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デニーロ・アプローチ

 ロバート・デニーロ。マーティン・スコセッシとのコラボレーションで知られ、同年代の中で最高の俳優のひとりに数えられます。デニーロはアカデミー賞1回など数多くの賞を受賞しています。
 出演前に事前準備を怠らない俳優であり、数多くの逸話が残っています。「ゴッドファーザー PART II」では、シチリア島に住んで、シチリア訛りのイタリア語をマスターした後に、マーロン・ブランドの嗄れ声を完璧に模倣した。「タクシードライバー」では3週間、ニューヨークでタクシードライバーとして働いた、等々。こうしたストイックな役作りから「デニーロ・アプローチ」という言葉が生まれました。
 役に近づくためなら減量、増量、筋トレ、時には整形もします。また、より役を理解するためにその役の生活や職業などを実際に自分が経験するというものです。このように役作りを徹底しているので彼の演技はまさにキャラクターそのものになっています。日本では松田優作が「野獣死すべし」で歯を抜いてまで役作りに徹したのは、このデニーロ・アプローチだと言われています。
 デニーロは役作りについて、「演技とはすべて、無いものをあるかのように見せる幻影。私は役を演じる時、そのキャラクターをすべて知りたいのだ。俳優というものは、ありとあらゆる人間になり、その人生を生きなければならない」と語っています。
 マーティン・スコセッシ監督の映画「レイジング・ブル」では、実在のボクサー、ジェイコム・ラモッタの現役時代から引退後にコメディアンになるまでの様子を描いています。「タクシードライバー」での不眠症のトラヴィスとは打って変わって、血の気が多く好戦的なキャラクターを演じており、そのギャップには驚かされます。そしてこの作品で見事、アカデミー賞主演男優賞を受賞します。
 このほかにも「ディアハンター」で主人公の出生地であるピッツバーグで暮らし、役柄と同じく鉄工所で働こうとしました(実際には現地の方に断られたそうです)。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」ではユダヤ人の家庭にホームステイし、役のモデルになったマフィアにインタビューの申し込みを行ったり(実現しませんでしたが)、「レナードの朝」では嗜眠性脳炎の入院患者を演じるために撮影地になった病院で数か月間入院生活を経験しました。
 彼の演技に対するすさまじい情熱が伝わってきます。このデニーロ・アプローチを使って役作りをしたのは、トム・ハンクス、日本では鈴木亮平、香川照之などの俳優です。ただ、このアプローチは俳優本人の体の負担が大きいことが挙げられます。デニーロ自身も50歳代からデニーロ・アプローチをしなくなりました。鈴木亮平も痩せづらい年代に差し掛かってきます。役作りの方法を変える分岐点が訪れることは容易に想像できます。

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