してみる。納得するまで見たり、ドキドキしたりしてもいいのではないでしょうか。私も、最初は5万円とか10万円程度上がったり、下がったりしたりしただけで、気になって仕方なかったです。でも、悟ってからはあまり気にならなくなりました。

家族との対話、お金の使い方

――ご家族でお金の話はしますか。

ゆかり:夫とは結構お金の話はしますね。どういうふうに投資信託を積み立てているか、なども全部共有しています。最近はいくら貯まったら仕事を辞めてもいいか、といったことも話題になりますが、それについてはまだ全然ゴールが見えず(苦笑)。

――共有した方が目標を立てやすいからですか。

ゆかり:単に夫といろいろ話すのが楽しいんです。気になったことは、何でも積極的に話しますし、いろんな話をするので、お金もそのうちの一つという感じです。

――家計管理もキッチリされていましたよね。

ゆかり:家計管理用のエクセルをつくっています。支出については住宅費を夫、食費を私が負担し、それ以外は出した金額をメモしておいて、それぞれがエクセルに入力。例えば、旅行した時も、高速代いくら、駐車場代いくらという具合に入力し、完全に折半してます。

以前は1カ月に1回清算していましたが、今は面倒になって3カ月に1回にしています。10年分くらい過去のシートが残っていますよ(笑)。

ただ、お互いにいくら金融資産があるかは知らないです。たぶん夫は私の3分の1くらいじゃないかと思うのですが…。今度きいてみます。

お子さんの教育資金

――ダンナさまも投資はされているんですよね。

ゆかり:はい。2018年からつみたてNISAで投信の積み立てをしています。お父さんも運用方針は同じです。私がNISA口座を開設して、投信の積み立てを始めたことを伝えると、「俺もやりたい」というので、設定なども含めてサポートしましたし、新NISAについても、「勉強したら教えて。全部お前と同じにする」と言ってますから(笑)。

あと、勤務先で企業型DCに加入していて、外国株式80%、国内株式20%に設定して、インデックスファンドで積み立てているようです。

――お子さんの教育費はどのように準備していますか。

ゆかり:2018年からジュニアNISAを利用し始め、合計すると480万円分くらい投資信託を買い付けました。成人(18歳)になるまではこのまま非課税で運用を続け、大学費用に充てる予定です。長期の運用になると思い、ジュニアNISA口座では、すべて外国株式のインデックスファンドで運用しています。

体験にはお金を惜しまない

――投資以外のお金の使い方で何かこだわりはありますか。

ゆかり:思うところがあり、小さい子どもに対しては積極的にサポートしたいと思っていて、子ども支援専門の国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」に毎月一定額を寄付しています。投資同様、少しずつ寄付額をふやしています。

買い物する時には、金額よりも、何回使うか、どのくらい共に過ごせそうか、という視点で検討しますね。そして、体験については「基本やる!」と決めています。先輩に誘われて始めたボルダリングもそうですし、2カ月に1回くらいは家族でどこかに出かけています。体験については、躊躇せずにお金を使おうと思っています。

職場の先輩に誘われて始めたボルダリング

――投資を続けてきて、何か考え方が変わったことはありますか。

ゆかり:変わったこと、というか、人生いろんなことがあるんだな、と最近思います。例えば、ここ数年でみても、自分が病気をして入院したり、子供が中学受験すると言い出して塾に通い始めたり…。自分では想定していなかったことが起こります。心配の種はいろいろありますが、(投資を続けてきたことで)そのうちの大きな柱のひとつであるお金の心配をしなくていい、というのはありがたいと思います。

――8年前にお話きいた時には老後が心配。そして、老後は田舎(ご夫婦とも岩手県出身)で暮らしたいとお話していましたが、今もそうですか。

ゆかり:その時は老後が不安で仕方なかったんですよね…。だから、こうなったらいいな、という夢の話をしていたんだと思います。

家は賃貸です。退職後は田舎で暮らしたいと思っていましたが、関東は公共交通機関でどこでも行けるし、ミュージカルも気軽に観られるし、そのまま住んでいたいという気持ちもあります。住まいについては今後じっくり考えたいですね。

以前は、自分が今したいことよりも老後のためにお金を貯めることを優先していたので、例えば、お小遣い制にして「今月は3万円が自由になるお金」と決めないとお金を使えない人だったんです。

それはそれで、すごい窮屈だなって思うことも正直あって…。投資を通じて少しずつでもお金がふえていることで、今の自分にもう少しお金を使ってもいいかも、と思えるようになったのが一番の変化かもしれません。以前は本を1冊買う時も「これは買う価値があるか」「いくらお金が減るか」という発想になってましたから。今思うとケチですよね(笑)。

――ゴールはどこにおいていますか。

ゆかり:とくに目標金額などは決めていないです。夫とは、勤め人よりも、もう少し自由な働き方をしたいよね、と話していますが、まだ具体的なことはわかりません。これから何をしようかな、と考えているとことです。何かしたいことが見つかったときに、お金を理由にあきらめることがないようにできればよいですね。

投資してよかったこと

――投資を始めたことで、投資以外に何かリターンは得られましたか。

ゆかり:投資の勉強を始めるときに、2級ファイナンシャル・プランニング技能検定を受けたことで、社会保険に詳しくなったことですね(合格!)。社会保険は知っているかどうかで、安心感が違いますし、自分で蓄えておくべき金額も変わってきます。そういう意味では知識を得られたのは大きいです。

また、仕事に関連する、産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を取るのに結構お金がかかりましたが、(投資をして少しずつお金がふえている安心感から)講座を受けたり、テキストを買ったりすることに、躊躇することなく、お金をかけられました。資格の取得には時間もお金もかかりましたが、身についてよかったです。

投資をすることで金融資産は成長していきますよね。同じように、自分に投資したら、自分も成長していけるんだ、と思えるようになりました。お金はあれば困らないけれど、たくさんあれば精神的に豊かか、というと必ずしもそうではないと思うので、少しずつ自分にも投資して、人間的にも大きくなろう、と思えたことがいいことかな…。

投資についても、また8年も経ったら状況が変化しているかもしれません。今後も、自分の知識をアップデートしていきたいと思います。


編集後記
今回の取材で2つ感じたことがあります。
ひとつはバランスシートの資産部分に何を積み上げていくか、ということです。私は、ことあるごとに、個人も1年に一度、バランスシート(B/S)を作りましょう、というお話をしています。

その際、B/Sの資産に積み上げていくのは金融資産だけではありませんよね。老後にお金がたくさんあっても、友達が1人もいない、何も楽しみがない、では寂しいです…。

もちろん、土台として金融資産+健康(これは本当に大事!)は必要ですが、知識や経験、家族、仲間、趣味、つながり、信用など、未来に向けてどんな資産を積み上げていくか、は1人ひとりがしっかり意識したいところです。

2つ目はこれまでのNISAの複雑さ。ゆかりさんのようなしっかりさんでも、一般NISAでロールオーバーを忘れて気づいたら課税口座に移されていた、という"事故"が起こるくらい旧NISAは手続きが煩雑でした。

2024年からは非課税保有期間が無期限化され、だいぶシンプルになります。NISAはあくまでも器ですから、どこの何に投資をして、どう運用していこうか、といった本質の部分をしっかりと考えて資産形成していきたいですね。

いただいたサポートは取材に協力してくださる投資家さんへのお土産と、遠くに住む方に会いにいくときの移動代に充てたいと思います。あちこち飛んでいきたい!