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栗山英樹THE TOP INTERVIEW~岡藤正広氏

 野球のWBCで世界一に輝いた栗山英樹が経済界のトップを直撃、日本の未来を考える。1月に放送された「栗山英樹THE TOP INTERVIEW」を NHKの再放送で見ました。激動と混迷の時代を生き抜くヒントを探る「対談ドキュメント」で、第二回は伊藤忠商事会長の岡藤正広氏。岡藤氏は「朝型勤務」や「残業禁止」などユニークな改革を次々と行い、「万年4位」だった会社を業界トップレベルまでに成長させた名経営者にして総合商社の「革命児」といわれています。なぜ時代に即した変革ができるのか?どうすれば人を変え、組織を変えることができるのか?先人たちの「言葉」を支えに勝負の世界で生きてきた名将・栗山ならではの鋭い視点で、「従来の常識を変える」「逆境への向き合い方」などをテーマに珠玉の言葉を引き出しています。
 岡藤氏は、大阪生まれで、家は卸商を営んでいました。高校生のときに父親を脳溢血で亡くし、自らも結核になり、大変苦労したそうです。自らを予習・準備を大切する慎重で悲観主義者であると語っていました。不安を払拭するために準備をし、基本に忠実かつ慎重であることが決断をするときに必要と感じ、今までやってきたことを踏襲、時代に合わないものを微調整するというスタンスで経営を行ってきました。普段からメモを取る習慣があり、気づいたことを書いています。それは、お客様など人に会うときに話す内容として参考になるものを書いているそうです。腰を低く、お客様に寄り添う。商社マンという言葉はエリート臭がするので嫌いだ。商人のほうが相応しいとして、「ひとりの商人、無数の使命」という言葉を社員の心をひとつにするため掲げています。お客様は9時から仕事しているため、フレックスタイムを朝型勤務に変更、20時以降の残業を禁止、会議数の6割削減などの改革を行いましたが、これらは無理に押さず、半年かけて賛同者を増やし、問題点を解決してきました。会社が従業員にまず”Give”する、だから”Take”するという姿勢です。
 岡藤氏は、逆境への向き合い方として、「商人はとにかくお客様のところへ行け」を信条としています。逆境のときは、無心に与えられた仕事をコツコツとやる。そうすると次のステップが見えてきます。失敗してもそれは自分の成長の糧にすることが大事です。かつて日銀総裁だった井上準之助の「人格者を信用するな」という座右の銘を持ち、斬新な発想は優等生から生まれない、優等生ばかりでは会社は伸びないと考えており、多様性を重視しているとのことでした。優等生は概して保守的、常識的だそうです。2024年、激動と混迷の時代を生きるスタンスとして、日ごろからいろいろなことを考えていることが大事。自信のないものはトップを走らない、2-3番手で準備を進めて慎重に探りながら前に進むことが重要と考えています。日本は、良いものさえ作れば売れるというプロダクトアウト思想が支配的だが、中国や韓国では安くて良いものを買ってブランドなどの付加価値をつけて高く売るというマーケットインの思想が支配的だ。後者のポイントは非常に大事で、これはハードよりソフトが重要でどういう商いをするかが大切であることを意味している。商社には勝ち戦に強い体育会系の人間が多い。負けているときにどうするかが重要になってくる。栗山氏はそういう時は普通にやっていては勝てないので思い切って勝負するとこれまでの野球人生を振り返って述べていました。岡藤氏は、0-1でも0-10でも負けは負けで野球の世界は捨て試合を作れるが、ビジネスの世界では、損害額が問題となってくるので、損切り、損は最小に抑えるという負け方が大事になってくると語っていました。
 面白かったのは、経営者をいつまで続けるかについての話でした。岡藤氏は、2015年の世界野球WBSCプレミア12の準決勝を例えに挙げています。この試合は、日本が8回まで3対0でリードしながらも、土壇場の9回に韓国に4点を奪われて逆転負けを喫したものでした(韓国はそのまま決勝でも勝って、優勝を飾る)。先発は大谷選手だったのですが、6回までノーヒットに抑えるなど強力韓国打線を一切寄せ付けず、7回85球を投げて1安打無失点、2塁すら踏ませずに計11奪三振の快投劇を演じてマウンドを降りました。日本打線は、その後の7回と8回は追加点のチャンスがありながら点が取れず、逆に勝利を目前にした土壇場の9回の韓国の攻撃で逆転負けを喫しました。岡藤氏は、この時の負けを自らの教訓とし、勢いのある時は続けるのが良い、調子が良いときに交代はいけないと思ったそうです。勝負の綾は流れにあるということだと思いますが、ひとりのビジネスマンは野球の試合から自らの引き際・人の交代機について考えたのだと思います。

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