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日記、エッセイのようなもの、思いつき、ときどき小説などを書きます

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  • 【小説】またいつかその日には

    連作短編集。喋るのが苦手な少年や、音楽の才能はあるのにプロにはならないと決めた先生や、ことば以外の方法で表現するのが得意な少女、そんなひとびとのゆるやかな繋がりの話です。

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【短編小説】偽作:死神

1 その日は珍しく定時で仕事が終わって、といって何かやりたいことがあるわけでもなく、夜の街をただぼんやりしながら歩いていた。そしたらなんとなく懐かしい灯りに誘われた気がして、一軒の建物に吸い込まれた。 その建物が寄席だということを僕は知っていた。 学生時代、仲の良かった奴に落語研究会――いわゆる落研の奴がいて、連れて来られたことがあったな、とじわりじわり思い出す。お前も芸人志望ならいろんな笑いに触れといたほうがいいぞ、とかなんとか言われて半ば無理矢理連れて来られたのだっ

    • 読書漫筆:吉田篤弘『なにごともなく、晴天。』

      2024年も明けて1週間が経ちました。 遅ればせながら、今年もよろしくお願いいたします。 仕事始めの日、帰りしなに立ち寄った書店で吉野篤弘さんの『なにごともなく、晴天。』(中公文庫)を見つけて、そうだ、今年の1冊目はこれにしよう、と思った。 以前、同じく吉田篤弘さんの『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を読んで、その作品に出てくる人たちの人柄の良さ、善性、彼らの過ごす淡々として穏やかな日々、その中でふと訪れる特別な瞬間、を大変愛しく感じたのを覚えている。『なにご

      • 雑記(9月も終わりですってよ)

        やっと朝晩の空気が秋らしくなってきたなと思ったらまだ昼間は暑かったりして、どうも気温差にやられて風邪を引いたかしらと思いながら病院に行ったら例の感染症だった(少し前の話、回復済みです)。 そうこうしているうちにもう9月30日です。 毎年9月の終わりごろになると思い出したようにnoteを書き始めるのは、今年度ももう上半期が終わってしまうのかということに気づいて呆然とするタイミングでもあり、個人的には誕生日を過ぎて間もない頃でもあり、ちょっと最近の総括じみたことを言いたくなるせ

        • 敢えて考察しない(できない)、感想の羅列

          話題のジブリ最新作「君たちはどう生きるか」、公開後すぐに観たのだけれど、感想がまとまらないなと思っているうちにそこそこ時間が経ってしまった。 既にさまざまな感想、批評、考察が世に溢れている。 なるほどそう解釈すると辻褄が合うんだなと思わされるものもあれば、それはどちらかというとあなたの思考の投影では……(あるいは作品の解釈とは多かれ少なかれそういうものか)と思ってしまうものもあり。 なんにせよ人の感想を読むばかりで自分の感想を忘れそうなので何かしら書こうと思うわけです。

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        【短編小説】偽作:死神

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          絵画のこちら側、あるいは好きな絵の話

          最近観に行った展覧会についての備忘録、を書こうと思っていたのだけれど、書きかけで放置してだいぶ経ってしまったので、好きな絵の話ということにする。 京都の嵐山にある福田美術館で4月9日まで行われていた企画展「日本画革命」をどうしても観に行きたく、3月の週末、このために京都まで足を延ばした。 桜にはまだ少し早いものの天気もよく、観光客も戻ってきていて、渡月橋のあたりはかなりの人出。 福田美術館のコンパクトで落ち着いた雰囲気が好きで、関西に住んでいた頃は度々足を運んでいた。 引

          絵画のこちら側、あるいは好きな絵の話

          「愛の太陽」抱えて歩く

           3月1日にリリースされたくるりの「愛の太陽 EP」。  どの曲もすごく好きだが、その中で表題にもなっている「愛の太陽」についての話がしたい。  何か明確に書きたいものがあるわけではないので雑談的な記事になりそうだけれども。  そういえば「天才の愛」が出た時もそれがあまりによかったのでnote書いたな、と思って過去の自分の記事を見返したらあれからもう2年近くたっていてびっくりした。2年?  「愛の太陽」はEPが出るより先にくるりのラジオで聴き、先行で配信されたのを聴き、映

          「愛の太陽」抱えて歩く

          今年もお世話になりました

          なんだか書きたいことはいくつかあるんだよなあと思いつつ、サボっているうちに大晦日になってしまった。 このところ毎回こんな書き出しになっている気がしますが。来年こそはもう少し何か書きたいところ。 今年は久しぶりに富士吉田を訪れたり、ライブ遠征込みで行ったことのない土地を旅したり、少しずつまた動けるようになってきた気がする。 自分が元いた関東に戻ってきたこともあって、しばらく会えていなかった人との再会も増えた。 お互いに元気で会って、同じ時間を過ごせるというのはやっぱりうれしい

          今年もお世話になりました

          雑記・2022年9月

          気付けばnoteの更新をサボりっぱなしで半年が過ぎ、その間に私は西日本から東日本に居を移し、またひとつ歳をとり、そうして今年度の上半期が終わろうとしている。 今朝はどこからともなく金木犀の匂いがしてきました。街角の空気も完全に秋のそれです。 時間が経つのは年々早くなる。毎年同じことを言っている気がする。 9月半ば、残暑の中に秋の気配が混じるぐらいの頃にくるりの「八月は僕の名前」がリリースされて、それがすごく良い曲だったので今年の夏は良い夏だった。 ピアノの音色になつかし

          雑記・2022年9月

          『歌者』の話

          フジファブリックの山内総一郎さんがソロ名義でリリースしたアルバム『歌者』を聴いた。 雑誌『音楽と人』のインタビューでも話していたけれど、ひとつひとつの曲にかなりはっきりしたストーリーがあって、短編集を読んだような感覚になる。実際、曲を作るのにあたってかなり詳細にプロットを立てたという。 誰もいないオフィス、昼下がりの街角、雨上がりの大通り。卒業式の後の教室、自転車で駆け上る坂道。早朝の地下鉄、連なるテールランプ。情景描写はそれほど克明でない曲もあるのに、いくつかの単語と曲

          『歌者』の話

          新年の抱負に代えて:「青天を衝け」感想

          2022年、あけましておめでとうございます。 今年も他愛もない文章ばかり書いていく所存ですが、よろしくお願いいたします。 * かなり今さらではあるが、大河ドラマ「青天を衝け」の感想から今年のnoteを始めたい。 あまり熱心な大河ドラマファンというわけではなくて、これまでにちゃんと見たのは「龍馬伝」と「いだてん」ぐらいのものなのだけれど、2021年はこの時代に「青天を衝け」があってよかったと思うぐらい熱中してしまった。 これからどう動いていくのか不明瞭な今の時代にあって

          新年の抱負に代えて:「青天を衝け」感想

          読"食"漫筆2:2021年の読書記録

          2021年を振り返って、なんとなく、食にまつわる本や漫画に縁があったような気がしている。 堀江敏幸さんと角田光代さんの『私的読食録』を読んで、そこで紹介されていた吉田篤弘さんの『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を読んだというのは以前書いたけれど、それ以来、何気なく手にとった本が食にまつわるものだったり、主題としてではなくても食べること・食べ物・料理についての話が出てきたりしていた。 ということで、2021年の振り返りがてらその感想を書いておこうかと思う。 1

          読"食"漫筆2:2021年の読書記録

          2021.12.24

           今年も暮れだな、と淡々と思うのと同時に、冬至を過ぎてこれからは1日ごとに昼が長くなっていくことに少しほっとしたりもしている。1年が巡ったなと実感する。  季節の移り変わりを思う時、聴きたくなるのはフジファブリックの音楽だ。「桜の季節」に始まり「陽炎」「赤黄色の金木犀」「銀河」と続く通称「四季盤」は、フジファブリックの音楽の叙情性を象徴するような作品だが、彼らには1曲の中で四季が巡る歌もある。 「MUSIC」という、あまりにもストレートなタイトルのついたその曲を、私は冬の

          2021.12.24

          愚かな願いのまぶしさ:フジファブリック「君を見つけてしまったから」感想

          驚いた。フジファブリックの新曲「君を見つけてしまったから」があまりにも良い。 11月4日の配信リリースに先立って山内さんの出演していたラジオでオンエアされたのを聴いていたから、その時から「あ、これはいいぞ」という感触はあったのだけれど、改めて聴いたらとんでもなく良い曲。 疾走感のあるバンドアレンジで、かつメロディがとてもきれいだというのが第一印象だ。高音部が遠くへぐんと伸びていくような主旋律は山内さんのまっすぐな歌い方にとても似合う。フジファブリックはメンバーそれぞれが個

          愚かな願いのまぶしさ:フジファブリック「君を見つけてしまったから」感想

          隻手の声が聞こえたら:竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』

           サリンジャーの小説について何か、単純な感想でも疑問でも、何かしら書いてみたいとずいぶん前から思っていた。  この記事の最初の下書きを書き始めたのが実は2020年の5月、つまりもう1年半ほど前のことだったのだが、途中で迷子になって手が止まり、そのまますっかり忘れていた。 それからまた今年の春先に『ナイン・ストーリー』を読み返し、この下書きを見返してそろそろ書き上げたほうがいい気がしたので改めて筆を執った。が、やはりうまくまとまらずに再び放置してしまったのだった。

          隻手の声が聞こえたら:竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』

          誕生月の雑記と音楽雑感:年輪と周回軌道

           まだ日中は陽射しが強いが、秋分の日ともなると風はからりと乾いて気持ちが良い。陽が落ちるのが随分と早くなったな、と思っているうちに秋分の日も過ぎた。  夏が終わって空気の匂いも変わるような気のするこの時期は、1年の中でもとりわけ好きだ。9月生まれだから余計にかもしれない。と言いつつ、たいてい自分の誕生日の頃はまだ残暑が厳しくて、それから1、2週間ほどたつとようやく秋らしさが感じられるようになるので、あと何日か遅く生まれていたら尚よかったなどとしょうもないことを考えたりする。

          誕生月の雑記と音楽雑感:年輪と周回軌道

          雑記・2021年の7月

           時間が経つのが早いような遅いような、どちらともつかない心地でいるうちに今年の7月が終わる。  この歳になっても毎年夏になると、夏というのはこんなに暑かったかと思う。去年の夏の疲れも抜けていないのに、というのは最近聞いた落語のマクラに出てきた言い回しだったと思うがまさにそういう気分。それから通勤路の途中で、何気なくイヤホンを外した瞬間にどっと押し寄せる蝉の声が恐ろしいぐらいやかましい。音の大きさのことを「音圧」と言ったりするが、あの大音声は確かに「圧」だ。イヤホンから聴こえ

          雑記・2021年の7月