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「原価率50%」商法はナンセンスでしかない

 最近、「ステュディオス」「ユナイテッドトウキョウ」を展開するトウキョウベースや、生産工場とダイレクトにやり取りして製造販売するファクトリエなどの新興企業が注目を集めています。彼らの「売り」は高品質で割安感のある洋服の提供です。そのために非常に高い原価率をそれぞれ誇らしげに強調しています。ファクトリエは基本的に原価率30%以上ですし、トウキョウベースは最近では「原価率50%」がブランドコンセプトではないかと思うほどに前面に押しています。 

先日、「MONOMAX」というモノ系雑誌でトウキョウベースの「ユナイテッドトウキョウ」がタイアップと思われる記事を4ページほど掲載されていたのですが、その記事のテーマに驚きました。なぜなら「原価率50%」だったのです。 

経済誌や業界紙は単に「カッコイイ」とか「イケてる」だけでは記事になりませんから、原価率だとか利益率だとかそういう指標が求められます。ですが、モノ系とはいえ普通の雑誌で「原価率50%」という大見出しはちょっと普通では考えられません。これと同様のことをよくやらかしてしまうのが、産地ブランドとか伝統工芸系のブランドです。モノの品質の高さのみにクローズアップしたアピールをよくします。しかし、それが成功した事例はほとんどありません。 

ですから、原価率の高さのみが品質を測る基準としてアピールするのはちょっと危険で、イケてない産地ブランドや売れてない伝統工芸系ブランドと同じではないかなと思わざるを得ません。


 そもそも彼らがどうして原価率を開示してその高さをアピールしているのかというと、これまで大手として君臨していた百貨店向け・専門店向けアパレルブランドの凋落が著しいからです。どうして凋落したのかというと、それには様々な要因が複雑に絡み合っているため、一言にまとめるのは難しいですが、商品の見た目・品質がチープになったからということも一因として挙げられます。 

2005年ごろ以降、百貨店向け・専門店向けアパレルブランドの商品の品質は如実に劣化しました。理由は様々ありますが、まず、考えられるのは売れ行き不振によるものです。バーゲン期間は長くなり、値引き率は拡大しました。 2000年ごろまでは、バーゲン期間は2週間ほどで、値引き率も50%オフくらいが底値でした。冬のバーゲンなら1月の頭から1月20日ごろまででしたが、今では2月中旬ごろまでバーゲン商品が売り場に残っています。そのころには値段も70%オフは当たり前、1000円均一とか990円均一なんていう売り方も珍しくありません。 

値引きして売るということは、大概の場合、一般論としては利益を削っている(赤黒値引きというやり方もあるがここでは考慮しません)ということなので、投げ売りしながらも利益を確保しようとすると、製造原価を下げざるを得ません。使用素材と縫製仕様のクオリティを落として原価を下げるというのがもっとも一般的な方法です。 

原価率が下がったもう一つの理由は、原材料費の高騰によるものです。2005年以降、原材料費の高騰は顕著となっています。なぜ、原材料費が高騰したのかというと、洋服の需要が拡大したからです。中国をはじめとするアジア諸国が本格的に経済成長したことから、人々の給与水準が上がり、ファッション衣料品の需要が増え始めました。ポリエステルやナイロンなどの石油系合成繊維はある程度増産にも対応できますが、綿・麻・ウール・カシミヤなどの天然繊維や皮革は簡単には増産できません。需要が増えて、供給量が足りないとどういうことになるかというと価格が上昇します。 

原材料が値上がりした場合、そのまま使うと店頭販売価格も当然上がります。上げなくてはアパレルブランドが損をしてしまいます。しかし、洋服不況や低価格SPAブランドの隆盛によって価格を上げることはなかなか勇気が必要です。価格が上がると一般的に物は売れにくくなりますから、アパレルの経営者としても店頭販売価格を上げることにはなかなか踏み切れません。ですからブランド側は価格を据え置こうとします。 

そうなると、どうなるかというと、これまでよりクオリティの低い素材を使用しなくてはならなくなってしまいます。そのため商品価格は同じなのに、素材のクオリティは下がったということになります。これが2005年以降、我が国のアパレルブランドが置かれた状況です。 

ある衣料品製造関係者によると、2005年以降、この2つの理由で衣料品に使用されている生地のクオリティはめっきり落ちたといいます。たとえば、某中堅百貨店向けレディースアパレルが展開しているセーター類ですが、2010年以降は、原価率が18%にまで低下しているといわれています。仮にこのアパレルのセーターの店頭販売価格が2万円だとすると製造原価は3600円ということになります。 

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