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来年の年金制度改革に向けて検証が開始

 2025年の年金法改正に向けて今年、5年に1度の公的年金制度の財政検証が行われています。厚生労働省は年金制度の改革に向けて議論の土台となる5つの項目を発表しました。
 一つ目は、厚生年金の対象拡大です。ほぼすべての短時間労働者を加入させる狙いです。これによりアルバイトなど手取りが減る個人が出てきます。また事業主は拠出が増えることになります。厚労省は人手不足を背景に賃金が上昇しているため、働き控えが増えているとの指摘があるとの認識ですが、それはないと感じます。
 二つ目は、基礎年金の納付期間を40年から45年にすることで給付額を増やす狙いです。45年間へ延長することで給付額がどれくらい上がるかを試算します。すべての加入者の年金額が多くなりますが、低所得者を中心に保険料の負担感が強まるという課題があります。
 三つ目は、基礎年金の給付抑制を早期停止することです。狙いは給付額を増やすことです。基礎年金の給付額に関しては「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みによって抑制される期間が厚生年金よりも長いです。この期間を厚生年金の財政から基礎年金の財政への拠出額を増やすことで短縮し、年金額がどれくらい増えるかをみます。課題は財源の確保となります。
 四つ目は、在職老齢年金の見直しです。狙いは年金の減額分を緩和し、高齢者の就労を促進することです。現在は賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると年金が減額となるため、「働き損」を敬遠して終業時間を調整する人がいます。高齢者の就業促進に向けて制度を廃止・緩和した場合の効果を調べます。課題は年金財政の悪化要因になることです。
 五つ目は、保険料の基準額の上限を上げることです。年金財政の持続性を高めることが狙いです。会社員や公務員が入る厚生年金の保険料は「標準報酬月額」と呼ばれる基準額に保険料18.3%を掛けた分になります。負担が過大にならないように上限が設けられており、月給がどんなに高くても厚生年金の標準報酬月額は65万円より大きくなりません。この上限額を引き上げた場合の影響も確認します。対象となる人の将来受け取る年金が増えるだけでなく、保険料収入が拡大することによって全体の給付水準も高まる可能性があります。
 いずれの改革にもハードルがあります。厚生年金の加入拡大は、事業主側の拠出負担が増えるのでパート労働者の割合が多い業界から段階的な措置を求める声が根強いからです。しかし、パート労働者側も負担が同じだけ発生します。事業主は労使で負担する雇用保険や医療保険などへの拠出分も加わります。基礎年金の納付期間延長は財源の半分を占める国家負担が増すと指摘されています。在職老齢年金制度は廃止した場合、将来の給付水準が減ることが2019年の試算で示されています。
 厚労省は試算対象の5項目を公的年金制度の持続性や給付水準を点検したうえで夏に発表する「財政検証」に盛り込みます。財政検証は労働参加と経済成長が比較的大きく進む「長期安定」と、一定程度進む「現状投影」の中間シナリオの2つを軸に試算します。財政検証をもとに年金制度改正案を年末までに詰める予定です。そして2025年の通常国会に関連法案を提出する方針です。
 稼ぐ力が欧米に比べると低い日本企業で労働の全員参加は無理があります。それでもそうせざるを得ないほど、年金制度の財政が厳しいということです。既に高齢者が厳しい肉体労働を強いられている現状を鑑みれば、在職老齢年金の見直しと保険料の基準額の上限を上げることは必要と感じます。何をしても反発は必至ですが、できるだけ世代間格差など配慮して平等に老後を過ごせるような年金制度改革を望みます。

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