皆木@書評

皆木と申します。気の向くままに書評をしていきますので、読んでいただけたら嬉しいです。よ…

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皆木と申します。気の向くままに書評をしていきますので、読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

最近の記事

『きこえる』道尾秀介 書評#13

今回は道尾秀介さんの短編集『きこえる』を紹介します。 あらすじ短編小説を読むとともに音声を聞くことで物語が完成する、新しい形式の小説でした。ページに印刷された二次元コードを読み込むとYoutubeの動画が開かれて、その音声を聞くと物語にどんでん返しが起こります。 「聞こえる」 「にんげん玉」 「セミ」 「ハリガネムシ」 「死者の耳」 の5編が収録されていました。 この中で好きだった「ハリガネムシ」のあらすじを紹介します。 主人公は30歳の塾講師。講師といってもアルバイトで

    • 『六人の嘘つきな大学生』朝倉秋成 書評#12

      今回は、朝倉秋成さんの小説『六人の嘘つきな大学生』を紹介します。 あらすじ舞台は大人気SNS“スピラ”を運営する株式会社スピラリンクスの入社試験。5000人以上もの応募を勝ち抜いて最終選考に残った6人の大学生が今作の主な登場人物です。物語の前半は最終選考が終わるまでを描いており、主人公・波多野祥吾の視線で語られます。 最終選考はグループディスカッションの形で行われ、結果次第では6人全員に内定が出るという条件でした。6人は皆で協力して選考の準備に忙しくします。そんな中「内定者

      • 『青空と逃げる』辻村深月 書評#11

        今回は、辻村深月さんの小説『青空と逃げる』を紹介します。 あらすじ主人公の本条早苗は、元舞台女優の主婦で、ひとり息子の力と2人で暮らしています。といってもシングルマザーではなく、夫は劇団で出会った先輩俳優・本条拳です。主人公とは違って俳優業を続けていた夫は、舞台で共演予定だった有名女優が事故を起こした自動車に同乗しており、相手事務所に追われていました。早苗と力にも事務所からの圧力がかかるため、2人は東京の自宅を離れてゆかりのない地逃げている途中です。 2人が逃げる先で出会っ

        • 『プレデター』あさのあつこ 書評#10

          今回は、あさのあつこさんの小説『プレデター』を紹介します。 あらすじ舞台は2032年の日本。都市再開発計画の名のもとに首都がAからGまでの七つのゾーンに区切られ、格差社会化が進んでいる時代のお話です。主人公の明海和はWeb情報誌の記者として、格差社会のさらに外側で起こっていることについて取材しています。ゾーンの中で暮らす人々は自分の暮らしに満足していましたが、果たしてそれは本心からのものなのか、格差社会の格差からも零れ落ちた子供たちはどう生きていくことになるのか…真相に迫る

        『きこえる』道尾秀介 書評#13

          『嫌いなら呼ぶなよ』綿谷りさ 書評#9

          今回は、綿矢りささんの短編集『嫌いなら呼ぶなよ』を紹介します。 あらすじミニーマウスになりたい会社員の女性、YouTuberにはまって全動画にコメントを書くアルバイター、不倫してもなお自分の美しさに酔う男性、作家とライターのケンカに挟まれる編集者。この4人をそれぞれ主人公とした4篇が収録されています。 見どころそれぞれの短編に現代を生きる人の悩みや歪みが一人称で語られて、主人公たちの率直な心の声に惹きつけられ続けます。 感じたこと今の時代のどこか歪んだ人の気持ちを読んで

          『嫌いなら呼ぶなよ』綿谷りさ 書評#9

          『灰の劇場』恩田陸 書評#8

          今回は、恩田陸さんの小説『灰の劇場(はいのげきじょう)』を紹介します。 あらすじ 25年前、2人の女性が一緒に橋の上から飛び降りて自殺した。そんなある事件についての記事を新聞で読んだことを発端として、一人の小説家が「事実に基づく物語」を書き、それが舞台化されるまでを描いたドキュメンタリー調の小説です。作家である「私」が出てくるパートと、小説の中の登場人物であるTとMの2人が出てくるパートが折り重なるようにして次々に入れ替わり、しだいに虚と実の境目が曖昧になっていきながら物語

          『灰の劇場』恩田陸 書評#8

          『美しき凶器』東野圭吾 書評#7

          今回は、東野圭吾さんの小説『美しき凶器』を紹介します。 あらすじ 世界的な記録を持つ元アスリート4人が、ある邸宅に侵入して研究者の男を殺害します。彼らの目的は、男が持つ過去の記録を葬り去ることでした。しかしそれが彼らの恐怖の始まりでした。やっと過去を消し去った、そう思ったのも束の間、研究者の遺した“凶器”に1人また1人と襲われていきます。その凶器の正体とは、そして4人の結末はどうなるのでしょうか。 見どころ 最近の東野圭吾作品はもっと淡々としたミステリーのイメージがあるの

          『美しき凶器』東野圭吾 書評#7

          『マイクロスパイ・アンサンブル』伊坂幸太郎 書評#6

           今回は、伊坂幸太郎さんの小説『マイクロスパイ・アンサンブル』を紹介します。 あらすじ ある若い男は、子どもの頃にひどい父親と周りの人々から逃げている途中、先輩であるエージェント・ハルトに助けられたことがきっかけでスパイ任務に当たるようになります。そして平凡な会社員の男は、失恋したり、また新たな恋を始めたりします。この2人がメインの登場人物で、本作は2人とそれを取り巻く人々との7年間を描いた物語です。 見どころ 筆者はあとがきで知ったのですが、この本は福島県の猪苗代湖で行

          『マイクロスパイ・アンサンブル』伊坂幸太郎 書評#6

          『はじめての』島本理央,辻村深月,宮部みゆき,森絵都 書評#5

           今回は、アンソロジー小説『はじめての』を紹介します。 あらすじ 大人気ユニットYOASOBIとのコラボレーションのために、人気作家4人が書き下ろした短編集を集めた作品で、小説のテーマは、「はじめて〇〇したときに読む物語」となっています。収録作品と対応する曲はこちらです。 「『私だけの所有者』ーはじめて人を好きになったときに読む物語」(島本理生):「ミスター」 「『ユーレイ』ーはじめて家出したときに読む物語」(辻村深月):「海のまにまに」 「『色違いのトランプ』ーはじめて

          『はじめての』島本理央,辻村深月,宮部みゆき,森絵都 書評#5

          『鈍色幻視行』恩田陸 書評#4

          今回は、恩田陸さんの小説『鈍色幻視行(にびいろげんしこう)』を紹介します。 あらすじ主人公の蕗谷梢(ふきやこずえ)は小説家で、“呪われた小説”である『夜果つるところ』に関する作品を書こうとしています。小説とその著者である飯合梓(めしあいあずさ)について調べるため、関係者が集まるクルーズ船の旅に夫と共に参加し、そこで集まった人々の話に耳を傾けていく…というストーリーになっています。 集まった面々はとても個性的で一筋縄ではいかない人ばかり、そして再婚同士である夫の雅春の前妻につ

          『鈍色幻視行』恩田陸 書評#4

          『物語の種』有川ひろ 書評#3

          あらすじみんながみんな、前代未聞のウイルスに悩まされているとき、有川ひろさんが始めた企画から生まれた短編集です。KADOKAWAのサイト上に応募フォームが開設されて、読者からのエピソードを”物語の種”としてそれぞれの短編が生まれたそうです。応募されたエピソードとはいえ、完全に独立しているものだけでなく連作短編になっている部分もあり、読みごたえがありました。 個人的に好きだった1篇『ぷっくりおてて』のあらすじをご紹介します。主人公は小学生の夏休み、両親の旅行のために田舎のお

          『物語の種』有川ひろ 書評#3

          『骨灰』冲方丁 書評#2

          今回は、冲方丁さんの小説『骨灰(こっぱい)』を紹介します。 あらすじ大手デベロッパーの社員・松永光弘(まつながみつひろ)はSNS上のつぶやきがきっかけで地下深くにある現場の安全確認に訪れます。そのつぶやきには、「いるだけで病気になる」「火が出た」「作業員全員入院」「人骨が出た」といった看過できない内容が含まれていました。現場にある大きな”穴”に拘束されている人物を見つけ、その人を解放したことで、主人公にはさまざまな恐怖が襲い掛かる、という現代を舞台にしたホラー作品になってい

          『骨灰』冲方丁 書評#2

          『月夜行路』秋吉理香子 書評#1

          今回は、秋吉理香子さんの小説『月夜行路(げつやこうろ)』を紹介します。 あらすじ夫との関係は冷え切り、子供からも家事をする人としてしか必要とされていないと感じている主婦・辻沢涼子は、夫の浮気相手を突き止め、単身銀座へ乗り込むことに。そこで偶然出会ったゲイバーのママに聞き出されるまま身の上話をしているうちに、ママと一緒に涼子の初恋の人を探す旅に出ることになります。突然始まった旅で見たこと、聞いたことは涼子の人生をどう動かしていくのか、というロードムービーになっています。 筆者

          『月夜行路』秋吉理香子 書評#1