【凪〜nagi〜】第7話
登場人物
◆七生(なお)…小学校の新人女性教師
◆陵(りょう)…七生が勤める小学校の男性先輩教師
運命が織り合う
陵は、七生が作ってくれたお弁当を夢中で食べ終えて、
「すーーっっごく美味しかった!」と満面の笑みで言った。
七生も最後の一切れの柿を食べ終えてから、
「お粗末さまでした。」と、嬉しそうに言ってから、後片付けを始めた。
二人で一緒に片付けを終えた後、七生はバスケットからジップロックにひとまとめに入れてあるスケッチ道具を取り出しながら、
「絵を描きませんか?」と言った。
スケッチブックと鉛筆、12色の色鉛筆のセットが二人分ちゃんと用意されていて、そのうちの1セットを七生は陵に手渡した。
陵が絵を描くのは、高校の美術の授業以来だった。
しかも高校3年間の美術の成績は、ずっと2。
努力家で頑張り屋の陵は、勉強と運動の成績はよかったが、芸術的なセンスはあまりなかったのだった。
七生から手渡されたスケッチ道具を、陵は恐る恐る受け取ったものの、何を書こうかしばらく考えても、アイデアが全く浮かばなかった。
困り顔の陵の様子を見た七生は、陵のスケッチブックにいたずらな顔をしながら、鉛筆で目の前に咲いているヒメジョオンの花の部分だけを描き始めた。
「ヒメジョオンの花は、一株にどんなにたくさんの花をつけようとも、重なりあってケンカしながら咲き誇るのではなく、それぞれの花が場所を譲り合って、重ならないように仲良く咲くので、私はこの花が好きなんです。」
と言いながら、七生は緻密なヒメジョオンの花の精細画を描き終えて、野に咲く清楚で可憐なその花が、風にそよぐのを見つめながら、愛おしそうな眼差で言った。
そこで思い立った陵も、いたずらな顔をしながら鉛筆を持ち直し、七生が描いた花の部分から、伸びる茎と葉をつたない画力を駆使して描いた。
二人が共同で描いたそのヒメジョオンは、まるで絶世の美女がヨレヨレの衣服をまとって、おぼつかない足取りで歩いているかのように見えたので、二人は顔を見合わせて笑い合った。
それから二人は、一つのスケッチブックに二人で一緒に、一つの絵を、子どものように笑い合いながらいくつも描いた。
七生が、繊細そうな蝶の羽を描けば、陵がそこに線をダイナミックに二本突き刺したような触覚を書き足す
陵が、かろうじて樹の幹と見えるようなものを荒々しく描けば、七生がそこに活き活きと生い茂った枝と葉を書き足す
誰かと一緒にいる幸せとは、これと同じことなのかもしれない。
自分の足りないものを相手に補ってもらい
相手の足りないものを自分が補ってあげる
そうやって、相談しながら二人で、一体感を感じながら同じ理想を形作っていく過程にこそ、互いの幸せはあるのだ。
陵と七生は、互いがいつしか穏やかな幸せに包まれていることに、気が付いていた。
相手を幸せにしたいなんておこがましい
だって、相手はこんなにも生きる幸せに満ちている存在なのだ
自分を幸せにしてほしいなんておかしな話だ
だって、幸せは苦しみながら自分の力で手に入れるものだからだ
すでに幸せである二人が、支え合って同じ方向を目指すから、二人の元に誕生する新しい小さな命や、自分たちを支えてくれる周りの人たちを守ることができる
二匹のモンシロチョウが、仲良く追いかけっこをしながら、二人の目の前を通り過ぎて行った後、二人の言葉がふいに重なった。
「これからも 一緒に 居たい」
「 ずっと 居てもらえませんか?」
==【凪〜nagi〜】第8話に続く==
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