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エンタテインメントのチカラ

29年前、1995年の1月17日阪神淡路大震災が起こった。
朝、会社に行く前にテレビをつけたら、あろうことか神戸の街が燃えていた。地震が起きたとアナウンサーが告げている。
関西出身の私は、関西は地震が起きないところという認識だったから、にわかには信じられなかった。
「神戸が燃えている!」と妹に叫んだのを覚えている。

知人の無事も分からないまま呆然として会社に行き、仕事に取りかかる。
当時勤めていたのは、CD制作などをするエンタテイメント系の会社。
まだぴよぴよに近い社会人だった私だけど、すでに「この会社にこのままいていいのか」と日夜自分に問いかける日々だった。
もっと直接的に人の役に立っているという実感がほしかったのと、もっと自分に合う仕事があるのではないかと思っていたのだろう。

地震のあったその日、お偉いさんの秘書さんが私のところにやってきた。
立ち話していると彼女が「こんなときってこの会社って、人々に何の役に立たないとしみじみ思うわ。この会社にこのままいてもいいのかしらなんてまた思っちゃって」と言う。深く同意する私。

それから日々は経って、私は急な転勤になり会社を辞めることにした。
あの地震の時に思った「直接的に役に立たない」も辞めることを後押ししてくれた気がする。

でも、ぴよぴのよ社会人から多少なりとも成長して、あの時と違うことがある。
それは、あのとき言語化できなかったエンタテイメントのチカラを感じることが自覚できたこと。
本も音楽も映画もドラマも漫画もみんな私を助けてくれてきている。

日本語教師になってしんどかった時、教案を一つ書いたら、授業をしたら、とある漫画を読むことにしていていた。
それを読むのを楽しみに日夜がんばった。

子どもを産んで、大変な日々が続く中、オーケストラの練習に行くと一人の自分に戻れる気がした。
生後一か月の娘を夫に預けて近所のドトールでカフェオレを飲んだときは涙が出た。そして本を読むあの至福感といったら。
そういえば小学校の時も学校はあんまり好きじゃなかったけど、本を読むことで救われていたのを思い出す。
そのときから大人になるまで本や音楽やアニメやドラマや漫画に救われてきたじゃないか。

女優の鈴木保奈美さんが子育てに専念する日々から脱して久しぶりにテレビに出てきたときに言っていた。
「子育で大変な時、毎週楽しみにしていたドラマがあったんです。これがあるから来週までの一週間がんばろうと思えました。そして、自分のやっていたお仕事はそういう風に誰かの役に立っているのかもと思ったら、お仕事に復帰しようと思ったんです」というような内容だったと思う。

緊急性のあるときや直接的には人の役には立たないかもしれないけれど、エンタテインメントは人を楽しませるだけでなく救うこともできる。
一見無駄に見えるものが、誰かにとってかけがえのないものであったりもするのだ。
地球で好き勝手しているようにも思える人間が生み出した素晴らしいものの一つがエンタテイメントなんだろうなと毎年1月17日に思うのだった。


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