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酔おてて覚えてへんVol.9 ‐ natsumeyan

スーパーで夜ご飯の食材を買って透明シートの向こうの店員さんにレジしてもらう。合計788円。財布を探って、きりのいい小銭がなかったので千円札を出した。今振り返ると、お札を出した瞬間からその千円に違和感はあったのかもしれない。なんかちょっと血色が良くなくて青白い感じがした。

しっくりこないままに、レジのトレイに体調が悪そうな千円を乗せた。店員さんはトレイの上で裏返した。そら野口英世がおるわい。髪の毛切ってたけど。

今みんな切ってるもんな。自粛期間あけて、ようやく美容院にもお客さんくるようになってよかった。俺も行きたいなぁ、今人生で一番髪の毛長い。くせ毛やし毛量が多いんよなぁ。

店員は2秒くらい散髪した野口さんを見つめて、レジに千円札を吸い込ませた。「さっぱりしましたねぇ」と言わんばかりに。

お釣り112円とレシートを受け取った。持ち込んだ袋に納豆と缶チューハイときゅうりと卵と鷹の爪を詰めている時に気づいた。

「あれ夏目やん」

久々に見たから、散髪した野口さんとして自分を納得させてしまっていたようです。旧千円札でした、だから裏には鶴二羽おったのでしょう。

ビニール袋ぶら下げて店を後にする。店員さんもわざわざ毎度お札を裏返して確認してないでしょう。多分あの人もトレイの千円札にしっくりきてなかった。裏返して散髪した野口を見て、「さっぱりしましたねぇ」ではなく自分より20秒先に「夏目やん」と思ったのでしょう。自分がもう20秒、気づくのが早ければ。

小説家として評価を受けて、死後に若手お札として再ブレイクして、死後に時代に流されたお札として思い出すのに20秒かかってしまうほどに過去の人になってしまう夏目の気持ちは複雑なんやろうなと思いながら家に着く。

2軒隣の家の玄関のドアが全開やった。今日は暑いしね。開いたドアの内側には松村邦洋と柴田理恵が宣伝する水まわりトラブルの宣伝マグネットが所狭しにびっしりと貼られていた。月に一度くらいにはうちのポストにも入れられている広告だ。

「あれ集めたん」

今2軒隣の収集癖が気になってしまっている。夏目はこうして忘れられていくのやろか。

今日の1曲 “ダンス”ミツメ




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