ミニ四駆に戻ってみた。8 ベテランの衝撃
まさかのイボイボ大勝利に終わった立体3000円対決から数日後。
ギュイィィィ
「うっ、遅っ!」
俺のS1は思いっきりスランプ状態に陥っていた。
いつものホビロ常設コースを走らせているのは前後フルカーボン井桁仕様のリバティエンペラー。
平面速度の底上げを目指してカツフラマシンを見様見真似で組んでみたのだが、これがまぁ激遅だった。
ひょっとしたらローラー類が原因かと思い、試しにS2に移植して走らせてみると。
ギュイィィィィ!
「うっ!」
タイムはなんと過去最高の8秒984っ!
パーツのせいじゃなかった。むしろポン着けFRPのS2で更新できるって事は、俺のS1がダメって事じゃないか!
ぐぬぬ、これではS1使いとは名乗れぬッ!
「速いですね」
「いえ、これは......」
その場にいた親子連れの方に褒められるが素直に喜べない。
悲しみに暮れながらパパさんの走りを見学していると、別のお客さんが入ってきた。
「良かった、誰か居たぁー!」
ハツラツとした声を響かせ、そのまま他のお客さんや俺に話しかける。
「いつ来ても、誰もいなかったんですよぉ〜」
男性のお名前はバルバルさん。ライキリのデザインに惚れ込み、デザインを活かしたまま速くしようと奮闘中との事だった。
そのまま3人で話すうちに、即席の意見交換会が始まった。
パパさんは復帰1~2ヶ月とのこと。しかしそのマシンはとても同じ初心者が組んだとは思えない出来ばえだった。
黒地に白いラインの入ったポリカのエアロアバンテにバンパーカットされたVSヒクオ、ゆとりピン打ちとレベルの高さが伺える。
ギュイィィィ!
うっ、普通に俺より速い。
「速いっすねぇ~!」
バルバルさんも復帰間もないらしく、ライキリをメインに活動しているチームの影響でミニ四駆熱が燃え上がっているそうだ。
「見てくださいこれ、ベッタベタですよね!?」
「おお、凄いっすね!」
実車さながらのシャコタン仕様。ライキリならではの改造だ。やはりミニ四駆の楽しみ方は幅が広い。
と、ここで再びコースにお客さん登場。ストⅡ的に言うとテレレレッテッテッテッテテッ!
プラボディのエアロアバンテを携えた男性だ。マシンを見て何度かここでお会いした方だと気付く。
アバンテの男性も交えてミニ四駆談義を継続。流石は第三次ブームと言われるだけの事はある、平日の夜にここまで人が集まるとは。
みんなでワイワイ話していると、またもや足音が聞こえてきた。テレレレッテッテッテテッ!
「自分も見てて良いですか?」
「どうぞどうぞ!」
新しく上がってきた、帽子をかぶった男性。こちらの方も復帰組の方かな?
「お兄さんはミニ四駆歴は長いんですか?」
「えっと、素組みしかしてない期間を入れていいのであれば20年以上。保育園を過ぎて、一人で組めるようになってからずっとですね」
「えっ!!!」
バキィィィィィン!
スパⅡX豪鬼!? ベガ瞬殺!?
ブームとかではなく、ずっとミニ四駆を続けておられるってこと?
俺達の意見交換会は彼......うみはねさんへの質問コーナーへとシフトしていった。
これはチャンスだ。俺も迷える子羊なので聞くしかない、遮二無二聞くしかない!
「最近S1でのタイムが遅くなってしまって、どうしたらいいのか」
藁にもすがる思いという状態。一体どうしたらS1を速くできるのか!
「暇があったら図面引いてみるといいんですよ」
「図面?」
「こんな感じです」
そう言って見せてくれたスマホの画面に映されたのは、綺麗に製図されたS1井桁の設計図?
「自分もこの前、友人とCSNKに出場して来まして」
カツフラ大会!?
カツい人だ! 本物の人だ!
カンカンッ
「おお」
ここでベテランの方が2名に増える。
「○✕が△□で§√¶↹なんだけど〜」
「おーでもそれってさぁ¢℉€¿の¤‰µ❞が〜」
駄目だ、サッパリ分からない!
その対話に我々常人は踏み入ることが出来ない。雪崩のように迫りくる情報量にただ圧倒されるばかり。
そしてそのまま2人で店内へと向かっていく。結局最後まで何を言ってるのか分からずじまいだった。
すげぇ、ミニ四駆は深すぎる......。
☆
「お、もうこんな時間。私達も帰ります」
「お疲れ様でした~」
VSのパパさん親子を見送り、残ったメンバーでエアロアバンテの走りを眺めながら雑談を交わす。
今日は本当に来て良かった。同じ時期に始めた人とも話せたし、何よりベテランさん達の話も聞くことができた。
そしてそろそろ閉店かというタイミングで、先程のベテランさん達がコースに戻ってきた。
良かった、どうしても聞いておきたい事があったのだ。
「すみません。ここのコースって何秒くらいで走られるんですか?」
「えっここのタイム?」
顔を見合わせるベテランさん達。そんなにおかしな事を聞いただろうか?
「そもそもここじゃ計らない」
話によると、カツフラ大会に出るようなレベルのマシンが万が一にでも子供にぶつかると危険らしく、ここでは滅多に走らせないらしい。
え、そんな速度が出ちゃうの!?
「ああ〜でもあの時たしか計られたっけ?」
「ああ〜」
雰囲気が少しヒロに似ている方......カガ・レイさんが何かを思い出したようだ。
「確か7秒を切っていたはず」
「7秒を切っていた!!?」
えっ、どういうこと!?
どうやったらそんな速度が出せるんだ? 電池? モーター? パワーソースが違うのか?
「あぁ、アトミでな」
「アトミで」
ぐうの音も出ない。
自分の未熟を心底痛感した......。
☆
数日後。
ここ最近の不調やら上級者との絶望的な差やらで凹んでいた俺は、仕事も手につかないレベルでひたすら悩んでいた。
「ぐぬぬ」
悩んだところで事態が好転する事などありはしない。困った時は動くしかないのだが、肝心のアイデアが全く湧いて来なかった。
せめてヒントが欲しい、そう思って会社帰りにホビロへと足を運んでみると。
「うん、でもそれってさぁ……あ」
「あ」
うみはねさんと普通に再会。
Xシャーシの方......こばにゃんさんと話していた所にお邪魔し、色々と貴重なお話を色々と聞かせて頂いた。
参考になるサイト、ブレークインの存在意義、井桁の組み方、FRPとカーボンの差、賢い買い物まで。
「それで℉¡№が£¤‡という風に組めれば〜」
話は相変わらず難しすぎてよく分からなかったが、なんとなく感じた事がある。
それは、今の俺に足りていないのは『速いマシンを組む』という経験なのだという事。
いつものノリではなく、ミニ四駆をモータースポーツとして見直してみたいと思う。
☆
「てな訳で、幾つかオススメされた中からスラッシュリーパーを選んでみた」
「ほう」
電話にてヒロに近況を報告しながら次回対決についての相談を行っていた。
「次回は確かあそこだったな。ま、俺はどこだっていい。暫くはMSフレキで行く」
「『どこだっていい』と来たか」
たいした自信だ。
「どうしてもフロントが跳ねるからボディ提灯に変更した。中身のほうもガラリと替えている」
前回披露したMSフレキでは物足りないということか。次回も手強そうだ。
「楽しみにしてるよ。とりあえず俺は修業だ、井桁の参考になるサイトを教えてもらったんだ」
「カツフラかぁ。俺は立体の方が好きだが」
仲間内で対決する分には立体でワイワイ騒ぐのも良いだろう。
だがそれとこれとは話が別だ。今はS1のスランプを何とかしなければならん。
まずは速いマシンに触れたい。そしてその速さの秘訣を知りたい。その為の修業なのだ。
流石に7秒を切るっていうのは果てしなく遠いが、少しでもS1を速くしたいと思う。
さて、まずはVSの速さを見せてもらおうか。
☆
翌日の昼休み。
先日ベストラップを出せたS2からパーツを丸ごと移し、テスト走行を行う事にした。
これでS1、S2、VSと同じパーツを使って検証した事になる。純粋にシャーシの違いが分かるはずだ。
それでは、早速実験開始!
ギュイィィィ、がしゃんっ
あれ、スラスト角の調整をミスったか?
何とか調整を終えて再スタート!
ギュイィィィィ、がしゃんっ
「???」
変だ、普通のコーナーで吹っ飛ぶ。
仕方なくスラスト角を増やしてみると?
ザシッザシッザシャァァァ!!!
「は?」
いやいやいや!?
今度はコーナーをクリアするようになったが速度がヤバいよ速すぎるって!
がしゃんっ!
案の定レーンチェンジでコースアウト。
完走していれば間違いなく新記録だった。シャーシの種類が違うだけで、ここまで差が出るものなのか?
「うっ!」
いや違う、違うぞ?
復帰して初めて組んだS1は10秒を切った。しかしあの時はどうやって組んだ? 俺は何を考えていた?
その後はシャーシを交換して絶不調、S2の方が速かったせいでモヤっていたがそうじゃない。
俺の組むS1は元々遅かったのだ!
S1というシャーシのポテンシャルも分からないまま、なんとなく組み立てただけで、何をそうすれば速いS1になるのか全く考えていなかったのだ。
昨日のこばにゃんさんの言葉が脳裏に蘇る。
「俺も型番一桁のS1持ってるよ。走れる状態で」
……。
……ふふ。
ふはははッ!
ハーッハッハッハァ!!!
そうだ、走れる状態のS1っていうものが全く分かっていないじゃないか。駆動系の正解とかぜーんぜん分かんないから当たり前だ。
結局は腕次第。腕次第でどんなシャーシも速く出来る。俺のS1にもそれだけ伸び代があるってことだ!
素晴らしい。
まさにスポーツ! ミニ四駆は紛れもなくモータースポーツだ!!!
うおおおおおお! やったる、やったるぞ、S1の速さを引き出せるレーサーになってやるぜぇぇぇ!!!
【 次 回 予 告 】
ミニ四駆の速さは腕次第であると知った俺は、S1の速度を引き出すためにも平面で修行していこうと心に誓った。
そんな俺のために何枚もシャーシを譲って下さるうみはねさん。ありがたや〜!
その時見せてもらった1台のマシンが、凄まじいインパクトを伴って俺の方向性を決定づける事になるのだった。
次回、ミニ四駆に戻ってみた。
「レブチューン」
ダッシュ系モーター達よ、しばしのお別れだ。
ほぼ毎夜10時頃~YouTubeにてゲームorミニ四駆の生配信を行っています!お気軽に遊びに来てください!https://www.youtube.com/channel/UC38sxZzD1yC-rTQzTaS7h5A