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明治以来の北海道新聞の検索法は?

1.新聞は歴史資料の宝庫

 日々の出来事を報道する新聞は、歴史資料の宝庫である。政治、経済、教育、社会、文化など、あらゆる情報が載っている。地方史を調べるのなら、これを使わない手はない。北海道の場合、1878年(明治11)1月7日に函館新聞、1887年(明治20)1月20日に現在の北海道新聞の前身にあたる北海新聞(のちに北海タイムス)が創刊された。それから現在に至るまで、約140年分の報道の蓄積がある。

 ところが、それらを調べるのは一筋縄ではいかない。現在の記者は、パソコンで文章を書くので、記事はデジタル化されている。北海道新聞も全国紙各紙も検索システムを用意しており、契約を結べば、個人でも使えるし、契約している図書館に行けば、無料である。北海道新聞の場合、全道版は1988年(昭和63)7月以降、地方版は1993年(平成5)9月(一部は1994年(平成6)3月)以降を検索できる。

 それ以前の時代は、記者がペンで原稿を書き、植字工が活字を拾って、新聞を作っていた。では、その時代の新聞はどう調べたらいいのか。大きな図書館なら、地元の新聞を原紙のまま、あるいはマイクロフィルムや縮刷版で保存している。それらを一枚一枚読んでいくしかない。私も、函館市中央図書館に通い詰め、1878年(明治11)から約60年分の新聞を読み、スクラップ帳を作った経験がある。

 一方で、新聞社が、コンピュータ化される以前の新聞の検索システムを作っている例がある。朝日新聞と読売新聞は明治以降の紙面をデジタル画像化し、各記事にキーワードを付加し、検索できるようにしている。毎日新聞も紙面をデジタル画像化しているが、キーワード付加は不十分で、1945年(昭和20)以降しか検索できない。しかし、いずれにしても、すべての文章を検索するものではない。

函館市中央図書館の書棚に並ぶ新聞縮刷版


2.札幌市図書・情報館での出会い

 『地方史のつむぎ方』の第34章「新聞を調べる」を書くにあたって、私が知っていたのはこんな程度だった。しかし、「新聞を調べる」と題した章を用意するのだから、各図書館で道新の検索システムをどう使わせてくれるのか確認しておくかと、2023年(令和5)のある日、札幌市中央図書館のレファレンスカウンターを訪れた。利用者に自由に触らせず、職員に検索してもらう図書館もあり、少々不便なので、ここでは自由に使えるかどうか聞きたかった。

「道新の検索システムは利用者が自由に使えるんですか?」
「はい。使えます。でも、札幌市図書・情報館に行けば、もうひとつの検索も使えますよ」
「もうひとつって?」
「昔の新聞も調べられるんです」
「昔の新聞? いつの?」
「私の生まれた頃の新聞も検索できます」
「でも、あなた、お若いじゃないですか」

 対応してくれる男性は、せいぜい30代だろう。1988年(昭和63)以前の生まれには見えない。それ以降なら、道新の記事検索システムで閲覧できるはずなのだ。

「そもそも、昔の新聞を検索するには、記事をテキスト化する必要がありますよね?」
「そう言われると、自信がなくなってきましたが、以前、あちらで働いていたときに使っていたんですよね」

 ここで話していても、埒が明かない。日を変えて、大通にある札幌市図書・情報館に足を運んだ。驚いた。「パソコンで読む北海道新聞」と題する検索システムが用意されている。1887年(明治20)の北海新聞創刊以来、2022年(令和4)までの紙面がデジタル画像の形で収録され、全記事を検索できる。といっても、誰かが記事をテキスト化したのではない。OCR(光学文字認識)機能を使って、画像内の文字を検索しているのだ。「記事文字読み取り精度にやや甘さはあるものの、革命的な検索システムである。明治以降の北海道の歴史を調べるなら、使う価値がある。

札幌市図書・情報館にあった革命的な検索システム


3.道新に問い合わせるが…

 帰宅後、「パソコンで読む北海道新聞」について調べてみた。道新のサイトがヒットする。ところが、2005年(平成17)以前の記事は検索できないと書いている。札幌市図書・情報館で検索できたのに、どういうことか? 知り合いの記者数人に聞いてみたが、社内でも、検索できるのは1988年(昭和63)以降だという。道新の窓口にメールを送ると、担当者から電話がかかってきた。ところが、1987年(昭和62)以前の新聞を検索できるなんて聞いたことがないという。

「札幌市図書・情報館では検索できるんですよ」
「それを知らないので、なんとも言えないのですが、ひょっとしたらデジタル部門が図書館用に開発したのかもしれません。今はデジタル部門がなくなったので…」
「こんなシステムは全国紙でも作っていないから、図書館にも全国紙にも売れるものだと思います。私だって値段によっては買います。道新はビジネスチャンスを逃してるんでないですかね?」
「そうですか。ご意見ありがとうございます」

 デジタル部門が作ったシステムだとしたら、そんな有能な人の仕事が社内で忘れ去られたのか? 解せないまま、再度、札幌市図書・情報館に行き、カウンターの司書らしき人に訊いた。

「『パソコンで読む北海道新聞』は、道新のウェブサイトでは、2005年(平成17)以前は検索できないと書いているのですが、図書・情報館で検索できるようにしたのですか?」
「いえ。道新から買ったはずですが」
「でも、道新に問い合わせたら、知らないと言っていたんですよね」

 カウンターに職員が数人集まってきたが、誰もが分からないという。ますます謎が深まる。

「これだけのシステムを誰が作ったのか分からないまま、使っているんですか?」
「と言われても…。私たちも、広告もお悔やみ欄も検索できるから便利だねとは言っているのですが…」

 たしかに、デジタル画像を検索するので、読み取り精度の甘さを差し引いても、検索対象が限定される1988年(昭和63)以降の検索システムよりも優れているとも言える。しかし、図書館も道新も誰が作ったのか知らないと答えるのが腑に落ちない。これを作ったエンジニアに失礼ではないか。
 

4.記者も驚く検索システム

 数か月後、室蘭市図書館に行く機会があった。私が10数年前に室蘭に住んでいた頃、戦後に発行された道新と室蘭民報の原紙を自由に閲覧できたが、新館への移転後どうなっているのか確かめるつもりだった。ところが、カウンターで聞くと、原紙の閲覧は最近5年分を除いて取りやめたという。その代わりに「郷土紙閲覧システム」を整備したとパソコン前に案内された。見ると、ここにも「パソコンで読む北海道新聞」が入っている。札幌市図書・情報館にあるものと見た目は同じで、OCR検索できる。ただし、1955年(昭和30)以降が対象であり、1989年(平成元)以降は室蘭版のみを収録している。

 こうなると、ほかの図書館にも「パソコンで読む北海道新聞」が入っていて、検索できるのではないか。「パソコンで読む北海道新聞」を所蔵するとウェブサイトにあった市立小樽図書館に行ってみた。カウンターに申し出ると、やはりパソコン前に案内された。ところが、何年の新聞を見たいのかと問われ、DVDを渡される。検索もできない。札幌市図書・情報館や室蘭市図書館にある「パソコンで読む北海道新聞」とは違う。

 ようやく分かってきた。「パソコンで読む北海道新聞」には、道新がサイトで宣伝しているものと、札幌市図書・情報館と室蘭市図書館にあるものの2種類があるのだ。そして、後者が2館に入っているということは、図書館と取引のある業者が作ったはずだ。札幌市図書・情報館のサイトで、入札関係の情報を調べてみた。予想通り、「北海道新聞閲覧用サーバー」に関する入札情報が公開されている。確信を深めた。札幌市図書・情報館に問い合わせのメールを送った。「パソコンで読む北海道新聞」を作った業者は誰か、道内どの図書館に納入したのか、今後読み取り精度向上の予定はあるか? 今度は、図書・情報館の責任者から返答をもらえた。作ったのは株式会社マイクロフィッシュ、納入先は図書・情報館と室蘭のみ、読み取り精度向上の予定はないという。

 『地方史のつむぎ方』の発刊後、取材に来てくれた道新記者とカメラマンに、この顛末を話すと、二人とも驚く。「私たちも、昔の新聞を調べる方法がなくて困っていました。そんな方法があったのですね」。数日後、実際に使ってみて、消息不明の人の連絡先が分かったと記者から連絡が来た。

 このシステムを作ったエンジニアに敬意を表するとともに、文字読み取り精度の向上、検索対象の全地方版への拡大、全道の図書館への展開を期待している。
 
※「新聞を調べる」具体的な方法については、『地方史のつむぎ方 北海道を中心に』第34章に紹介した。

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