コロナに助けられた話/コロナが神様のお使いに思えた日
オリンピックが2020年に東京で開催すると決定し、日本中が歓喜の渦だった2013年からわずか数年後、コロナで世界中が恐怖の渦に。世界は活動が止まり絶望感で一杯になった。まさに「一寸先は闇」この世は何が起こるか分からない。昨日までいいとされていた価値観が一瞬で激変する。ついさっきまで正しいと言われていたことが、今日には全く正しくなくなる。誰が悪いわけでもなくこれが時代の流れと言ってしまえばそれまでだ。時代の波に上手になった人だけが生き残れる時代。うまく波に乗れなかったら沈んでしまって、2度と海の底から這い上がれないかもしれない。
誰かの言う通りにしていれば生きていける時代は、とっくの昔に幕を閉じた。素直に誰かの言う通りにしていると馬鹿を見ることとなる。
常に自分の頭で考えて、柔軟な思考とパワフルな行動力と共に、時代という波乗りの練習をしておかなければならない。
私のところに相談に通ってきていた高校生の麻衣子ちゃん。苦しい受験勉強の末に首席で合格した高校に通い始めた矢先、何となく違和感を感じ、だんだん学校に行けなくなった。麻衣子ちゃんは大人しくて優しい頑張り屋さん。いつもお友達の和の中にいて楽しそうにしているように傍目には見える。勉強は問題ない。お友達とトラブルがあるわけではない。麻衣子ちゃん自身が息苦しさと違和感を抱えていた。最初は遅刻しながらも何とか学校には行けていた。だんだん2日に1回、3日に1回、そのうち1週間に1回、とうとう学校に行けなくなってしまった。
学校に行けない麻衣子ちゃんは、学校に行けない理由を探したが見つけることができなかった。理由なく学校に行けないことでますます自分を責めた。こんな自分が許せなかった。大っ嫌いだった。次第に死ぬしかないと思いつめるようになり、自殺する決意をした。どんなふうに死ねばいいかと真剣に考えた。いつ死のうかと具体的な日時も決定した。誰に何と言われても、死ぬと決断した。
死ぬと決めたらやっとホッとしたらしい。あと少しでこの世ともお別れができる。大嫌いな自分とさよならができる、そう思うだけで心が落ち着いたそうだ。
その矢先、コロナで世の中大変なことになった。ニュースも会話もは皆「コロナ」一色。自殺する覚悟をしていたので麻衣子ちゃんにとってコロナなんてどうでも良かった。コロナで、彼女の父親の会社が経営困難になり失業した。麻衣子ちゃんは、失業した父親がかわいそうに思ったが、自分がもうすぐ死ぬことで父親があくせく働かなくてよくなるだろうくらいに考えていたらしい。
どんどんコロナが蔓延していく中、学校が休校を余儀なくされた。
その途端、麻衣子ちゃんは急に「死ぬ」理由がわからなくなった。
理由なく学校に行くことができない弱い自分だったのに、学校が休校になったことでその罪悪感から解放されたのだ。
学校に行けないのではなく学校が閉鎖してしまったのだ。そう思うと急に元気になったらしい。
自分だけが学校に行ってないのではなく、全校生徒全員が自宅待機なのだ。
何となく息苦しさや居場所のなさを感じていたが、自宅で一人で過ごしていくうちに悩んでいたものがすっかりどうでも良くなったらしい。
もしも、コロナというものがなかったら、間違いなく麻衣子ちゃんは死んでいただろう。「こんなことを言うと不謹慎で叱られるかもしれませんが、たくさんの方々がコロナのせいで大変苦しい思いをしたり、苦しい思いをしたり、命を落としたりしているのに、私はこのコロナのお陰で助かったのです」と麻衣子ちゃんと電話セッションの際、言っていた。
たくさんの命を奪ったコロナ。しかしコロナが助けた命も確かにここにあった。
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