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【読書レビュー】『ジャン・プルーヴェ』日本語版

著者・書名・出版社・出版年は?


ブルーノ・ライシュリン監修『ジャン・プルーヴェ』TOTO出版, 2004

どんな本? 


20世紀のフランスで家具・建築の設計・生産・施工を統合した創作活動を展開したジャン・プルーヴェ( Jean Prouvé 1901-1984)の全貌を紹介する世界巡回展「Jean Prouvé: The poetics of technical objects」の図録を兼ねた作品集の日本語版です。

日本では2004年10月30日~2005年1月16日にかけて神奈川県立近代美術館鎌倉館(現、鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム)で「20世紀デザインの異才 ジャン・プルーヴェ ―「ものづくり」から建築家=エンジニアへ―」というタイトルで展示やシンポジウムが開催されました。

プルーヴェについての百科事典を編むという編者のコンセプトを実現すべく、建築設計者、エンジニア、建築史家など40名を超える西欧及び日本の専門家によって執筆されています。

日本側は、
- フランス系建築史の大御所である三宅理一東京理科大客員教授、
- 無類のプルーヴェ好きで知られる松村秀一東大教授、
- 東京都現代美術館で開催中の2022年のプルーヴェ展でギャラリートークを担当される岩岡竜夫東京理科大教授
などから寄稿されています。

400ページ近い分量があり、プルーヴェについて日本語で調べる際には、まず参照すべき資料といえるでしょう。

何が学べるか?


  1. プルーヴェの活動の全貌がわかる

  2. 異なる視点からの評論によってプルーヴェの作品と彼が生きた時代の文化的・技術的背景との多面的関係が見えてくる

  3. 「建築」とは何か?どこまでが建築なのか?という本質的問題を考えるヒントが得られる

どんなひとにおすすめ?


  1. 工業材料を使いつつ、手の匂いも残る感じのファニチャー好きのひと

  2. 建築の可能性はまだまだ広がるのではないかと思っているひと

  3. 20世紀の建築について批判的に考察してみたいひと

目次


- はじめに
- 序(三宅理一他)
- 「ものづくり」から建築家-エンジニアへ(ブルーノ・ライシュリン)
第1章 技術からの思考
第2章 道具と生産方法
第3章 工場製住宅
第4章 家具とインテリア
第5章 評価と伝記
- 資料
- 年譜
- インデックス
- あとがき

関連する展覧会など


東京都現代美術館で2022年10月まで開催中の展覧会です。プルーヴェの椅子や家具が約120点展示されています。さらに、プルーヴェ建築が実際に建てられているのは圧巻です。

一般的に「建築展」といっても、実物は持ち込めずに、図面とか模型とか2次情報だけでごまかす展覧会がほとんどですが、ポータビリティーに富んだプルーヴェ建築は、実物を楽しめます!さすが。C'est formidable !!!

武蔵野美術大学美術館で開催される椅子の展覧会です。8月中旬に前期が終わり、後期は9月から始まります。約250脚が展示され、その半数が実際にすわれます。プルーヴェの椅子もAntony, Grand Repos, B11, Standard Chairが置いてあり、座り心地を確かめることができます。ムサビは太っ腹だ!しかも無料です!!! なお、 Hover-lounge chair もありますが見るだけです。

もうひとつ。展覧会の情報インターフェイス・デザインが秀逸です。作品の横に小うるさいキャプションを付けずに、スマートフォンにQRコードでデータを読み込んで、作品リストをブラウザ表示できます。これがまた見やすいんですよ。さすが美大だ。C'est chouette!!!

感想とか


プルーヴェは近現代建築史ではポジティブな意味で特異な存在です。設計者は図面を描き、家具職人は家具を作り、また、施工(業)者は建物を建てる、という分業が長らく続いてきました。たぶん、5000年間くらい。

誤解を恐れずにいえば、手を動かす仕事は低くみられていたのです。現場の仕事は作業員が行うものであって、設計者は直接関わるべきではない、という暗黙の了解があったように思います。

プルーヴェは、その常識を突き破って、設計から生産そして施工の全体に関わる「建設者 constructeur」という概念を提示して、実行しました。常識にとらわれずに、いま必要なことをすぐに行うという精神。

これは、1971年の国際設計コンペで、パリの歴史ある街区のまん中に骨組み構造剥き出しの現代建築を挿入する案を、審査委員長として選び取った眼力につながっています。

プルーヴェの作品や活動を見ていると、
「最初から最後までぜんぶやればいいし、みんなでやれば楽しいじゃないか!」
という声が聞こえてくる気がします。

ところで、この本の最後の論考はプルーヴェの娘さんによるものです。表現者の家族がどのようなものであったのか。父への敬意は払いつつ、文章の端々ににじみ出る悲哀にアンビバレントな思いが吐露されています。いろいろな意味で大変なのでしょうね、こういう父親を持つと。。。

Kindle INFO


AudibleとかUnlimitedとかいう以前に、Amazonではいまのところ古書しか入手できません。しかも、出版時の5倍程度の価格になっています。

高いか安いかは、読み手によります。この情報の量と密度を考えると、ひとによっては100万円以上の価値があるかもしれません。

まあ、そうはいっても、とりあえずは美術館の資料室などで手に取ってみることをおすすめします。東京都現代美術館や国立新美術館には日本語版、英語版の蔵書があります。たまにメルカリにも出るかもしれません。検索条件を保存しておきましょう。


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