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首は大切に:木枕は危険です

以前、「平床寝台」をすすめる記事を書いたので、枕についても、その手の健康法がすすめる「硬枕・木枕」なるものを使っていると思われると困るのではっきり断っておくと、使っていません。

木枕については、それで具合がよくなった、という声も実際にあるので一概にはいえませんが、論理的に納得できない点が非常に多いので、私は試す気もありません。

木枕で具合が良くなった、という人は、よほど重症のストレートネックで、かなり強引な矯正が必要であった少数派のような気がします(そして、たまたま運よく木枕のサイズがどんぴしゃりで合っていた、とか?)。

たとえそうであっても、木枕のようなものを使うのがベストなのかは疑問です。普通の人が木や陶器のような硬い素材の枕を使うのは、むしろリスクのほうが大きいので、避けた方がいいです。(まぁ、そんなものを使っている人はあんまりいないでしょうが)

人間の首は非常にデリケートです。下手に圧迫してはいけません。血流障害や脳梗塞をひきおこす恐れさえあります。 それを裏付けるニュースが、最近イギリスでありました。

美容院のシャンプー台のせいで脳卒中

何が起こったかというと、ヘアサロンでシャンプーをしてもらった男性客が、洗髪台に首を反らせる姿勢をとっていたせいで動脈に血栓ができた、というものです。

これは俗に「美容室脳卒中症候群 (Beauty parlour stroke syndrome)」と呼ばれています。

この男性は、その二日後に突然気を失い、病院に運ばれました。病院での検査の結果、シャンプー台の件との因果関係が明らかであるとされ、裁判に勝訴して£90,000 (約 1,300万円) の賠償金を得ました。

それはシャンプー台が硬い陶器だったからじゃないか、とか、強く押し付けたかブツけたんじゃないか、という意見もあるかもしれませんが、木枕は陶器ほどは硬くないにせよ、枕に通常使用するレベルの硬さではありません。

(また、ニュースの中で、この男性自身が「特に強く押し付けられたというわけではない」と証言しています)

首を圧迫したり揉んだりしてはいけない

首は、頭という非常に重い部分を支えているパーツです。 木枕を使っている人は、首の後ろを毎晩数時間にわたって圧迫しているわけですから、なんらかの形で血流障害が起こっている可能性もあります。

健常者なら、細かい毛細血管は切れても修復するので、気がついていないだけかもしれません。

木枕は頭にではなく首にあてるものですが、「けい椎第三、第四の部分を木枕にあてるべし」などというピンポイントな正確さを、寝ている間どうやって維持するんでしょうか。それに、木枕を使っている方って寝返りを一切うたないんですか?

確かに、寝返りが比較的少ない人はいます(どちらかというと私もそうです)。ですが、適度な寝返りは血液の循環を促し、床ずれを防ぐためにも必要です。 それでも、寝返りはうっていない、という人は、寝具の不具合や、ある種の緊張のせいで、寝返りが「打てていない」と考えた方がいいかもしれません。

覚醒時に短時間だけ木枕を使う、というのなら分からないでもないです。それならいいストレッチになるかもしれません。ですが、寝ている間ずっと使う、というのはいかがなものでしょうか。

重ねて言いますが、首は非常に大事なパーツです。揉んだりマッサージをしたりしてはいけない、とさえ言われている部分です。 自己判断や民間療法で下手にいじるのは危険です。 

ケイ椎の問題は、専門医に相談すべき

なかには、整体師に木枕をすすめられた、という人もいるかもしれません。ですが、整体師と言うのは、医師ではありません。医療資格でないばかりか、公的な資格ですらありません。

ちゃんとした整形外科医が、木枕をすすめるのを私は聞いたことがありません。

なお、ストレートネックは日本人特有のものではなく、きわめて一般的な首の症状です。英語ではミリタリーネックとも呼ばれます。 なので、ストレートネック用の枕も各種いろいろ売られています。そのほとんどが、ソフトパイプや記憶フォームなどを使用した、適度な反発弾性とクッション性を兼ねそろえたものです。

考えてみれば当然です。首の形状やカーブは人によって違うのに、木枕のように硬いものを使うなど、one-size-fits-all をむりやり首に課すような行為です。(木枕にはいくつかサイズがありますが、そんなわずかなバリエーションはたいした助けにはなりません)

タオルを数枚つかって、自分にあう高さの枕を自作した方がよほどいいでしょうし、ずっと安上がりです。

木枕を試してみたけど合わなかった、という人は、残念がるよりも、むしろ、「そんな荒療治をするほどのストレートネックではないのかもしれない」と肯定的にとらえた方がいいんじゃないでしょうか。

肩コリやしびれなどがひどい人は、まずは姿勢を正し、上半身の動きも取り入れた運動を継続して続けましょう。スマホの使用をやめる、というのも効果的です。

それでもだめなら、整形外科か内科(ほかの疾患の可能性もあるので)への受診をおすすめします。