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ミニ四駆に戻ってみた。10 素組み対決

「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、3月も下旬を過ぎれば暖房もいらないくらい暖かな日が続くようになった。

駐車場の隅に固められた雪山が溶けはじめ、 熊と猪に埋め尽くされた不審者情報欄に人間も混ざり始めるのが新潟の春である。

出会いと別れ、変化と活動、命が芽吹く輝く季節へ。

そして俺たちの戦いもまた、新たなステージを迎えようとしていた。

「 すまんかった」

「いや」

俺の謝罪に短く応えるヒロ。

本当は3月中にヒロ達とレースをする予定だったのだが、俺がインフルエンザにかかってしまったせいで開催できなかったのだ。

仕切り直しの対決予定日は4月上旬。今日が3月24日なので一週間弱の時間が空いた形になる。

どうせならここ最近のフラット修行で得たノウハウも駆使し、現状ベストの特別なマシンを組みたいと思う。

特別な! プレミアムな奴をだッ!

「フッフッフ...!」

職場では「ホスピタリティ・デー」などと話してきたが、本来はもっと祝うべき日であることは言うまでもない。

そう、3(み)2(に)4(よん)の日である! 特別なキットを使うとしたら今夜を置いて他になし!
 


ィヤッホォォォォォオゥッ! リバティ最高ゥゥゥ!

ザウルス先生ありがとう! 生み出してくれてありがとうッ!!!

こういうレアキットは使わないでいると一生積むことになるからな。乗るしかない、このビッグウェーブに!

しかしこのキット実に良い。大径バレルにワンロック、白シャーシにリバティのボディ!

コイツには下手なギミックは搭載せずにシンプルなサイドマスダンで勝負に挑む!

ホビーロードでの出来事を思い出す。前後バンパーと6ローラー、あれがミニ四駆の基本形なのだ。

であれば、それに忠実なマシンに仕上げれば………行ける!

というか毎回『行ける!』と思うんだけど結局負けてばかりなんだよなぁ。

いいや、それも今回までだ! 今度こそ俺が勝つぞ!


しかしその数日後、事態は一変してしまう。

「ホットボックスもジャンボドームも来月末までフラットだ」

「マジですか」

ヒロから届いた驚愕の知らせに思わず敬語になってしまう。

元はといえば俺のせいなのだが、タイミングが一つズレただけでこうも環境が変わるなんて。

ヒロの高性能マシンとUMAの変態マシンを相手にS2リバティで立ち向かう、そんな熱い展開を期待していたというのに!

ぶっちゃけ今回はかなり自信あったし、ようやく初勝利かというこの時に、近場にはもう立体コースが無い…だと?

ぐぬぬ、なんとかコースデビューさせたいぞS2リバティ!

とはいえ無いものは無いからなぁ、どうしたものか...。

「うーむ困ったな。あ、そういえばUMAの友達が見学に来るってさ」

「今回はギャラリー付きか。見学って無料?」

ジャンボドームはミニ四駆コースに利用料が必要だ。

1000円以上のお買い物or利用券で1日走らせることができる。

「どうなんだろう? もしも入場料が必要なら、いっそ1台購入してもらって…」

そこで、ふと閃いた。

「そうか、素組み対決にするか!」

仮に無料だったとしても、見ているうちにやりたくなるかも知れん。だったら最初から参加しやすい対決にしてしまえばいい!

「使用可能なものはキットのみ。電池は別途用意OK。モーターはノーマル」

「フッ」

てな訳で今回は素組みフラット対決だ。

「決まりだな。ああでもクッソ! 今回の立体車は自信あったのになぁ〜!」

「そうか。なら立体仕様のままフラット対決ってのはどうだ?」

「え?ってことはマスダンとかブレーキも」

「付けっぱ」

「マジですか」

これまた斬新な対決だ。あえての立体装備つけっぱなしフラットか。

そんな訳で対決は素組み対決と立体車フラットの2本立てで行われる事となった。

むむむ。この勝負、全く読めんッ!



2016.4/2
AM 9:45
新潟市江南区 ジャンボドーム

「お疲れ!」

そして迎えた対決当日。

俺とヒロが店に到着すると、既にUMAともう一人の男性が開店を待っていた。

「どうも。こっちが話していた参加者の『武者(むしゃ)』さん」

「ああ、初めまして! ほっとです。よろしくお願いします」

「武者といいます。よろしくお願いします」

自己紹介を交わしながら、男4人でドカドカと店内へ入っていく。

新たな参加メンバーも加えての身内レース。ヒロとの対決シリーズで数えると8戦目にあたる。

ぐあっ、改めて数えるともう8連敗なのか!改めて考えると弱すぎる。ちくしょうめぇ!

そんなメンタル崖っぷちの対決は豪華2本立て。

まずは午前中の部、素組み対決だ。

「ああ、ブルーメッキバージョンだけが売ってない!」

ヒロが見ていたのは、この春限定品として出てきたエアロアバンテのメッキシリーズだった。

数日前に電話した時「ロマンに走りつつ勝ちに行く」と話していたが、どうやらお目当ての品がなかったらしい。

哀れなり、ヒロ。

到着早々ダメージを負ったヒロは放置し、まずは全員が選んだキットを披露し合うことに。

「まずは俺から。サンダーショットMk-Ⅱレッドスペシャルだ」

俺の選んだマシンは限定品の白MA。

フラットコース、素組み、ノーマルモーターという条件であれば、大径バレルのハードタイヤを履いたMAが最適解であると考えた。

ギヤ比4:1である事が少し不安だが、MAの素直な駆動を信じるとしよう。

「ほい...」

覇気を失くしたヒロが取り出したのは、これまた限定品のシャドウシャークイエロースペシャルである。

素組みでも速いと定評のあるARに色付きローハイトタイヤの組み合わせ、 そして3.5:1の超速ギアが標準装備の化物キットである。

普通に高性能キットを保険に用意してある辺りは流石だ。てか最初からメッキ版いらなくね?

お次は初参戦の武者さん。彼の選んだキットは?

「これです」

言いながら大手通販サイトの名前が刻まれたダンボール箱を開封し、1台のキットを取り出した。

「あ!」

噂のエアロアバンテ、ブルーメッキバージョン!

「さっきそのマシン売ってないなって話してた所なんですよ!」

タイミングが良すぎる。

思わぬところで追加ダメージが入るヒロ。 骨は拾ってやるぞ...。

さあ残るは1人。

「で、UMAは?」

「これだ。使ったことが無かったのでな」

「うっ!」

ファントムブレード、ブラックスペシャルじゃないか!

素組み対決にSXX!? いや、確かに改造次第では劇的に速くなるシャーシだとは思うんだけど、確かあのキットの組み合わせは...

ま、まぁUMAだしな、なんとかするだろう!

一通りお互いのマシンも確認したところで各々作業を開始する事にした。

各マシンの性能をざっくりまとめると以下の通り。

・ヒロ
シャーシ…AR
タイヤ…ローハイト(ハード)
ギヤ比…3.5:1
ローラー…POM

・UMA
シャーシ…SXX
タイヤ…小径ワイドバレル(ハード)
ギヤ比…3.5:1
ローラー…ゴムローラー/プラ

・武者
シャーシシャーシ…AR
タイヤ…ローハイト(ノーマル)
ギヤ比…3.5:1
ローラー…POM

・ほっと
シャーシ…MA
タイヤ…大径バレル(ハード)
ギヤ比…4:1
ローラー…POM

うむ、UMAのマシンだけ安定重視のパーツが特盛り状態なのだがそれもまた個性だろう。

そんなUMAは前回ツッコミ担当で忙しかったせいか、例のボイスが聞こえてこない事が気になっているようだ。

「今日はパンチングマシーン静かだな」

「いいんだ、静かにさせておけ」

ヒロさん、あなたこの前は一番ノリノリでしたよね?

「ちょっと寂しいな」

しかし今日の置鮎は本当に一言も発しない。

もしかしたら俺達が必死すぎて気を遣わせてしまったのかも知れない。

空気を読む筐体とは。まぁ置鮎だからな。

などと軽く雑談を交わしながら、それぞれ作業を進めていく。

同じ素組み対決だというのに、組み方は人によって様々だ。

ヒロは早々に電気関係を組んでモーター慣らしを始めている。手際の良さは流石だ。

「オイルぐらい使わせてくれ……」

そういえば以前から「キット付属のグリスなんて使ったことがない」とか言ってたな。

正直ヒロの圧倒的な勝率の高さはその『準備力』によるところが大きい。

キットの中身しか使うことが許されない素組み対決とは相性が悪いように思えた。

とりあえずグリス問題から目を背けたいのか、今はシャドウシャークのシール貼りに専念している。

まぁ最終的にはクッソ速いタイムを出してくるのがいつものパターンだ。心配いらないだろう。

「ふむん...」

UMAはギヤのブレークインを行っている。

特に難しい事はせずに淡々と作業をこなしている。至って普通の光景だ。

しかしその内容はワイドトレッドのSXX、小径バレルタイヤ、 ゴムローラーという安定性極振りのセッティングである。

おおよそフラット用とは思えないチョイス。だが毎回なんだかんだで好成績を残す奴なので油断は禁物だ。

「...ん」

武者さんは久しぶりのミニ四駆という事もあり、説明書を見ながら丁寧に組み立てている。

驚いたのは金具をセットする時にピンセットを使用していた事だ。素手で触ることによる回路の汚れを気にしているのか?

ミニ四駆において丁寧さは速さに直結するという。 武者さんのマシン、 もしかしたら面白いことになるかもしれないな。

そして、俺はというと………

「ワッシャーどっか行ったぁぁぁぁぁ!」

いつも通りパーツを落としてピンチに陥っていた。

素組み対決においてパーツの紛失はイコール敗北とも言える。

素組みに潤沢な予備など無いのだ。これはマズイ!

???「何か落とされました?」

「あ、はい。ワッシャーを落としてしまって……」

すぐ後ろにいたお客さん(20代くらいの男性)に助けてもらい、何とか発見した。

「ありがとうございます!」

「皆さんミニ四駆は長いんですか?」

「いえ、自分は半年ぐらいです。あ、武者さんは今日がコースデビュー戦で〜」

「そうなんですね!実は私も〜」

彼の名は依紅瑠(イクル)さん。

最近友人の方と始めたばかりだそうで、コースを走らせるのも本日で2回目とのことだった。

目を引いたのはそのマシンだ。見た目のこだわりが尋常ではない。


使用マシンはブリッツァーソニックのブラックスペシャル。

ステッカー代だけでも数千円というこだわりっぷり。デザインへの熱意が素晴らしい。

それだけじゃなく、なんとこのマシンにはオリジナルの名前とイメージキャラクターまで存在するというのだ!

爽やかなイケメンだが、そのパッションはかなり熱い!!

折角なので対決にお誘いすると、午後からの『立体仕様マシン対決』に参加してくれる事となった。これは楽しみすぎる!

彼の紹介はこのくらいにして、俺の素組みマシンに話を戻そう。

今回の作成はスラスト調整とパワーソース関連が主なポイントになる。

まずはシャーシのフロントステーを軽くヤスリがけし、スラスト角をなるべくゼロに近づけていく。

次にランナーから切り離したローラー、各種軸受けのランナー跡にもヤスリがけを行う。

すりすり…

絵面が地味。

だがそれがいい。これぞホビーだ。

お次はパワーソース。使用するのは100均の『金属磨き布』だ。

これをターミナル全体が輝くまで擦っていく。

すりすり...

やはり地味。

そのままローラービスとワッシャー、ギヤシャフトも磨いておけば準備OK。

後はモーターに愛を注ぐのみ!

うっかり日向の席を選んでしまったので、モーターが熱を持ち過ぎないよう注意しなければならない。

チュイィィィ

使いかけのアルカリで少しずつ回していく。

少しずつ、少しずつ。

Twitterの視聴者さんから教えてもらった。モーターは『マティーン愛』で回すものだと。

そう、愛は育むものなのだ!

チュイィィィ

回転に引っ掛かりが無くなり、音が甲高くなったところで計測に入る。

ドンドンッ

ドヒューッ!

「ここは色々な音がありすぎてモーター音が拾えんぞ?」

となりのヒロロが計測アプリの数値を見ながら肩を落としている。

仕方がない。ここはバッティングセンター内なので様々なノイズが邪魔をしてしまうのだ。

俺も測定しようとするが、ヒロと同じく他の音を拾ってしまうため上手く測定できない。

普通のやり方では難しいだろう。

だが大丈夫。俺は普通じゃない!

窓を開け放ち、外に手を伸ばして空中で測定する。

「それで計れるのか?」

「ああ。屋内でダメなら屋外だ」

しかしチラッと見えた今の回転数、やってしまったかも知れん…。

モーター慣らしも完了し、ボディとタイヤを取り付けると全体像が見えた。

春の光をその身に浴びるサンダーショット。クリアボディが眩しい。

おお、カッコいいじゃないか。

クリヤーボディを堪能しながらシールを貼っていると、懐かしい顔が見えた。

「おお、久しぶり!」

俺のブログを読んだ幼馴染みが、一家揃って見学に来てくれたのだ。

再会を喜びつつ、集まった面々に視線を移す。

去年の夏、ヒロに誘われてミニ四駆に戻ってみた。

あの時は2人でタイマンレースしているだけだったが、今ではこんなに大勢でワイワイやれるようになった。

うーむ。感慨深い。

せっかく来てくれた幼馴染みのため、完成したばかりのサンダーショットを試走させる事にした。

シュイィィィ

うん。駆動音も静かだ。

慣らし用の垂れた電池のままスタートさせる。

ギュイィィィ

「速ぇ!」

「遅ぇ!」

「こんなもんじゃね?」

三者三様のリアクション。

ホビーロードで実験した素組みのS1よりは速いが、ARの時よりも遅い気がする。

ちょっと心配だな。



AM11:30

全員のマシンが完成したところで、いよいよ対決スタートだ!

まず第1レースは圧倒的な勝率を誇る独身教授ヒロvs初参加の武者さん。

絶対王者対ルーキー!

漫画の第1話っぽい展開だ。順当に行けばヒロだが果たして...?

「合図頼む」

「応」

シュイィィィ

空転する駆動音はほぼ同じ。奇しくも同じAR。

「位置について、用意、スタートッ!」

スタートは同時!

どちらも上手く組めているのか、直線では差がつかない。

「互角! 互角!」

しかし、次のコーナーで状況が変わった。

「……どこがだ!?」

少しずつ差が開いていく!

「速ぇ! 速ぇぞこれ!?」

コーナーの度に2台の差が少しずつ開いていく!

「ふははッ!」

差が縮まらない。

ヒロがキャッチの姿勢を取る!

先にゴールしたのは......

「ゴォォォォォォォル!

勝者ぁ、武者さんッッ!」

絶対王者、撃沈!!!

「ヒロ、敗北ッッ!!」

ド田舎のごく一部に激震が走る。

常勝の独身教授を破ったのは、これがミニ四駆デビュー戦という紛れもないスーパー初心者。

タミヤの説明書通りに忠実に作られたARシャーシに限定品のメタリックボディ。その名も、武者アバンテッッ(⬅勝手に命名)!!

まさに下克上、あのヒロを倒すとは。武者さん、恐ろしい子!



第2試合 UMA対ほっと

次はいよいよ俺の出番だ。

哀しいかな、素組みの不利をよく知るSXXと素組み最強と謳われたMAの対戦である。

「スタートの合図を頼む」

見学の幼馴染みにスターターを任せ、サンダーショットのスイッチを入れる。

対するUMAも緊張の面持ちだ。

SXXの駆動音が静かなのは、きっちりブレークインされている証拠だ。油断は出来ない。

「位置について、用意、スタートッ!」

ギュイィィィ!!

2台のミニ四駆がほぼ同時に第1コーナーへと突入!

そして………

「………」

しんと静まり返った会場に、バッティングセンター特有の金属音とマシンの走行音だけが響き渡る。

誰も一言も発しない。皆がポカンと口を開けている。

なんぞこれ。

分かっちゃいたけど性能差がりすぎた。1周目だけで「あ、もういいや」っていう空気。

これはアレだ。アカンやつや。

「周回(遅れ)になりそうなんだが」

UMAが口を開いたのと同時に、サンダーショットは悠然とゴールしていた。

「という訳で俺の勝ちでーす」

とっちめちん☆



第3試合(決勝) 
武者 対 ほっと

いよいよ決勝戦だ。

と、その前に。

「何をしている」

「俺、こっちだったら勝てるんだけど」
 


ヒロが手にしていたのは、いつぞやの黒塗りのフェスタジョーヌだった。

ギュイィィィ

「速いっすね」

「ノーマルモーターだ」

「えっ」

依紅瑠さんにドヤっているところ申し訳ないが、今は素組み対決の真っ最中だ。

「はいはい」

レブ対決で相手してやるから、首を洗って待っているがいい。

さて仕切り直しだ。

武者さんのエアロアバンテは既に準備万端。いつでも行けそうだ。

俺も新品の100均アルカリ電池を取り出す。

「UMA、スタート頼む」

「お、俺?」

合図に合わせてスイッチを入れる。

モーター音に問題は無い。いや、むしろ今までにないレベルで速そうな音を出していた。

それはそうだろう。

なんせノーマルモーターで17300だなんて、復帰してこの半年で聞いたことがないからな!

「位置について、用意、スタート!」

決勝レース、開始!

ギュイィィィ

スタートは互角だ。武者さんの作業が如何に丁寧だったのかよく分かる。

ではコーナーリングはどうか。お互いローラーは低摩擦なPOM。差が出るとすればタイヤの硬さか?

ヒロとの勝負ではコーナーでリードを広げていた印象だったが、俺は負けぬ!

武者さんのノーマルローハイトに対し、俺はハードバレルタイヤだ。行け!

「おおっとぉ!?」

コーナーの度に少しずつ差が開いていく。

ギュイィィ、ザシャァッ

レーンチェンジもド安定。

そして2台とも安定した走りであっさりとゴール!

「………」

静まり返る店内。

鳴り響くのは、未だ走り続ける2台の走行音のみ。

「……はっ!?」

しまった、自分が運営だってこと忘れてた!

「は、はいっ終了! という訳で、私ほっとが、運営担当が……素組み対決、優勝を頂きました! なんだかすみませんッッ!」

祝☆初勝利! でもなんだこの空気は!

「良いじゃないですか」

「運営が勝っちゃマズイのか?」

「いや、何というか」

「………」

みんなの顔を見てようやく実感した。

とうとう、勝っちゃった!

勝ったぞぉぉぉぉおおおお!!

PM 0:20

午前の素組み対決は大波乱の末に『マティーン愛』の勝利で幕を閉じた。

とはいえ急造の素組み対決ではどうしても運の要素が絡んでしまう。むしろここからが本番だ。

「では皆さん、これより午後の部に入ります。午後の部は『立体用セッティングのままフラット対決』です。

PM2:20までは自由に練習し、一番自信のあるマシンを選んで下さい。優勝された方は全員で誉めてあげます!」

基本的に進行は適当である。

みんな普通にマナーが良いので細かなルールが要らないのだ。

嗚呼素晴らしきレーサー達よ。大切なのは速さじゃないね。うんうん。

「ほら、頑張ったよぉ?」

言いながらヒロが取り出したのは。

「これは…ライズエンペラーじゃないか!」

「おおっ!」

マットブラックに染められた皇帝。サイドの肉抜きに並々ならぬ情熱を感じる出来栄えだ。

「ハーフペラタイヤにピン打ち加工まで!」

依紅瑠さんがめっちゃ撮影してる。

その反対側では、UMAが何やらゴソゴソと取り出そうとしている。

そう言えばさっき「俺も1台組んできた」と言っていたが...?

「ほい。ボディは当時の物だ」

バ、バーニングサンの当時モノ!?

ボディもアレだが、これってゼロシャーシじゃないか!

恐るべし。流石だUMA!

そして………

ギュイィィ、がしゃんっ

期待を裏切らないコースアウトっぷり。って貴重なボディがっ!

「ゼロシャーシだからスラスト付いてないぞ」

「そうだったな。でも調整プレートなんて無いし」

そう言うと走らせるのを止めてしまった。

まさかの出オチ!?

ギュイィィ

UMAと漫才をしていると依紅瑠さんがブリッツァーソニックを走らせ始めた。

まだ復帰2回目とは思えない速度が出ている。これはヤバい。

「速ぇ~!」

「いやぁ、スプリント積んじゃってますからね」

現代ミニ四駆初見の幼なじみが心底驚いた声をあげる。

ほら、後ろからヒロが怪しい視線のレーザービームを送っている。狙われてるよ?

依紅瑠さんの相手はヒロか。という事は俺の担当は...

「なぁ、そのマシンのモーターは何が入ってる?」

「ん? トルクだけど」

「よし、俺と勝負だ!」

「はぁ!?」

指名した相手はUMAのトラッキンミニ四駆、サニーシャトル。

今なら素組みのサンダーショットでもいい勝負になりそうな気がする!

幼馴染みにスターターを依頼する。サニーシャトルのヤフ○ク価格を聞いた時のリアクションがまた良い。

「自分も混ざって良いですか?」

「どうぞどうぞ」

ノーマルモーターに乗せ変えたブリッツァーソニックも交えてスタートラインに着く。

「位置について、用意、スタート!」

「あ、すまんっ!」

しまった、手がすべった!

「おいっフライングだぞ!?」

UMAが笑いながらツッコミを入れる。だがそれも一瞬だった。

ギュイィィィ

「あれっ」

「ふっ!」

「いや、そりゃそうだろ」

すぐに追い抜かれ、二人に大差を付けられて敗北してしまった。

くそぅ、俺のサンダーショットがフライングして負けるだと!?

「今度は俺だ」

見ると、ヒロが黒塗りのフェスタジョーヌを持って待ち構えていた。

あれ、よく見ればマイナーチェンジしてる。

マスダンの類は取り外されて完全な低トルク専用マシンとなっていた。

そんな改造マシンで俺の素組みに挑むとはな(逆の意味で)!

ギュイィィィ

「ウラァ!」

「ぐぬぬ!」

敗北。ってそりゃそうだ!

くっそぉぉぉ、こうなったらアレを出すか!

これならどーだ!

「それは、アストロブーメランじゃないですか!」

アストロブーメラン雪風、ARダッシュフラット仕様じゃい!

大径バレルに鬼スラストの『トルクで何とかする』平面用ダッシュ系マシン。コイツにレブを積んで再チャレンジだ!

相手は再びUMAのサニーシャトルと、依紅瑠さんのブリッツァーソニック。

だがしかし。

「ぐあっ」

完全においてけぼり。

遅い。遅すぎる。

「ダメだなぁ」

ヒロからのダメ出しが入る。

おのれ、こうなったら!

モーターをハイパーダッシュに交換! さすがにこれで勝つる!

「もう1回だ! 今度は一番速い奴で来てくれ!」

「しょうがないなぁ」

半ば呆れ顔でUMAが前回優勝したファイヤードラゴンを取り出した。

今度こそ、今度こそ〜〜!!

ギュイィィィ

フオオオオオオオオオッッ!!!

「嘘でしょ?」

そ、速度が違いすぎる!

「ダメだぁぁぁぁぁ!!!」

またもや敗北。

「うはははは! 仕方ないなぁ、このタイヤ使ってみ?」

そうして渡されたのはバーニングサンに使われていたイボイボタイヤ。

くっ………!

敗者に拒否権は無い。屈辱のイボイボタイヤを装着した。

「位置について、用意、スタート!」

フオオオオオオオオオ!

フオオオオオオオオオッッ!!

変態が増えた。

「おい、なんか取れたぞ」

「あっ」

ホイール抜けました。

「もうやだこのタイヤ!」

「なんで!? ちゃんと刺してなかっただけだろ!」

まさかの連敗にたまらずピットイン。

その間に後ろではヒロvs依紅瑠さんの苛烈なバトルが繰り広げられていた。

ギュイィィィ!

さっきまでの俺達とは速度域が違いすぎる。

徐々にリードを広げていくヒロ、しかしそれに食らい付いていく依紅瑠さんもなかなか。

そんな高次元な勝負の脇で、なぜに俺はこんなイボイボ地獄に付き合わされているんだ??

「ふっ」

もういい。使う。

使っちゃうもんねーーー!

箱の奥から取り出したのはマジーの遺産。うみはねさんから賜った聖遺物、旧パワダである。

トルクを欲するAR雪風に最高のモーターを授けようではないか。

「よっしゃ使うぞ!」

そしてUMAとの再戦。しかしそれは間違いであった。

ギュイィィィ!!!

「えっ」

違う、先程までと全然違う! 圧倒的じゃないか!

というか、なんだこれ強すぎるぞ!?

「これはいかんっ」

すぐさま完走した雪風を回収してモーターを取り外す。

頭に血が登って使ってしまったが、これはモーターの質が別次元すぎる!

このままだとパワーソースでなんとかするだけの人間になってしまう、それは嫌だ。

コイツはいざという時まで大事にとっておこう。

「よし、ヒロ。レブ対決行こうぜー」

「やるのか?」

二人でニヤつきながらレブマシンを用意する。

ヒロは先ほどのフェスタジョーヌ、そして俺は満を持して登場のS 2リバティだ。


「レブなんですか?」

「はい。いつもはレブなので」

「じゃあ、自分もレブあるので混ざって良いですか?」

依紅瑠さんも交えて3人でレブ対決をすることになった。いいよ熱いよ!

スターターをUMAに任せてスタート位置に着く。

「位置について、用意、スタートッ!」

ギュイィィ!

3台同時にスタートを切った!

出足は互角、注目はコーナーリングだ。

「んっ」

何度目かのコーナーで徐々にブリッツァーソニックが遅れ始める。

まだ慣らしも脱脂もされていないベアリング
ローラーでは無理もないだろう。

勝負は俺とヒロに絞られた。

だが、徐々に。

ギュイィィ、ザシャァッ

徐々にだが、その差は開いていく。

最終ラップ、S2リバティを迎え入れる体勢を取り、そして……

「良し!」

ゴール!

先に戻ってきたのはS2リバティだった。

勝った…!

勝ったぞ!!

「あんまり差は無かったな」

「ああ、だが」

カシャッ、カシャッ!

「俺のは角マスダン付けっぱだけどな」

「………!」

いいリアクションだ、ヒロ!

ふはは、もう負ける気がしないぜ!

「さあUMA、待たせたな! ファイヤードラゴンで来い!」

「えええっ!?」

フオオオオ!

ギュイィィイ!!

「はい俺の勝ぁぁぁぁち!」

「おまっ! お前! 勝てるって分かってやらすんじゃないよ!?」

ふはははは! 怖かろう!

「諸君、これがレブチューンだ。済まんなァこんな強モーターを使ってしまってなァ!」

絶好調である!

間違いない、俺のS2リバティは最強だ!

このまま午後の部も俺がいただく。 完全勝利を成し遂げてみせる!

うおお、やぁぁってやるぜ!


【 次 回 予 告 】

やったぞ! 遂に俺が勝った!

素組み対決を制し、その後のレブ対決でも勝利した俺は有頂天になっていた。

今までの行為は正しかった! 俺は速いレーサーになれたんだ!

喜びを爆発させる俺だったが、その時ヒロから信じられない言葉を浴びせられてしまう。

なんだと!? 俺の、俺のリバティが...!?

次回、ミニ四駆に戻ってみた。

「方向性」

そんな、そんなバカな! 俺のS2がこんなに遅いワケがない!!!

ほぼ毎夜10時頃~YouTubeにてゲームorミニ四駆の生配信を行っています!お気軽に遊びに来てください!https://www.youtube.com/channel/UC38sxZzD1yC-rTQzTaS7h5A