【演劇】『LGBT、治します。』(14/16)

シーン14 ハルカが母に打ち明ける

ハルカ、こっそりハルカ宅に戻ってくる。すでに夜は遅い。
しかし食卓には、ハルカ母が座っている。

ハルカ 母: おかえりなさい。
ハルカ: ……ただいま。
ハルカ 母: お腹は? 空いてる?
ハルカ: ううん。
ハルカ 母: そう。
ハルカ: ……。
ハルカ 母: 大丈夫?
ハルカ: うん。
ハルカ 母: 何か言いたそうじゃない。
ハルカ: ……あのさ、自分、やっぱり医学部行きたい。
ハルカ 母: そう。
ハルカ: でも、無理だよね。
ハルカ 母: ううん、そんなことないわよ。
ハルカ: そうなの?
ハルカ 母: さっきはごめんね。お父さんがああいうふうになると止められないじゃない。お母さんは、ハルカのしたいようにすればいいと思うわ。
ハルカ: え、
ハルカ 母: お金もかかるけど、へそくりと奨学金でなんとかできるんじゃないかしら。
ハルカ: それは……。
ハルカ 母: ……なんだか、こんなふうにハルカと話すの久しぶりね。
ハルカ: そうかもね。
ハルカ 母: 大丈夫なの? いつも忙しそうにして。
ハルカ: うん。
ハルカ 母: そう。
ハルカ: ……。
ハルカ 母: ……いつの間にかね、ハルカがすごく遠くに行っちゃったのよね。どんどんどんどん、ハルカがハルカだけの世界に行っちゃって。もうお母さんたちが二度と手の届かないところに行っちゃうんじゃないかって。
ハルカ: ……そうかもね。
ハルカ 母: 何か話せてないこと、あるの?
ハルカ: (あいまいにうなずく)
ハルカ 母: そう。それは今言えそうなことなの?
ハルカ: ……(首をひねる)

ハルカが話し始めるまで、ハルカ母は静かに待つ。

ハルカ: あのさ、自分――お母さんこの前、薬の臨床試験おすすめしてくれたじゃん?
ハルカ 母: ああ、あの――
ハルカ: 輝く製薬の。「LGBTを治しますー」っていう――
ハルカ 母: ああ、うん。
ハルカ: あれさ、参加してたんだよね。
ハルカ 母: そうなのね。
ハルカ: 自分ね、からだはこれだけど、本当はちがくって。こころは。
ハルカ 母: そうなの?
ハルカ: うん。ずっと、ずっと言えてなかった。
ハルカ 母: そう。
ハルカ: うん。
ハルカ 母: それで?
ハルカ: え……?
ハルカ 母: ハルカはどうしたいの?
ハルカ: え、いいの?
ハルカ 母: 私がダメって言っても、それで変わるわけじゃないでしょ?
ハルカ: でも、お母さんあの臨床すすめてきたじゃん。
ハルカ 母: お母さんは、ハルカがそのほうが幸せになるのかなって思っただけよ。それがいいかどうかは、ハルカが決めることじゃない?
ハルカ: ……そっか。
ハルカ 母: 辛かったの? あの実験。
ハルカ: (首を振る)
ハルカ 母: じゃあどうしたの?
ハルカ: いや、なんでも。
ハルカ 母: ……。あのねハルカ。これだけ覚えておいてほしいの。お母さんはね、ハルカのことを愛してるの。
ハルカ: うん。
ハルカ 母: だからね、ハルカには幸せになってほしいの。
ハルカ: ありがと。
ハルカ : でももしかするとハルカの思う幸せと、お母さんの考える幸せは、違うかもしれないわよね。
ハルカ: ……うん。
ハルカ 母: そろそろお母さんも、子離れしなくちゃね。

しばらく二人とも沈黙する。

ハルカ: それで、………。進路表、どうすればいい?
ハルカ 母: もう好きに書いちゃいなさい。
ハルカ: でもお父さん――
ハルカ 母: それはお母さんがなんとかしておくから。
ハルカ: ……そっか。
ハルカ 母: ハルカがお医者さんになって診てもらうの、お母さん待ってるわね。
ハルカ: (笑う)うん。じゃあこれ、印鑑押して置いて。
ハルカ 母: 押したらハルカの部屋に置いておけばいい?
ハルカ: ああ、うん。
ハルカ 母: わかったわ。じゃあ、お母さん、もう寝るね。
ハルカ: おやすみ。
ハルカ 母: おやすみなさい。

ハルカ母、食卓から立ち上がって出ていく。

ハルカ 母: あー、お風呂入ってるから。
ハルカ: 明日入る。
ハルカ 母: 湯船あるのに。
ハルカ: シャワーでいい。
ハルカ 母: そう。じゃあおやすみなさい。
ハルカ: おやすみー。

ハルカ母、出ていく。
ハルカはしばらく食卓に座っている。
すると、ハルカのスマートフォンが鳴る。

ハルカ: え、誰?

スマートフォンを取り出して通話に出る。

ハルカ: もしもし。あ、はい。ハルカです。すみません、どなたですか? ああ、マナミ社長。あー、えーっと……学校のあとなら空いてます。わかりました。自分もちょうど話したいことがあったので。はい。では。はい。(*)

ハルカ、電話を切る。そして自室に戻る。


(*)通話内容
もしもし。
(ハルカさんであってる?)
あ、はい。ハルカです。
(夜遅くに本当にごめんなさい)
すみません、どなたですか?
(あー! すみません、マナミです。輝く製薬の……)
ああ、マナミ社長。
(あのですね、すごく急なのですが、明日は空いていますか?)
あー、えーっと……学校のあとなら空いてます。
(本当ですか! 良かったです! そうしたら、あの、来ていただけませんでしょうか? ちょっと相談したいことというか、助けてほしいことがありまして……)
わかりました。自分もちょうど話したいことがあったので。
(それは良かったです! そうしたらいつものところにお願いします!)
はい。では。
(夜遅くに本当にすみませんでした)
いえいえ。

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