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日立製作所のJ-クレジットやデジタル環境債のブロックチェーン活用実証の解

カーボンニュートラルに向けた取組み


2023年末、日立製作所(以下、日立)が立て続けに2つのニュースリリースを出しました。
環境省が推進するJ-クレジットのデジタル化に向けて、本格的に実証を開始
日立によるデジタル環境債の発行に向けた協業についての2つです。後者は日立、JPX総研、野村證券、BOOSTRYの協業になります。

地球温暖化が深刻化するなか、個人や企業、国、ひいては社会全体として、脱炭素の取組みを通じて、カーボンニュートラルを目指すことが不可欠となっています。こうした背景のもと、J-クレジットや環境債などの金融ツールによる、温室効果ガスの排出量削減の後押しが行われています。一方、こうした金融ツールは手続きが煩雑になりがちで、利用が広がりにくい難点があります。

日立による2つの実証は、ブロックチェーンをはじめとしたデジタル技術を用いることで、J-クレジットや環境債の発行や管理等に関わる手続き等を簡便にするとともに、調達資金の使途やCO2の実際の削減量等の透明性を向上させたいという意図があります。これら実証が広がることで、J-クレジットや環境債等の活用がより一般的かつ、透明性が高いものになることが期待されています。

ブロックチェーンを用いた「グリーン・トラッキング・ハブ」

2つの実証に共通で用いられているのが「グリーン・トラッキング・ハブ」です。グリーン・トラッキング・ハブは、エネルギー消費量を自動的に計測。ベンチマーク比でのCO2排出削減量、エネルギー削減量に換算、データ開示を行うデータをBOOSTRYへ連携。BOOSTRYの「ibet for Fin」と呼ばれるブロックチェーン上にエネルギー削減量やCO2排出削減量を記録するものです。投資家は、透明性や適時性が高い形で、ブロックチェーン上に記録されたエネルギー削減量やCO2排出削減量をモニタリング可能になります。

BOOSTRYの「ibet for Fin」はファイナンスに特化したブロックチェーンです。イーサリアムをベースとしたクオラム(Quorum)と呼ばれるブロックチェーンをBOOSTRYが派生させたものになります。スマートコントラクト、セキュリティトークンやNFT発行といった機能が使えます。ibet for Finは、コンソーシアムブロックチェーンであるため、事前に定義されたユーザーのみが利用可能です。このようにブロックチェーンは複数のユーザーで利用できるようにすることで、透明化、改ざん防止、情報開示の意義がでてきます。

「グリーン・トラッキング・ハブ」に関する考察

デジタル環境債のケースでいえば、ユーザーは日立、JPX総研、野村證券、BOOSTRYに限定されていると推測されます。その場合、ブロックチェーン上のデータを閲覧できるのはこの4社のみで、ブロックチェーンは、4社が共有するデータの真正性の担保のために使っていると考えられます。ブロックチェーンの分散等を目的とする場合は、改善の余地がある箇所です。債券であれば問題ないでしょう。しかし、例えば、個人間で売買、譲渡に制限がかからない業種で活用する際は、ブロックチェーンの利用法として適切ではないといえると思います。

また、今後、参加者を増やす場合の課題としては、トランザクションの中身が隠せないことがあげられると考えられます。イーサリアムをベースとしたチェーン固有の特徴として全トランザクションの履歴が全ユーザーに閲覧可能となります。債券での利用となれば、ユーザーは債券発行者や投資家が含まれると考えられますが、履歴を丁寧に追っていくことで、ある程度、どの投資家がどういった投資行動をしているか、どういったポートフォリオを組んでいるかが分かってしまいます。別のプロジェクトへの活用をする際には注意すべきポイントです。

IoT機器とブロックチェーンのつなぎ方

みんなのブロックチェーンは、今回紹介したようなチャレンジングなブロックチェーンの活用を応援しております。こうしたチャレンジが成功することで、ブロックチェーンの活用がさらに広がることが期待されます。

もし弊社が参画できたら聞いてみたいことは、この実証における発電設備やスマート工場等のIoT機器で取得したデータとブロックチェーンのつなぎ方です。ブロックチェーンの課題として、入ってくるデータの真正性の証明が必要なことがあります。この実証においても、IoT機器で取得したアナログデータをデジタルデータに変換し、さらにそのデジタルデータをブロックチェーンに入れるという手続きを踏んでいると推測されます。

その場合、デジタルデータをブロックチェーンに送る際、秘密鍵による署名が必要になりますが、グリーン・トラッキング・ハブが署名しているのであれば、第三者からは見えません。理想は、IoT機器が秘密鍵を保持し、IoTとブロックチェーンを直接つなぐ形です。この実証において、デジタルデータをブロックチェーンに送る際の透明性の担保をどのように行っているか、機会があれば話を伺ってみたいところです。

みんなのブロックチェーンではBtoB向けブロックチェーンに特化したサービスを提供しております。要件定義・仕様・設計から開発マネジメントまでお気軽にご相談ください。

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