三好達治の「土」
三好達治に出会ったのは小学生のとき。
担任の先生が詩や俳句をよく教えてくれた。暗唱もたくさんした。
詩を読んで、自分がそれをどう味わったか、作文を書いたこともあった。
そんな中で一番印象に残っていたのが、三好達治の「土」だった。
このタイトルのことは完全に忘れていたのだが、詩を暗唱しながら検索欄に入れたら、ちゃんと出てきた。
私はこの詩が大好きだ。
土
三好達治
蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのやうだ
たった四行だけなのに、余韻がずうっと私のまわりに広がって、その余韻が静寂へと変化する。
この すぅ… っとした感じが、なんともいえず好きだ。
この詩と出会った小学生の私は、作文にこんなようなことを書いていた。
「この詩の素晴らしいところは、小さな蟻が大きな蝶をがんばって運ぶ、その途方もない時間の長さを、『ヨット』というたった三文字で表現していることだ。」
小学生なりに「途方もない時間」を感じていたらしい。
今の私が思い浮かべるのは、初夏のちょっとまぶしいお日様が、せっせせっせとがんばる蟻の汗と蝶の羽とを“すわーん”と照らしている情景。
この“すわーん”は今相当絞り出した。
「ぴかーん」でも「ぎらぎら」でも「ふわふわ」でもしっくりこなくて、作ってしまった。
最初の音は、uの音にしたかった。広がるわけでもなく、すぅっと、向こうからこちらへと光が伸びてくる感じ。
そのなかでもやっぱり、sの音は清らかで、爽やかで、初夏の朝のような「す」の音が採用された。
「わーん」は、「わ〜ん」とも迷ったけれど、「〜」だとまっすぐさに欠ける気がして。そう、この光はまっすぐなのだ。
「わーん」は、空間に音の余韻がゆっくり長く残る感じ。「ゆっくり長く」って、まさにこの詩に描かれている「途方もない時間」のことだ…!
こんなことをしていたらなんだかちょっと楽しくなってきてしまった。
部屋の静けさと詩の余韻にしばらく浸かっていたい。
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