見出し画像

252.悲しみからしかたどり着けない場所がある(BTS考)


今は夜で、水餃子スープをつくり、それだけだとさっぱりしすぎだな!と思ってじゃがいもとベーコンのグラタンをつくって(その献立どうよ)、おいしく食べ終わったところ。

朝は、BTSのジンくんが自身のお誕生日である12月4日の2時間前に発表した彼のソロ曲を聴いていた。



もう、泣くしかないんだが。

『Abyss』という曲で、意味を調べたら「深淵、深いふち、底の知れない深い穴、どん底」とあった。音楽的な活動で頂点を極めた彼ら。ジンくんは、ビルボードで何度も何度も1位を取り、グラミーにノミネートされるという栄華を極める中で、「燃え尽き症候群になってしまった」と自ら語っていた。

自分のような人間が、それらを手にしてしまったことに、いろんな複雑な感情があったこと。それによって、心がとてもつらく耐えがたくなり、すべてを手放したくなったこと。

そしてそれを、社長でありプロデューサーであるパンPDに伝えたこと。

そこから、「その気持ちを音楽で表現してみること」を勧められて、これまで自身の明るい面だけを見せてきた、頑なですらあったそのこだわりを捨てて、あえて誕生日のタイミングで『Abyss』という、どんな人間の中にもある、深い深い、深い井戸の底のようなところにたったひとりでうずくまっているしかないという、その感情を、そのときを、歌ってくれたジンくんを思うと、とにかく泣けた。


わたしがお仕事で行うセッションでは「悲しみのパターン」を取り扱うことがある。ボディートークでリリースを促すときもあれば、味わうことで別のエネルギーに変容させていくこともある。

けれど、いつも思うのは「悲しみという感情を、この世にある色に置き換えたとしたら、わたしはどんな感情のどの色よりも、その色が好きだろうな」ということだ。それくらい、その感情は美しくて、青白い月みたいに静かに輝いていて、だからみんな「悲しみ」という感情の美しさにどうしても魅了されてしまうのだろうな、ということだ。

悲しみからしか見えない景色があり、
悲しみからしかたどりつけない、ひとりひとりにとって本当にたいせつな場所があるのだ。


BTSを知らないひとにとってはとんと興味のない話がこれから400字ほど続きますが、BTSのボーカルラインは4人いる。

ジョングクはメインボーカルで、どんな踊りの中でもぜったいにブレない音程をキープできる実力者であり、ラップもこなせるほどのリズム感、さらに聴く人を魅了するチョコレートのように甘い歌声を持っている。

ジミンはダンサーだけれど、その中性的なハイトーンヴォイスと言ったら「こんな声、他に誰もいない」というくらいの不思議な声だ。あまり喉が強くないので、音程のコントロールには苦しんだときもあったようだけれど、天女の羽衣のような美しさと、妖艶きわまりない独特のファルセットを使いこなし、唯一無二の存在感を放つ。

サブボーカルのV(テヒョン)は、甘い美貌とのギャップがたまらないほどの低い低いバリトンヴォイスを持っている。ちょっとハスキーなバリトンを使いこなしたと思ったら、びっくりするような高音も披露してくれて、有名なオペラ歌手だかミュージカル女優さんをして「彼の歌声は宝物」と言わしめたほどの、まるで楽器のような音色を響かせる声の持ち主なのだ。


じゃあ、ボーカルラインの最後のサブボーカルのジンくんは?となったとき、最初はジンくんって他の3人に比べたら、そんなに特徴を感じられないな。強いて言えばアイドルっぽい声で、そこがかわいいのかもな。と思っていた。

けれど、とっても不思議なんだけれど、いろんなライブ映像を昔のものから時系列にみていくうちに気づいたのが「ジンくんのソロが、いちばん心を揺さぶられる」ということだった。

グクは文句なしに上手。ジミンはほんとうに妖艶で魅せてくれる。テヒョンの低い声にはもううっとりしっぱなし。って、それぞれに「大好き!最高!」って胸が高鳴るすてきなソロなんだけれど、ジンくんは、そのどれにも当てはまらないのだ。

うまいか下手かで言ったら、もちろん上手い。どんどん上手くなっている。天才歌手ではないけれど、努力しています、とわたしたちに誠実に告げてくれるジンくんの歌唱レベルは間違いなくとても高い。

でも、そういうことじゃないのだ。彼の声はほんとうに特別で、『BTSを読む』の中でそれぞれのヴォーカルの資質について対談しているページでは「ジンの声は、言うならば”銀の声”なんです」と評されていたけれど、そういう感じなのだ。
だれもが圧倒的なその歌唱力にひれ伏す、とかそういうことではなくて、彼の声はまるで、夜空にやさしく輝く銀色の月のように、わたしたちの胸の奥に届いて、深い深い、孤独を癒すのだ。


人間って不思議だと、いつも思う。
「明るい面だけ、お見せしたいんです」といつもいつも言っていて、ステージでも動画でも、いつでも率先して幼稚にふざけては、「アヒャヒャヒャヒャヒャ」と端正な顔に似合わない変な声で笑うジンくんが、実はだれよりも深いところ、深い感情に届く表現を持っていること。

ジンくんはいつも明るくしてくれるけど、ジンくんの明るいところだけが好き。という女の子はきっといないだろう。彼を愛するファンたちは、彼がいつでも明るく笑ってくれている、その裏側に、だれにも見せない大きな暗さと悲しみを抱えていることを、ぜったいにわかっている。
それを、見せないように笑っているからこそ、知らんぷりしてわたしたちも笑うけど、ほんとうのほんとうは、その全部を知っていて、ぜんぶが好きなんだよって思う。


だから今回の彼の新曲がでたことが嬉しいし、2021年にはもし叶うならば、ジンくんだけのソロアルバムであるミックステープが出てほしいな、と思う。

そして、もし彼の悲しみや寂しさが、音楽という表現になることで、彼が少しでも癒されて幸せになるのなら、わたしも幸せだ。


ジンくん、お誕生日おめでとう。
悲しみからしかたどりつけない場所に連れていってくれて、ありがとう。
わたしはその場所がとっても好きだから。


この方の記事ももちろんおすすめです。



ボディートーク・セッション、ダイアローグ・セッションともに12月の残席わずかとなっております。ご予約の方はお早めにお申し込みください。

ライティング・ライフ・プロジェクト第5期、満席につき受付終了しました!ご関心をお寄せくださったみなさま、ありがとうございましたm(_ _)m。第6期は、年明けからのタイミングでスタートしたいので、近日中にメルマガで募集します!*


文章を書いて生きていくと決めました。サポートはとっても嬉しいです。皆さまに支えられています。あと、直接お礼のメッセージを送らせていただいておりますm(_ _)m