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【大学統合】東工大+東京医科歯科大の 『ちょっとドロッとした話』

先日、東工大と東京医科歯科大の統合ニュースが出ました。少子化やコスト削減狙いの国公立大再編が多い中で、政策主導の思い切った「攻めの再編」は気持ちがいいですね。

このニュースを見て真っ先に思い浮かんだのは、経済産業省が一生懸命進めてきた『医工連携』と『産学官協働』でした。

出典: 妙中義之先生

政府資金を呼び水に、個性的で高いポジションを持った2つの大学を1つにして、有力企業のエンジンをつけて走らせる。資金面はファンドも活用。ものづくりのプロセスでは、医療機器関連の中小企業も呼び込んでいく。そんなイメージです。

今回の統合案件が『医工連携の産学官金プラットフォーム』を企図している点は間違いありません。また「10兆円ファンド」や「国際卓越研究大学」をリードする話題としても期待されます。

大学再編なので文科省管轄の案件ですが、経産省(と厚労省)の『産業競争力強化』のアングルから見ると、コンセプトや今後の展開が読みやすいかと思います。

それはそれとして、ここではちょっと脇見的に、これが周辺にどんな影響を持つのか、the other sidesのことをいくつか考えてみました。

皆さんが好きな「ドロッとした話」です。


受験生から見ると


『医工連携』は産業政策的には大きなテーマですが、多くの受験生はそれ自体に高い関心を持っているわけではありません。

受験界とメディアが囃して話題性を高めるとか、一般人にも分かる成果物を産み出すとか。ブランド化や人気化には相応の手間と時間がかかります。

当面は「医歯系は医歯系」「理工系は理工系」と入り口も別々のままでしょうから、高校生は今まで通り、難易度や偏差値、卒業後の進路を見て決めることになるかと思います。

とはいえ、旗幟鮮明にした研究プロジェクトに有力企業も積極的に参画してくるようになると、『就職キャリア』の登竜門として、魅力的なバリューを持ってきます。ここが受験生に対する最大効果になりそうです。

また「医工複眼人材」養成コースが登場したりすると、旧帝大の理工系志願者たちも、ジロッと熱い視線を向けてくるかもしれませんね。

ちなみに「東大、京大に匹敵する大学ができた!」などと、昭和の「なんたらベストテン」的に受け止めている人がいたとしたら、「そういうことじゃないんだよ」と申し上げておきます。


先生方はどうなるの?


今回の統合は、表面的には「金取ってくるぞ!」という話ですから、研究者の先生方には朗報と思われますが、さてどうでしょうか。

学内合意の取り付けについては、今回の統合案件が政策主導のトップダウンで来ていますので、「ビジョンを踏み絵に押し通す」という中央突破一択ですね。

そのため統合協議は、「現場当事者の意見は参考程度」「第三者も交えて判断」といった大局的なものになると思います。そして、「伝統」と「愛校心」は、校史の保存領域にしまわれます(この2つは、私学では命と同価値です)。

賞金を見せながら、サードパーティを上手く使って、「外堀を埋める」作戦ですね。

最終的には「去る者は追わず、来る者は厳選歓迎」との大枠の中で、全先生方を対象にした巨大なガラガラポンになっていくわけですが、そのとき「袂を分けた先生方がどこへ行くか」。これはすごく気になるところです。

受け皿は、国内の他大学だけでなく、海外の大学や研究機関もあるかと思います。非友好国に招かれるケースも出てきますね。所謂「頭脳流出」「技術者流出」というやつです。

今後予想される「鬼のような事務作業とレポート」で、せっかくの若き研究者が忙殺されたり、致命的に疲弊したりしないかも心配です。

資金力のある商社あたりが「統合リバウンド組」を対象に事業化ファンドを作ったりすると、話題的には盛り上がりますね。


運営難易度は 『Xレベル』


企業の例を見るとよく分かりますが、合併や買収では「確たるビジョンを掲げる」のは当たり前として、学内統治と円滑運営といった内政面で、「反対勢力をどう抑えるか」と「権力のバランスをどう取るか」が、成否を決める重要な裏仕事になります。

生身の人間が作る組織というのは、そういうものです。まして、ガチの「医学部」が中心的な役割に座るとなると、これはもう。。。

予算を2校分配にしてしまうと、「ぶんどり合い」の単純図式になってしまうので、混成メンバーのプロジェクトにして資金をつけていくのでしょうが、「Nice guy」の東工大勢がどこまで踏んばれるか。

その辺のタッチ―な問題については、統合協議で「システマチックな方程式」が示されると思いますが、皆さん「骨抜き」や「辻褄合わせ」のプロなので、はたしてどこまでワークするか。

日本企業が海外企業を買収するケースでは、有望人材がゴソッと辞めていきます(できる人材から逃げていきます)。残念ですが「大金払ってポンカス掴み」がお決まりのコースになっています。研究分野でもこうしたことが起こるのでしょうか。

優秀な人材を獲得するための『超高給待遇』という巨大な釣り針。マスコミやSNSの注目ネタになることマチガイナシですが、海外に流出する優秀な頭脳者が口を揃えて言っている「日本の大学や研究機関の空気がキライ」とのアカデミック世界の環境問題については、どうなのでしょうか。

「結局はキャッチ・アンド・リリースかもね」などという意地悪な見方は、今の時点で言ってはいけないことかもしれませんね。

<国立大運営の難しさ>


素人目で見ての印象ですが、「大学運営は企業経営よりずっと大変」という気がします。となると「そこを誰がやるか」も重要なポイントになってきます。

ただ、ここで一番の問題は、国立大学の「教学と経営の不分離」というやつで、国立大は「どっかの誰かがやってきてゴリゴリ運営できるようにはなっていない」点です。

これは「学問の自由」とか「大学の自治」が根っこになってる話で、「大学運営には教授会と評議会の意思が優先される」みたいなことだったかと思います。

ということで、統合への道のりは簡単ではありませんが、「事業戦略の実現」の面では、スタート段階は、医工連携部門(コア)と従来の専門研究部門(ノンコア、というと失礼になりますが)に分けて、組織統治していく筋書きになるのでしょうか。

一橋大が取組んでいる「社会科学とデータサイエンスのダブルメジャー人材の養成」のように、『医工複眼人材の育成』は当然の狙いでしょうが、コース設置が2024年度に間に合うかどうか。受験生や一般人に向けたPRとしては、重要なポイントですね。


四大学連合の行方は?


四大学連合というのは、東工大と東京医科歯科大に一橋大と東京外語大を加えた大学群のことです。今回のニュースを聞いた人の中には「文系外し」とか「他の2校は第2次募集」と言った声もあるようです。

東京外語大については大学自体のレゾンデートルが一般人には見えづらく、今回の統合についても立ち位置がよく分かりません。

一方、一橋大のスタンスは「Good deal but no interest」(結構なお話ですね。でも遠慮しときます)といった感じでしょうか。

「大学の生き残り」という意味では、東工大+東京医科歯科大の『医工連携』は一橋大の命綱(ライフライン)ではありません。

同校は、産業界との太いパイプや過去の歴史を通じて、組織再編の光と影を熟知しています。そうした知見と思惑の中で、アライアンスの関係にとどまる『合従連衡』を選ぶのが得策と判断しそうですね。

一橋大は国立ですが私学的な精神が強く、「アイデンティティ」を大切にします(同校のポジショニング戦略の8割は、地政学と差別化で説明がつきます)。

予算規模の大きな医工系大学に挟まれて、学生数も少ない同校がイニシアティブを取ることは難しいでしょう。更に、2023年度からスタートする「ソーシャルデータサイエンス学部」という、大学ブランドの大型アップデートも控えています。

「Size does matter」(大きいことはいいことだ)は20世紀で終ったモデルです。大きくなったからといって、成功するわけではありません。それが災いしたケースはゴロゴロあります。

もし独自ブランドとSmall but excellent 戦略で、今後20~30年間の食い扶持(フローとストック)を確保できるシナリオがあるのであれば、そっちを選択する方が賢いですね。

環境は常に流動的ですが少なくとも現時点では、今回の2校統合に対しては「遠くで応援」というのがベストアティチュードと思います。


<タコの深読み>


2校統合後も連合体制を残すとすれば、暫定的には『2つの惑星を持った太陽系』のようなバランスイメージになります。

内容的には見直す必要もなさそうですが、素人目にはどうしても「一緒にくっつくの?」といった点が気になります。

惑星(一橋大と東京外語大)が、太陽(統合2校)の重力に引っ張られていくのか。微妙に独立性を保つのか。異なる次元へワープするのか。当事者や周囲の智謀知略も含めて、新たな変容が見ものですね。

余計な話ですが、この流れを読んでいくと、今回の2校統合では「東京外語大をどうするか」が、目先の派生テーマとして見えてきます。

慶應大あたりが(ホントは一橋大をほしがっているようですが)、「海外留学や外国人学生を増やしたり、グローバル戦略に使っちゃおう」とかで、パクッといくか。

東京外語大は入学定員が700人サイズですから、やってやれないことはないですし、初の『国私合体』は超級爆弾になります。

成功すれば、地方の国立大と地元私立大の再編テンプレートにもなりますね。

妄想みたいな話になってきましたが、大学版『少子化対応ソリューション』とか『国営事業の民営化(私学化)』として考えると、「えー、それって官僚の発想だよね」と、なんとなく思えてきます。

もしそうだとすれば、裏で利権と省益の争奪エンジンがブンブン回っているかもしれません。

四大学連合については、それぞれの大学をコア(実証モデル)にした大学改革プログラムも、裏筋として走っている気がします。

〇 成長産業のための産学官金プラットフォーム(東工大+東京医科歯科大)
〇 高度なリベラルアーツ人材のSPEC開発(一橋大)
〇 国立大の私学化(東京外国語大)


サクッとまとめ


ということで、メインステージでもサイドステージでもいろいろな変化や動き、煙モクモクが予想されますが、自分目線で興味のあるところを書き出してみると;

□  先ずは、今回の統合が『稼げる人材と成長産業の育成』で大きなエンジンになることを楽しみにしています。

□  国策レベルで「テクノロジー」「経済」「金融」「教育」の目線を合わせて、巨大な洗濯機に入れてブン回していく取組みが、もっともっと増えてきてほしいと思います。

□  そして密かに、こうした大学改革が『時代の流れに取り残された小中高の教育システムを変える』ドライバーとなり、子どもたちに「手の届く夢」を見せてくれることを期待します。

□  「医工複眼人材」の養成で新領域のプレーヤーが誕生してくれば、さまざまな壁も溶けてきそうです。

□  もはやチャレンジの段階は過ぎています。今までの大学プロジェクトと同じ末路をたどらないように、みんなで「コミットと実現」をよくウオッチしていきましょう。


大学が社会と生活を変える


『医工領域』の研究開発は、生活者のために、そして新産業を作り出すために、最も必要とされているものの一つです。

そしてそれは、「医学部と工学部を持っている旧帝大や筑波大、総合大学、単科大学、研究機関、企業も含めたコラボを主軸に推進していく」との目論見と努力の中で、いろんな人たちが、いろんなことをしてきました。

でも、上手く行かない。なぜ? 東大や京大などにもガッツリお金払ってるのに。。。

その理由は、医と工のゴールの違い、専門分野間の「相互理解」「知や情報の共有」の不足、関係者のプライド、複雑な法規制、等々。簡単ではない、いろいろな壁があるようです(伝統で染まったセクショナリズムとかも)。

今回の仕掛け人は、そんなニッチモサッチモをブレークする一撃として、「いろんな意味で乗ってきそうな東工大と東京医科歯科大に目をつけた」とも考えられます。

「10兆円ファンド」や「国際卓越研究大学」は、2校にとって、飛びつきたくなるようなニンジンにも見えます。

2校統合は『巨大な当て馬』かもしれませんが、成功すればトロイの木馬となって、日本の大学と社会を変えていくでしょう。

頑張ってほしいです。



<別冊もアップしました> 本稿を少し膨らませています



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