記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【読書】奥田英朗「リバー」の終わり方で「えっ」と思う?「らしい!」と思う?

https://amzn.to/3EStomS

奥田英朗は話を考えずに小説を書き出す。

浅田次郎みたいに完全に設計図を整えて書き出す人もいれば、少年漫画みたいにとりあえずキャラを動かして、自分で書いてるのに「こいつが犯人になっていくとは」と、川が流れ着くように結末へたどりつく作家もいる。

ぼくは奥田作品を八割は読んでますが、たしかに急に終わるような印象のものがあった。
エッセイによると、けっこうの分量まで書いたけど主人公たちが面白い行動をしてくれないのでそのまま放棄されたボツ作品がたくさんあるという。
「罪の轍」がいちばん完成度高いと感じた。

「リバー」は10年前の連続殺人事件が未解決に終わった街で、新たにマッチングアプリを通じた女性を絞殺する事件が起きる犯罪小説だ。

容疑者が期間工ということもあって、車がよく出てくる。
ドラマと違って、容疑者の乗る車種がしっかり書かれるのはぴりっと刺激がきいてていい。
警察が尾行に使うのはこの車種。
県でいちばんの自動車会社で、イメージを傷つけられたくないのはここ。
地元の権力者が乗り回すのはこの車。
具体的に車名が出る。

警察と容疑者のほかには、10年前の被害者の父親のキャラクターが良かった。
残り人生をささげても娘のかたきを葬るために、ずっと自主的に監視を続けている。警察にとって心強い味方でもあり、ときに行き過ぎた行動をとるクレイマーでもある。

結末を考えないで書くから、きれいにまとまってくれないし、重要そうな人物が結局活躍しないままいなくなってたり、わからない部分がそのままだったり。
昔の少年ジャンプのように、超絶技術であえてアドリブで進行する。するとたまに、過去の何気ないフレーズが新しい展開につながることがある。
ぼくに言わせればそれが、「ごつごつした魅力」で、わからないことが残るのもリアルだと感じる。

刑事以上に目立つのが前の犠牲者の父親だったわけだけど、
あの人だけが「俺にとっては事件は終わってねえぞ!」と一人で吠えてた。

読み終わったあとに、完璧に全てが明らかになる話じゃないから
「えっこれで終わり? 終わってないぞ!」
と、読者が犠牲者の父親と同じ感情で置いて行かれるのが面白いというか黒いというか、好き。
それにしても、家庭の夫婦のやりとりを書いた幸せみ漂う短編はみんな中流家庭よりちょい上ぐらいなのに、犯罪小説では明らかに問題のある家族がいて貧しい家庭が関わるのが悲しい。ドライだ。

https://amzn.to/3yJHMtO

罪の轍


この記事が参加している募集

読書感想文

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。