水無川 渉

横浜詩人会会員、ネット詩誌 MY DEAR 同人、詩誌marubatsu同人。MY D…

水無川 渉

横浜詩人会会員、ネット詩誌 MY DEAR 同人、詩誌marubatsu同人。MY DEARへの投稿作を中心に、自作の詩を投稿していきます。 http://www.poem-mydear.com/

最近の記事

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はじめまして

コロナ禍のステイホームをきっかけに、詩を書き始めました。 それまでも読むのは好きで、日本語や英語の詩をよく読んでいましたが、なぜ自分でも書いてみようと思ったのかは、今でもよく分かりません。 いくつか書いてみると、今度はそれを人にも読んでもらいたいと思うようになりました。発表の場を求めていろいろインターネットを調べていて見つけたのが、MY DEARというネット詩誌でした。そこの掲示板では自作の詩を投稿できるだけでなく、評もいただくことができるというのです。 けれども、投稿

    • (詩)自分の顔

      自分の顔 ある朝いつものように家を出て いつもの道を駅まで歩いていると 十メートルほど先を歩く一人の男 その後ろ姿を見て 奇妙な感覚に襲われる ぼくと同じ背格好 同じような紺のスーツを着て 同じような革靴を履いている それは自分の後ろ姿のよう 自分の背中など ほとんど見たことがない 鏡で見るのはいつも正面からの姿で 後ろ姿を撮った写真や動画もない それなのに 今前を歩いている男は ぼく自身ではないか そんな思いに囚われた 同じ歩幅 同じ速さで歩くので 互いの距離は変わ

      • (詩)光

        光 はじめに暗闇があった おれが生まれたのは ぬるぬる生暖かい暗黒世界 ここでおれはすくすく育った おれが立つ大地には 酸の混じる有機溶岩が流れ すべては柔らかく形なく そして暗かった 言い伝えによると この闇はもう一つの闇からうまれ その闇もまた別の闇から生まれた それは果てしない闇の連鎖 だが別の伝承によると この闇の世界の外には 別の世界があるという そこは光に満ち 冷たく乾いているらしい でもおれは光が何かを知らない 光の世界が実際どんなところか 誰も見たこと

        • (詩)呼吸

          呼吸 みずみずしい負け戦から戻り 冷たい暗闇に横たわる 傷癒えぬまま涙も枯れ 何もしない ただ息をしているだけ 深くふかく息を吐く 怒りの毒素を 苦い悔恨を 傷口から流れ出る血の匂いを 嗚咽になりきれない悲しみを 何度でも吐き続ける 自分が空っぽになるまで 自分が裏返しになるまで 自分が自分でなくなるまで このまま吐き続けたら 穴のあいた風船のように 無限に小さくなって 世界から消えられるだろうか しかしいつまでも 吐き続けることはできず 仕方なく息を吸う また呪詛が

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        はじめまして

          (詩)リンボにて

          リンボにて 白壁の長い廊下を 健康的な白衣の看護師が先導し 重い鉄扉を開けて 画像診断室に案内する ベッドに寝かされたまま 大きな機械のトンネルに入れられる それはどこか焼場の炉に似ていた 「今から造影剤を注射します  体が熱くなりますのでご注意ください」 腕に刺された針から 刺激性の薬液が入ってくる 造影……ぞうえい…… ゾーエーは ギリシア語で生命のことだったな そんなことを考えていると 全身が燃えるように熱くなった 頭上のスピーカーから 機械の声が降ってくる

          (詩)リンボにて

          (詩)満ち足りた人生

          満ち足りた人生 休日の午後 いつもの喫茶店で 読書にも飽き 外の雨が上がるのを待っている 目の前のカップには コーヒーが半分入っている 砂糖を入れてかき混ぜても 見た目は何も変わらない こういう無為な時間は良くない つい昔を振り返って感傷的になる 初めて喫茶店でコーヒーを飲んだのは中学の時 親に連れられて入ったのだが 家で飲むインスタントとの違いに驚いたものだった あの頃 世界は魔法のような驚異に満ちていた だが成長するにつれて 世界は輝きを失っていった 勉強もそこそ

          (詩)満ち足りた人生

          (詩)灯芯

          灯芯  凍てつく冬の夜 細いからだを捩らせて 黒く冷え固まってしまった君 芯が心を無くしては 燃えてなくなる枯草のようなもの 自分が燃え尽きては光が消える さあ力を抜いて かぐわしい油に身を浸せば いのちがゆっくり沁みてくる それから静かに火を点せば どんなにか弱い糸であったとしても 尽きぬいのち燃やして輝けるだろう (MY DEAR 332号投稿作) 返信転送 リアクションを追加

          (詩)灯芯

          (詩)不屈の花

          不屈の花  国境を超えて突撃してくる兵士が 最初に殺すのは 人ではなく花である キャタピラや軍靴の下で 踏み潰され泥にまみれる コスモスやデイジーたち 花は 病院に落ちてくる爆弾を 止めることはできない 子どもたちが殺される時 抗議の叫びを上げることもできない 花はただそこにあり 蹂躙される でも花は 塹壕に潜む兵士の手帳に挟まれ 爆撃に怯える家族のテーブルに活けられ 故郷を失った子どもたちの頭を飾る 花は燃やされても潰されても生えてきて そのはかない生命の美そのものに

          (詩)不屈の花

          ソマイア・ラミシュさん来日交流会

          早くも年の瀬だが、今年はアフガニスタンにけるタリバンの詩作禁止令に抗議したアフガニスタン出身の詩人ソマイア・ラミシュさんの呼びかけに応えて、全世界の詩人たちが連帯を示したことが印象に残った年だった(たとえばこの朝日新聞の記事を参照)。日本でも詩集『詩の檻はない』が刊行され、共感を持って読んでいたのだが、この度ソマイアさんが来日し、地元横浜で日本の詩人との対話が行われるということで、本日(12月19日)参加してきた。 横浜ことぶき協働スペースを会場に、岡和田晃さん、大田美和さ

          ソマイア・ラミシュさん来日交流会

          (詩)花

          花 この小さな白い花は 十五の時の失恋から となりに群れている薄紫の花は 同僚からの誹謗中傷から むこうに咲いている真紅の花は 親友の裏切りから育ったもの 心がえぐられた後 そこから何かが生えてくる 茨 毒草 あるいは美しい花が 心の園丁の仕事は 何が生えているかに注意して 雑草を取り除き 花を守り育てること 多く傷つき 多く癒やされ 幾多の失敗を経た今  この庭は花で覆われている 風が吹くと ほのかに甘い香りが広がる 今目の前にあるのは まだ真新しい傷あと 何も生え

          (詩)川

          川  小さな川が流れている 両岸には 向かい合う二本の木 川は深くも広くもないのに 渡ることはできない ぼくはきみに想いを寄せている だが自分の岸に足を取られたまま 一ミリも近づくことはできない 春 ぼくはおずおずと 小さな花を咲かせ 対岸のきみに微笑みかけた きみもはにかみながら やさしい香りを そよ風に乗せて送ってくれた 夏 川遊びに疲れた子らの頭上に 緑の葉を広げながら ぼくはきみを見つめていた 子どもたちは笑いながら 深くも広くもない川の両岸を 苦もなく行

          (詩)メモ

          メモ  わが家が使っている宅配サービス 肉や野菜 乳製品など たくさんの食品を毎週届けてくれる 配達員は二十歳前後の青年 重い発泡スチロールの箱を 何段も重ねて運んでくる 新入りなのだろう 作業が遅くて いつも午後三時頃にやってくる でも爽やかな笑顔で挨拶をし 丁寧に仕事をしていた 配達日に外出することになった週 ドアにメモを貼って家を出た 「配達ご苦労さまです  今日は不在ですので  玄関前に置いておいてください」 帰宅すると 返事のメモが貼ってあった 「わざわ

          (詩)メモ

          (好きな詩)わたしたちが正しい場所 

          わたしたちが正しい場所 イェフダ・アミハイ わたしたちが正しい場所からは 花はぜったい咲かない 春になっても。 わたしたちが正しい場所は 踏みかためられて かたい 内庭みたいに。 でも 疑問と愛は 世界を掘り起こす もぐらのように 鋤のように。 そしてささやき声がきこえる 廃墟となった家が かつてたっていた場所に。 (村田靖子訳) ***** イスラエル・パレスチナにおける、いつ果てるとも知らない紛争に、やり場のない憤りと無力感を感じる。ハマスのテロ行為は断じて

          (好きな詩)わたしたちが正しい場所 

          (詩)変わり種

          変わり種 川沿いの土手 陽当たりの良い南向きの斜面に ぼくは生まれた 斜面を覆う緑の絨毯から 青空に向かって細い茎を伸ばし 緑の葉を大きく広げた けれどもいつの頃からか気づいた 自分の姿が周りとは違っていることに 変わり種のぼくを見た仲間たちは 時に囃し立て 時に無視したが 決して受け入れることはなかった だがどんなに辛くても もって生まれた姿を変えることも 生きる場所を変えることもできない 緑の土手は生き地獄だった そんなある日 いつものように ひっそりと葉を広げ

          (詩)変わり種

          (詩)気持ち

          気持ち わたしの気持ちなんて あなたには分からない と君は言う 正論には返す言葉がない 君が感じる痛みを ぼくは感じることはできない どんなに強く抱き合っても 心と心は十センチ以上近づかない 言葉――それも無力だ 食いしばった歯の間から 君が魂を絞り出した後で 「分かるよ」という言葉が いかに空々しく響くことか でも君も分からないだろう 君の気持ちが分からないぼくの 無力感とやり場のない怒りを 分かり合えない悲しみと それでも分かり合いたいという 痛いほどの想い そ

          (詩)気持ち

          (詩)ゲリラにやられて

          ゲリラにやられて  やられた 曇り空だと油断して出かけたら 突然 滝のような雨 ちっぽけな折り畳み傘は 横殴りの雨には無力だ あっという間に アスファルトの道路には水が溢れ ズボンと靴はびしょ濡れになる たまらず最寄りの喫茶店に駆け込み 雨が弱まるのを待つ 窓際の席で一息つき 運ばれてきたコーヒーを飲みながら ぼんやり外を眺める 近年ゲリラ豪雨という言葉をよく聞く 予測不能で突発的な集中豪雨 昔は驟雨と言っていたものだ スコールという言葉もあるが 熱帯にしかないものと

          (詩)ゲリラにやられて