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だから今このふつうの日々を大切に生きる

今年は訃報ばかり耳に入る。
令和4年の年間死者数は156万8961人(厚生労働省発表)。戦後最高レベルの死者数だったけど、この感じだと令和5年の死者数はその数字を超える気がする。若かった頃に比べて、死の匂いが強くなってきた感覚がある。介護の現場で働いてるというのもあるけど、明らかに阪神大震災を経験した時の死の匂いとは違う。自分が歳を重ねてきたことでリアルに死が身近になったり、自分が死に近づいている感覚とでもいうのかな。うまく言えないけど、そんな匂い。

11月から職場の異動で別のケアハウスに配属された。利用者さんや職員の名前を覚えるところからのスタート。覚えることがいっぱいでアタフタしながらも現場の居心地は良さそうで安心してる。そんな中、利用者さんのお名前に見覚えがある方を見つけた。珍しい苗字。同じ垂水に住んでいる方ならば彼女のお母さんだな! と思った。

彼女というのは20代後半に在籍していた職場の同僚。綺麗で上品で優しくて高嶺の花のような感じの人だった。仲の良かった先輩と「〇〇さんは私たちとは違うなぁ」という話をよくしてた。嫌味や悪口ではなく、憧れに近い感じでそんな話をしていた。何でそうなったか忘れたけど垂水で彼女とご飯を食べに行ったことがある。どんな話をしたかも忘れた。たぶん私がしょーもない話をして、彼女は笑って聞いてくれていたんじゃないかな? 綺麗すぎて浮世離れしたような彼女は職場の人とご飯が食べられて嬉しかったようだった。

そんなことを利用者さんのお名前を見て思い出した。ご挨拶に伺った際に間違いがないかお家の場所を確認してから話してみた。

「実は私、娘さんの〇〇さんと昔◎◎という会社で一緒に働いてた同僚なんです。〇〇さんとお宅の近くのお店で食事したことがあるんですよ。〇〇さんはお元気ですか?」

笑顔でそう伝えると、やや間があってから「あの子は自殺しました」という返事があった。驚いて狼狽えながら「悲しいことを思い出さてすみませんでした」とお伝えすると「いいえ。思い出してくれてありがとうございます。そう〇〇と同じ職場だったんですね」と笑顔を見せられた。

ショックだった。仕事を辞めてからは一度、確か12年前くらいに駅前でバッタリ出会った。「今は結婚式場で働いてます」と言うと驚いていた。駅から家に帰る道の途中、彼女の家の前を通ることがあり「元気かな?」と思うことはあっても訪ねることはしなかった。

10月の終わりに光穂さんがお亡くなりになったという知らせも届いた。

金ブラ見せなかったなぁ。金ブラをカットソーの下に着てたのに寄ってきたおっちゃんの前で金ブラになるのは嫌だからやめたなぁ。鴨川でも、おっちゃんが居ても、金ブラになればよかったのかなぁ? 私は出来ることを出し惜しみしたんかな? と思ったけど、その時、私に違和感があったのだからそれでいいか。京都民だからこそ鴨川ゲリラライブすることは敷居高いからやれてよかったと嬉しそうにしていたし。それでよかったんかな。

そんな風に私は自分が喜んでやれることしかできないな。

そんな中、相次ぐミュージシャンの訃報を知ると何とも言えない気持ちになった。歌が耳に残っているから余計に気になるのか、特別好きなミュージシャンじゃなかったとしても曲を聴くとセンチメンタルな気持ちになる。そんなに聴いてた訳じゃないのに追悼するのもどうだろうと思いつつ、私でも知ってる「愛は勝つ」「まゆみ」以外に、彼はどんな歌をうたっていたんだろう? という興味で聴いてみた。その中ですごく響いた歌を見つけた。


この歌を聴いて、ほんの少しKANさんを知った。大ヒットした「愛は勝つ」はタイトルも強いし、(♪信じることさ 最後に愛は勝つ〜)というどストレートな詩が好きになれなかった。そもそも歌に勝ち負け出すのが気に食わない。「それは勝ってきた人だからこそ言えるんやろ? 実際にこうやってヒットしてるんやし?」という斜に構えた目で冷ややかに見ていた。でも、この「世界でいちばん好きな人」は、まったく違って静かにしみじみと歌が入ってくる。

遠くで起きてる戦争は
いつ終わるのかもわからない
せめてぼくらはずっと互いを
許し合い生きよう
ぼくは誰とも争わないし
誰も憎む根拠もない
ただ落ち着きを取り戻すため
ちらつくテレビを消そう

KAN「世界でいちばん好きな人」

こういう歌詞を書く人だったのか。むしろ「愛は勝つ」の対極くらい繊細。こういう人なのか…と思って改めて「愛は勝つ」の歌詞を読んでみた。そうか、「愛は勝つ」って、誰かと競って「自分の愛の方が強いから最後は勝つんやで!」みたいな「正義は勝つ!」みたいな歌ではないんだ。君が信じた想いが誰かに届くこと、その想いを信じ切ることが愛で、自分の中にある心配や困難よりもその気持ちが勝って信じていけますようにって歌だったのか。「愛」や「勝つ」という強めのワードを毛嫌いして耳を傾けてなかったな。

そんな風に人と会えなくなってからわかる事がある。生きている間に理解出来たらいいけど、出会った人すべてに対してなかなかそうできない。自分が感じた印象で「こういう人なんだろう」と勝手に決めつけてしまいがちだ。だけど人は多面的で、見えてる部分なんてほんの一部でしかない。生きている間に少しずつ自分の思い込みが外れて、もっとフィルターのない目で自由に世界や人を見ていけたら。

世界でいちばん好き人
それはあなただと言い切れる
この想いがいつまでもずっと変わらぬように
今このふつうの日々を大切に生きる

KAN「世界でいちばん好きな人」

「世界でいちばん好きな人」を聴いている内に、ふと私にとって大切でしあわせなのは「歌や文章、好きなことを好きなようにできる今」なんだと思った。

好きなことを好きなようにできる。
私の好きを好いてくれる人がいる。
好きだと思う人がいる、好きだと思う歌や文章がある。
心から愛せるものがある。
ああ、そういうことか。
それを愛は勝つっていうんだな。

どんなに好きでも会えなくなる時がくる。
どんなに好きなこともできなくなる時がくる。
それは必ず訪れるし、いつかは私もいなくなる。

だからこそ
「この想いがいつまでもずっと変わらぬように
今このふつうの日々を大切に生きる」

それを忘れないでいよう。

歌の中でだけでも出会えて嬉しい。



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