見出し画像

鬼を喰う口

ガチャリ。
玄関の開く音。
「なんか来たー!」と叫ぶ母。
姉の手を引き、リビングにいた私のところに駆けてくる。
不穏な空気を感じ、頭が空っぽになる。
三人で玄関の方をうかがう。
暗がりに大きな人影。ゆっくり近づいてくる。
母と姉が大声をあげながら、何かを投げつけている。
人影が灯りの下に入る。
真っ赤な顔。口から牙。両手を上げて向かってくる。
「ぎゃー」と大泣きする私。
視界が真っ黒に染まる。

「鬼が来た」
これが、私の一番古い記憶。
母によると、3歳前の節分。

こんな体験がトラウマになって、
ホラー映画は大嫌いなのに、ついつい観てしまう変な癖がついてしまった。
で、入浴中は天井が見れない、夜は怖くてトイレになかなか行けない、薄暗いところでは鏡を絶対見ない、ってなっちゃった。

なんでだろー、っと思い、ある日、AI「Gemini」に聞いてみた。
「怖いものが苦手でもホラー映画をつい観てしまうのはなぜ?」
回答はあらましこんな感じだった。
「理由は、人によって様々です。
ホラー映画を観ることで、①安全な環境で恐怖を味わったり②日常から逃避したり③恐怖を乗り越えたり④共通の話題を作ったり⑤単純に楽しんだり、することができます」

一番しっくりきたのは「恐怖を乗り越えたい」かな。
「怖いシーンを何度も観ることで、恐怖に慣れていくことができます」
ふーむ。
これは、
芸術家の草間彌生さんが男根恐怖症を克服するために男性器のオブジェを作り続けたのと同じ理屈か。
怖がり屋さんを治そうとする潜在意識が、観たくないのにホラー映画を観みせていたのかもね。

そんな話を、みつき先輩にしたら、こんな沖縄の怪談を教えてくれた。
「むかしむかし、仲の良い兄妹が首里に住んでいましたが、離れ離れになってしまいました。
数年後、妹はある村に人喰い鬼が出る、その鬼は兄だという噂を耳にしました。
妹は退治しようと鬼に会いに行き、釘を入れた餅を鬼に食べさせました。
鬼は口を血だらけにして、「何を食わせたー」と叫びながら襲いかかってきました。
妹はとっさに着物の前をはだけて下半身を露出し、大声でこう言いました。
『上の口は餅を喰う口。下の口は鬼を喰う口」
真っ赤な裂け目がにちゃりと開く。
恐怖した鬼は後退りし崖から落ちてしまいました。
めでたしめでたし。
これは沖縄の節分、ムーチー(鬼餅)の由来になった昔話よ」

「鬼を喰う口……」
きゃー、怖いー。
男子が初めて見てトラウマになるってのは、こいうことなのかー。
ゴシューショーサマー!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?