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本と寝る男。年間百冊は抱かれている。元ギャンブル中毒のニートがゼロから這いあがり、いつ…

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本と寝る男。年間百冊は抱かれている。元ギャンブル中毒のニートがゼロから這いあがり、いつか本を出すってのが憧れ。だから短編小説やコラムをnoteに書いてます。シャラポワと同い年。

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終電に生かされた僕は、始発電車で死を選ぶ。【短編小説】

死のうと思っていた。 終電間際の電車を自宅の最寄駅でおりたぼくは、もう用のないプラットフォームにあるベンチへ腰をおろす。 ぼくの背面にもうひとつベンチがある。そこに座っているひとりと、ぼくだけしかいない駅のホームは、しんとした静けさを保ちながら最終電車の到着を待ち構えていた。 最終電車に飛び込み、ぼくは死ぬ。そう決めたのは、今日会社を出たときのこと。 日中は春がきたのかと思わせられる日差しに体を暖められたが、夜が深くなった今はそのことが虚構であったように寒い。

    • 繰り返す日常にある、かけがえのない日常

      カーテンの隙間から、定規で引いたような光が差し込んでいた。 そのせいで机に広がる何人かのノートは、まるでそれ自体が発光してるみたいに白く光っている。ああなるともう、ノートをとるたびに目がチカチカしそうだな。そんなことを考えていたら、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 先生が出ていくと、さっきまでの静けさがウソのように教室は騒がしくなった。放課後ミスド行こう!と話す女子の音。今授業をしていた先生のモノマネをする男子の音。椅子を引きずる音。誰かが歩く音。カーテンを開ける音

      • 淫欲

        ケイジュのオイタが発覚したのは、彼の家のベッドで夜戦を繰り広げた数十分後のことだった。その日は春の爽やかさが一日中続くような、とても心地の良い夜だった。 戦のあと、ケイジュはいつも裸のまま果てるように眠ってしまう。今も私の隣ですうすうと寝息をたてている。気持ちよく眠るケイジュの素肌に、私の素肌を重ねる。生暖かい体温が直に伝わる。そんな満たされた布団の中に身をゆだねていたとき、ふと枕元のスマホが光った。 <明日の夜ヒマ?家泊りに行っていい?> 画面に映し出されていたLIN

        • レディ・プレイヤー1がヤバすぎた。

          先日、遅ばせながら『レディ・プレイヤー1』を見た。面白すぎてもう4回も見た。 ある日、BTSの配信があるとか何とかで、我が家のテレビは嫁に牛耳られていた。全く興味のないぼくはアイフォンを手に取り、プライムビデオを開いた。そこに表示されたのがレディ・プレイヤー1だった。 監督はスティーヴンスピルバーグ。これだけでSFキッズにはたまらない作品間違いナシなのだが、本作はその一言で収まりきらない興奮があった。 舞台は2045年の地球。その時代を生きる人々は、大半の時間を「オアシ

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        終電に生かされた僕は、始発電車で死を選ぶ。【短編小説】

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        • 連載短編小説集
          2本

        記事

          カメのち晴れ【1万字】

          「きっと元気になるよ」 嫁はみんなを励ますように言った。 現実に感情が追いつかないぼくは、何を言い返すこともできなかった。 家についたのは、夜の10時を過ぎた頃だった。 リビングのドアを開けるなり、ぼくはコンビニで買った缶ビールを開けた。 飲みなれた発泡酒。本物のビールより味は劣る発泡酒。でも、これほどマズいと感じたのは初めてのことだった。 1我が家にはカメがいる。1年と8か月ほど前からいる。 小5の娘がカメを飼うと言ったから。或いは、小3の息子への教育として、

          カメのち晴れ【1万字】

          地球Eye

          昨日はもうすっかり冬だなとつい呟いてしまうほど寒かったのに、今日はそのことがまるでウソだったみたいに暖かい。 ホットかアイスか、自販機の前で決めあぐねたあげく、両方のボタンを押してあとは運に任せる。そんな様子で、季節は秋と冬を気まぐれに選んでいるようだった。 「はいこれ。ホットのほうが良かった?」 公園のベンチに座る彼女に、ぼくはふたつ買った缶コーヒーのひとつを渡した。 「いや今日はどう考えてもアイスやろ。ありがとう」 怒っているのか感謝しているのか分からない彼女の

          左肘から先のないジジイと、黒マッチョなジジイの生き様に教わったこと

          ぼくの家の近所に、とある公園がある。 公園の中央には、タコの形をした滑り台が「我、覇者ナリ」と言わんばかりに踏ん反り返っている。故にその公園はタコ公園と呼ばれ、ぼくが子どもの頃から今に至るまで、町の人々からずっと親しまれている。 そこにいつも、天気がいい日はほぼ毎日居るといっても過言ではない、ひとりのジジイがいた。はじめてそのジジイを見たのは、娘が2〜3歳のとき。だからもう7年ほどまえのことになる。 黒のキャップに黒のマッチョタンク、マラソンランナーのような短いズボンと

          左肘から先のないジジイと、黒マッチョなジジイの生き様に教わったこと

          本当の幸せなんていらない

          銀河鉄道の夜を読んだ。 さっぱり意味が分からない。それが率直な感想だ。 え、これって何かの数式ですか?これがフェルマーの最終定理ってやつですか?と思ってしまうほど難しかった。 「今日の晩ご飯はどう?」と嫁に聞かれ、「あんまり旨くない」と返答すると、急激に機嫌が悪くなった嫁ぐらい、意味が分からなかった。 嫁は昔、確かにこう言った。 「ウソは嫌いや」と。 あまりに理解できなかったので一度昼寝を挟むことにした。いつか読んだ本に、「人間は寝ている間に思考が整理される」と書

          本当の幸せなんていらない

          さくらという本を読んだ。死にたくなった。でも、生きようと思った。

          「お前はカッコつけやったからなぁ」 西加奈子さん著書さくらを読み終えたとき、ぼくが小学6年生だったときの担任にそう言われたことを思い出した。 ぼくはむかし、生粋のカッコつけだった(今もかもしれないが)。 小学生の頃は、雨に濡れながらサッカーをすることが本気でカッコいいと思っていた。一年中半袖を貫き通すことが最高にセクシーだと思っていた。 そんなぼくが写真にうつるとき、もちろん一般的なピースなどしない。人差し指と親指だけをぴんと伸ばし、その手をアゴのラインにそってそっと

          さくらという本を読んだ。死にたくなった。でも、生きようと思った。

          ずっと小学生の彼のように。

          「ずっとパワプロしてる」 そう言いながら、彼は冷めた餃子を生ビールで流し込んだ。 先日、仕事の関係で東京へ引っ越した友だちが、連休を利用して地元に帰ってきた。 「時間が合えば飲みにでも行こう」 そんなやり取りをしていたことなどすっかり忘れていたぼくは、彼から送られてきた「今どこ?何してん?」のLINEで、彼が今大阪にいることを思いだした。 LINEが来たのは、子どものゲームタイムが終わり、やっとこさぼくの番が回ってきたときのことだった。「出てこいゲンガー!君に決めた

          ずっと小学生の彼のように。

          「まとも」って、必要ですか?

          今から3年と少しまえ。 ぼくはそれまで日課だったパチンコを辞め、趣味を読書へ切り替えることにした。ぼくにとって、それはとても大きな変化だった。 朝目覚めたらカラダが入れ替わっていて、おっぱいをふにふにと触るあいつに起きた変化ぐらい、ぼくのなかでは大きな出来事だった。 ガチャガチャうるさい場所じゃなく、物音ひとつ聞こえない場所が好きになった。今までムダにしてきた時間を取り返すように、濃密な時間を過ごすことに力を入れるようにもなった。 家をでる10分前に起床していた自分が

          「まとも」って、必要ですか?

          ぼくには書きたいことがない。

          ぼくには書きたいことがない。 ゼロと言えばウソになる。実際、今も酔っ払った頭を何とか抱えて、スマホに指を滑らせ、こうやって何かを書いているわけだから。 書くことが楽しい。 そう感じたこともある。時計の短針が、数字を2、3個置きに飛び跳ねて進んでいくような、そんな感覚に陥るほど没頭して書いたこともある。 書くことが好きか嫌いか。 どちらかと言えば多分好きだ。本当に嫌いなら、一文字辺り一円が振り込まれるわけでもないこんなことに、わざわざ時間を割きはしないだろう。眠たい目

          ぼくには書きたいことがない。

          なあ。大切なのは、月が何色なのかじゃなく、何色に見えたのかじゃないか?

          「私たちは家族なんだから」 一見、優しいコトバに見える。辛いときに一言、そう声をかけられると、凍える寒さのなかで飲むホットコーヒーのように、胸の奥がじんわりと暖かくなりそうなものだ。だけど、様々な状況を想像してみると、そうでもないことが分かってくる。 働きもしない父親にお金をせびられたとき。個のわがままでしかない意見を血の繋がりを武器に押し通されたとき。自分が原因でもない親族の責任をなすり付けられたとき。 そんなときに「家族なんだから」と言われたらどうだろう。ふざけんな

          なあ。大切なのは、月が何色なのかじゃなく、何色に見えたのかじゃないか?

          電話越しの乾杯【短編小説】

          「乾杯したいな。ほら、わたし乾杯がとても好きでしょう?」 iPhoneの電話口で、彼女はもの寂しそうにそう言った。 「乾杯が好きなんて、君はまた珍しいことを言うね」 ふっと笑いながらそう返したぼくは、自宅の冷蔵庫から缶ビールを一本とりだし、リビングのソファにどさっと座った。 ぼくの彼女はときたま変なことを言う。それも、この情報はすでに共有済みでしょうというニュアンスで。交際をはじめたころはそのことに違和感を感じたりもした。だけど、2年ほど付き合いを続けた今では、今度は

          電話越しの乾杯【短編小説】

          ぼくは今日、昨日の焼肉とデートしたい。

          家を出ると、外は久しぶりの快晴だった。それは今までの長い長い雨を帳消しにしてくれと言わんばかりの天気で、それどころか夏を感じさせるほどの強い暑さも伴っていた。その暑さを助長するように、辺りではセミが大きな声で合唱していた。 昨日の午前9時。 マクドナルドでエッグマックマフィンのセットをドライブスルーしたぼくは、近所の海を目指して車を走らせた。海と言っても、砂浜があるわけではない。むしろ周辺に工場しかないその海は、海水浴なんてとてもじゃないができない海だ。それでも、見渡せば

          ぼくは今日、昨日の焼肉とデートしたい。

          小説という虚構にこそ、真実があったりするんじゃないかな。

          所詮、小説はフィクションだから。 そう言われたぼくは、率直にむっとした。自分の好きなものをバカにされた気がしたからだ。大切にしていたおもちゃをゴミ箱に投げ込まれた。そんな気持ちにさせられたからだ。 確かに、小説の多くはフィクションだ。家に帰るとガネーシャと名乗る神がいて、どうしようもない自分を救ってくれた。そんな新事実が新聞の一面に踊ったことは今日まで一度もないだろう。 一目惚れした相手が、実は自分の世界とは異なるひとだった。それどころか、自分の生きる世界と相手の生きる

          小説という虚構にこそ、真実があったりするんじゃないかな。