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週末歌仙*葉ノ参

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 81歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

5月の日曜。
玄関のチャイムに出てみると、宅配業者さんが立っていた。
「お届け物です」
手にしていたのは、かわいくラッピングされた赤いカーネーションのアレンジメント。
ああ、そうか、今日『母の日』だな。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

母の日に
届く真紅の カーネーション
(元気でいてね)の子らの声する
<2001年 母の日に詠む>

<解説>
『母の日』と聞いて、みなさんはどんなことを思い起こすでしょうか?
赤いカーネーション?
最近はファッション小物やスイーツなどを贈るケースも増えていますね。
いずれにせよ、強く印象づけられるのは『母と子』という人間関係です。
わたしは赤いカーネーションから「会いには行けないけど元気でいてね」というメッセージを受け取りました。でも否定的な感情で詠むことも、実は可能です。
この歌のおもしろさは、下の句を読むまでは明と暗どちらにも取れるところ。もの言わぬ植物であるカーネーションをどう捉えるか、この歌でどんな感情を伝えたいのか? それによって下の句の展開を変えることができます。逆に言えば、読者にとっては「これ、どっちに転ぶの?」と先が気になるようなつくりになっているわけですね。
抒情的に思える短歌ですが、実は作歌にはレトリックも必要だということがよく判る1首ではないでしょうか?
テクニカルという意味では、元気でいてね、の部分を「 」ではなく( )で囲ったのもそうですね。これにより、口先の言葉ではなく心に伝わる言葉、という印象を読者に抱かせることができたと思います。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
『母の日』の贈り物(貰う側)

母の日に何かをくれるような相手はいない!という方も、その立場で思うことを詠んでみてください。きっと同じ立場のひとに共感してもらえる、おもしろい歌ができると思いますよ!

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

5月初旬の夕暮れ。
仕事帰りの商店街。
夕食はなににしようかと店先を覗きながら歩いていたら、一軒のお花屋さんが目に留まった。
店内は、カーネーションを求める客で混み合っている。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

母の日に
贈るあてなき カーネーシヨン
見つつ花屋にしばし佇(たたず)む
<1999年 母の日に詠む>

<解説>
すでに他界した母を偲んで詠んだ歌です。
1首めとの明確な違いは「贈るあてなき」という言葉を最初のほうに入れたことです。これによって、歌のカラーが「暗」に決定づけられます。それを受けての「佇む」で、全体的にもの寂しい印象となっています。
ただ、「亡き母」といった具体的な言葉は入れていません。「贈れない」事情があるというだけなので、例えば仲違いをしているとか、離婚して母親は別の家庭に入っているとか、いろんなケースが考えられます。そのあたりは読むひとが自分の状況に合わせて解釈すればいい部分なので、むしろ曖昧にしておく。「語りすぎない」ことも重要です。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
『母の日』の贈り物(贈る側)

・・・・・・・・・・

今回は『母の日』にちなんだ短歌を、もう一首ご紹介します。
これはわたしの短歌教室に来ていた生徒さんが詠んだものです。

満月に 
雲のかかりて 顔のごと
優しき母の面影に逢う
<2019年 詠み人・けいこ>

ふと見上げた満月に、今はもう記憶に遠い母親の面影がぼんやりと映った……という、なんとも心に響く歌ではないでしょうか。
実は彼女は、生後すぐに母親と死に別れ、親戚に預けられて育ったという生い立ちを持っています。でもそういったバックボーンを知らずに読んでも、『満月』に映る『面影』は故人のものであることが、体感的に理解できると思います。なぜなら、日本では古来『月』が「死」と結びつけられてきたからです。その月に雲がかかっている――すなわち、もうぼんやりとしか顔を思い出せないくらいに亡くなってから時間が経っていることを表現しているわけですね。
短歌は31文字という少ない字数で想いを表現しなければならないので、一般的に共通したイメージのある「もの」や「言葉」をうまく使う必要があります。ただ、「共通イメージ」は年代や性別によって異なる場合もあることが、作歌の難しさと言えるかもしれませんね。


短歌:楓 美生
編集:妹尾みのり

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