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今日はツンツン

「貸間あり」(1959、川島雄三監督)の巻。(以下、ネタバレあり、敬称略)

映画って、エッチ。

大阪・通天閣を臨む小高い丘にある古びた下宿が舞台。川島監督と共同で脚本を書いたのが作家・藤本義一。ストーリーがあるようなないような、想像の上をゆく奇天烈な関西映画だが、助平がニンマリするシーンが散りばめられております。お客さん、期待を裏切りませんよ。

主役は、下宿に住み始めたばかりの三十娘、陶芸家の淡島千景、「なんでも引き受けます」の便利屋・フランキー堺。

フランキー堺に気がある淡島千景がこんな話を振る。
淡島「あの人の田舎では、男の人が女の人を好きになるとするでしょ、すると、道ですれ違った時に、男の人が女の人に、今日はツンツンって言うんですって。すると女の人が男の人に、今日はツンツン、返事をするんですって……」
フランキー「それじゃ、なんのことか分からないじゃないか」
淡島「それが分かるんですって。おんなじツンツンでも、口では言えない微妙な区別があって、イエスかノーか分かるんですって。(フランキー堺を見つめて)今日はツンツン……」

「今日はツンツン」。ナニでナニをツンツンしたい。言われた方は、ナニをナニでツンツンしてもいいわよ、ダメよ、で「今日はツンツン」。この映画を観て、夜の合言葉に使い始めたカップル、夫婦が、絶対いたに違いない。いないか。

二人による次のシーンは、もろ淫猥。
指先を痛めたフランキー堺。淡島千景が包帯を巻いてあげる。仕上げに、ピンと立た指に指サックを被せてスルスルと下げていく。淡島のその仕草が色っぽい。

でも、この二人はまだマトモ、と思えるほど下宿の住人がみな変人。
まず、匂いフェチの男ども。
エロ本・エロ写真を街で売り歩く藤木悠。自分の褌の匂いを嗅いで陶然としている。玄関に脱ぎ置かれた淡島千景のハイヒールを、同じ下宿人の生命保険屋・益田喜頓と一緒に手に取ってスーハースーハーやっている。
フランキー堺の軍隊時代の上官、下宿でキャベツ巻きを作っている桂小金治も、女性たちが洗濯物の山を囲んで盗まれた下着探しをしている最中、どさくさに紛れてパンティーの匂いを嗅いでいる。
ちなみに下着ドロボーの犯人は藤木悠で、ブラジャー、パンティーを身につけて楽しんでいる。ちなみに盗まれたのは洋酒密造ブローカーのメリハリボディー・清川虹子の。
無口で無表情な益田喜頓が不気味な男で、旦那三人に囲われている娼婦・音羽信子の結婚話、人生の再出発を密告でぶち壊して自殺に追い込む。下宿の御隠居(沢村いき雄)の可愛がっている猫を殺して「ペルシャの漬物」と言って下宿人らにふるまう……
「人生、なにが起こるか分からない。生命保険に入りなさい」
彼だけでホラー映画が一本撮れそうな怪人ぶり。

骨董屋「宝珍堂」を営む男(渡辺篤)は、性欲過剰でいつも「はあぁぁぁ」とため息をつく妻(西岡慶子)を持て余し、フランキー堺に「妻の相手をして」と頼み込む。
住人ではないが、フランキー堺に模擬試験の替え玉受験を依頼する浪人生・小沢昭一が偏執症的で怖い。常に下手に出て言葉遣いも丁寧だが、「うん」と言うまで付きまとい、「うん」と言ったらしっかり契約書まで用意する周到さ。挙句、本番の大学入試まで押し付ける。

こんな、ケッタイな人々のケッタイなエピソードが代わる代わる語られながら、映画は唐突に終わる。置いてけぼりを食わされた気分になる。

が、私たちの日常生活だって白黒決着がつかないまま、だらだら粛々と続いていることが多いわけです。
映画の中の住人の生活もこんな調子でこれからも続いていくんです、とラストシーンで通天閣に向かって立ち小便をする桂小金治の背中が語っているような気がしました。

※映画の詳細は、KINENOTE(キネマ旬報)で検索してください。
http://www.kinenote.com/

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