見出し画像

【漫画原作】「Q」第三話(「週刊少年マガジン原作大賞」応募作品)

【第三話】

1. 早朝・啓太の家


「ねえ、ケイ。最近、傷が増えてるんじゃない? もしかして、喧嘩?」

 啓太の肘の絆創膏を張り替えながら、奈結葉が啓太の顔を覗き込む。

「ちげぇよ。何ていうか……、部活だよ」
「え? 部活!? 聞いてない! 今までずっと帰宅部だったのに、何始めたの⁉」

「……陸上部? 障害物走っていうか……」
「何それ。楽しいの?」
「体育の一環……っていうか、一応、部活入っとけば成績を考慮してくれるんだってさ」
「今の高校って、そんなシステムなの? まあ、普通に卒業できれば何やっても構わないんだけどさぁ。それにしても、ハードすぎじゃない?」
「大丈夫だよ。おかげで体力ついて、なまってた身体も動けるようになってきたし、むしろ健康的だって。それより、ほら、仕事遅刻すんぞ。さっさと行けよ」

 ローヒールのパンプスを慌てて履いた奈結葉が出掛けていくと、いつものように(猫用の)牛乳をなめていた三毛猫とQが玄関先でその姿を見送る。

 今朝も朝の掃除を終え、玄関や庭先で履き集めたものと一緒に、クラスメイトらが「邪気」と呼ぶ「あれ」をQに食わせたが、どうもQの元気がない。どうやら、これだけではQの腹は満たされていないようだ。

「Q、学校に行くぞ。今日も朝練だ」
「キュー!」

 コップ一杯の牛乳を飲み込み、ラップに包んだお握りをひとつ制服のポケットに詰め込んだ。


2. 学校(校庭)


 朝、まだ誰も登校していない時間から、日山クラスは始まる。

「それでは、結界を解きます。後はよろしく」

 校庭にある朝礼台に腰かけていた日山がそう言った途端、大ムカデの化け物が「グオオオオ」という叫びとともに地中から姿を現した。

 以前は、黒い塊にしか見えなかった「あれ」は、この頃、更にはっきりと生物の形に見えるようになった。

「私を食べれば、強くなれて、不老不死が得られるなんて言われているらしいですよ」
 嘘か本当か、先日、日山は笑ってこんなことを言った。

 神様、もとい、日山を狙うのは、捕食しようと目論む「鬼」たちで、この化け物は鬼のよこした「邪気」の塊だという。

 鬼たちは、本来、人間を病にしたり、悪い夢をみさせるために、日頃から災厄の元となる「邪気」の種をまき、育てるよう画策していたが、近年、「邪気」を本来の目的ではなく、物の怪を生むための手段として利用し始めた。

「神様という存在が思うように事を進めさせないのだ」と鬼たちをあおり、そして、「神を食べれば不老不死が手に入る」と彼らに伝説や噂話を吹聴する者がいる。
 日山は、そう考えているらしい。

 神様を辞めたい日山は、自身の後継者を育てながら、ボディーガードの役割も果たすよう、未だ「鬼」でも「神」でもない生きものを扱うことのできる人間をこのクラスに集めた。

 しかし、Qたちの正体が一体何なのか、なぜ神様の後継者候補になれるのか、そして、ここにいる生徒だけがなぜ彼らを扱うことができるのか、重要なことは、日山は何ひとつ語らなかった。


「──避けて、府木君!」
 李帆の声で我に返ると、怪物から逃げる日山がひらりと身を返し、ムカデの腹部がこちらに向かって突進してきた。

 激突する寸前のところで、ジャンプして難を逃れる。

 このひと月の間、朝から晩まで、とにかく走り込みをさせられた。
 授業が終わると、「特訓」と称してクラスメイトらが所構わず攻撃を仕掛けてくるので、とにかくその攻撃を避け、致命傷だけは負わないよう必死に逃げ回った。

 逃げるだけなんてかっこ悪いし、悔しくもあったが、そのおかげで、脚力と瞬発力は急激に上がり、大抵の攻撃は避けることができるようになった。

「Q、朝飯食うか」
「キュキュー!」
 啓太が声を掛けると、Qはムカデの化け物に一直線に向かっていく。

 小さな拳大のQは、大きなムカデの背に乗ると幾本もある足の一本を「カジカジ」とかじり出した。

 Qがかじった箇所に空白の穴が開いていくが、ムカデの方はそんな些細なことは気にしていないようで、いつの間にか姿を消してしまった日山の姿を探して暴れ回っていた。

「おーい、そろそろ戻ってこい!」
 Qを呼ぶと、後ろから誰かがぶつかった。

「どけ。俺が仕留める」
 気配もなく背後に現れたのは沖本だ。

 忍びのように何かをぼそりと呟くと、沖本の肩にとまっていたカラスが地中に消える。

 その直後、地中から何羽もの烏の影が、鋭くムカデの身体を貫いた。

 攻撃を受けたムカデは、地響きのような叫び声を上げて、さらさらと姿を崩していく。

 沖本の烏たちは、その姿が完全に消える前に獲物を食らった。


「ちょっと、忍。すぐに倒しちゃったら、Qちゃんが何なのか、今日も分からないままじゃない」
 首元に蛇がするりと戻ってくると、水越間は沖本に文句を言った。

「知らん。もたもたしてるのが悪い」
「もう」
 沖本は戻ってきた烏を掌にしまうと、すたすたと歩いて行ってしまう。
 クラス委員の水越間は、文句を言い足りないようで、たまたま側にいた真之介のすねに蹴りを入れて八つ当たりした。

「でも、本当にあなたは何なんだろうねぇ」
 自身の掌の上で飛び跳ねているQを眺めながら、李帆が話し掛ける。

「そんなに変なのか? Qは昔からずっとこのまんまだけど」

「うーん、変っていうか、謎? っていうか……。私たちの子も、まだまだ『神様』には遠い存在だけど、動物の姿に近いものが多いらしいんだよね」
「分かった! Qは俺のケンタロウと同じ『犬』だ! ほら、ちゃんと尻尾がついているだろう」
「ふっ、犬だというならもっと使い手に従順だと思うけど? 私の蛇でさえ、他の人に懐いたりしないわよ?」

「うっせーな! 俺はQが普通に腹いっぱい食えれば、それでいいんだよ!」

 李帆の手からQを取り返すと、踵を返して教室に向かう。

 ちょうどその時、日山がどこからか戻ってきた。
 周りを見ると、既に校庭は元の形に戻っており、登校する生徒の声がちらほら聞こえ始めていた。

「そうだ、いいことを思いつきました。今日の午前中は課外学習に行きましょう」

 日山は両手を「ぱんっ」と合わせて、にっこり笑う。

「沖本君はどこへでもすぐに来てくれるとして……、そういえば、鈴子君はどうしました?」

 日山がきょろきょろと辺りを見回していると、李帆のスマートフォンが鳴った。

「あ、鈴子は寝坊で遅刻でーす……」
 李帆がメッセージを確認すると、日山は李帆のスマートフォンをするりと取り上げる。

「仕方がないですねぇ」

 日山は笑顔でそう言うと、静かにメッセージの画面を閉じた。


──その頃、画面の向こうにいる鈴子には、目覚ましにはきつめの電流が遠慮なく送られており……。

「いっったああああい‼‼」

 鈴子の叫びが家中に響き渡った。

(つづく)


ーーー

 ひとまず、第三話までとなります☺

 漫画原作は小説とはまた違った難しさがあり、今回も勉強させていただきました。

 ここまでお読みくださり、ありがとうございます🍀


いつも応援ありがとうございます🌸 いただいたサポートは、今後の活動に役立てていきます。 現在の目標は、「小説を冊子にしてネット上で小説を読む機会の少ない方々に知ってもらう機会を作る!」ということです。 ☆アイコンイラストは、秋月林檎さんの作品です。