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月の雫

蝶が舞っている

透明な液体を垂らしながら舞っている

芳ばしい匂いを漂わせている部屋の中に

バカな蝶は入って行った

真っ暗な黒い世界の中で一筋の光が見えている

あれは、赤なのか 青なのか 翠なのか

黄色くないその光は、空気を降りてくみたいに落ちてきた

クラクションの音が聞こえてくる

だんだん近づいてきた

身体を前に出そうと力を入れても動かない

どうしよう

クラクションがなっている

黄色くない光は目の前にまで来ている

近づかれてやっと分かった

それは目だった 眼球だった

複眼の集合体が光のように見えているだけだった

毛むくじゃらの体毛に覆われているその怪物は

いつも私を捕まえようとしてくる

車が近くにいるのがわかる

私の体はもう動けない

車に払われてみようか

それともこの怪物に喰われるというのもいいかもしれない

どちらにせよ

私は流れるままに生きるだけだ

誘われるままに生き、請われるままに過ごす

それは なんと楽しい生涯なんだろう

多くのシーンが脳内で巡っている

時間はない

この先はこのあとの私に託すとしよう

では、ひとまずお先に失礼






蝶が舞っている

目を剥いたまま、それは翔んでいた

怪物は悔しがっている

車は満足していた

黄色い光は、イカれた蝶の舞をぼんやりと見つめている

イカれた蝶は、まだ透明な液体を垂らし続けていた

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