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ハッピーでもバッドでもないエンド

About Timeという映画を観た。二度目だ。
2013年に公開された、Mr.BeanのTVシリーズを手掛けたリチャード・カーティスが監督・脚本を務めるSF恋愛映画。邦題は『愛おしい時間について』。その内容は、安易にポスターやDVDのパッケージから想像するなかれ。ただの恋愛映画ではない。設定はSFながら、身震いするほどの現実がそこにある。深い家族愛と、今この瞬間との向き合い方をユーモアとアイロニーを織り交ぜながら教えてくれる。

初めて観たのは数年前の初夏のこと。とあるドラ息子の友人とふたりで。彼は邦画にしか興味のなかった僕に洋画の楽しみを教えてくれた男。About Timeを観終わったあと、僕たちはふたり揃って叫んだ。

"ミスったー!"

こんな映画、野郎ふたりで観るなんてあまりにもったいない。心に決めた女の子と、ふたりきりで観るべき映画だった。

父と息子の親子愛の描写は、僕らに財産をくれた。これから経験するであろう悲しみを、最大限後悔することなく迎えさせてくれる方法を教えてくれた。

そして何と言っても見所はメアリー役のレイチェル・マクアダムスである。結婚式の準備を早く進めようと彼女が提案するゲームが、エロ愛おしい。魔法のような愛くるしさを指先まで表現するレイチェルが好きだ。メアリーも好きだ。

物語の最後はハッピーエンドでもバッドエンドでもない。ただの、なんでもない日常で終わる。でも、なんでもないわけじゃない。一瞬一瞬を最高にしようという心の持ちようが、最高の平凡な日常を連れて来てくれる。

今日は今年最初の真夏日。晩ご飯はひとり、近所のチェーンのイタリアレストランでパスタをすする。店内は半袖半ズボンの家族でにぎわっている。一年ぶりの熱い太陽をめいっぱい味わい、汗をかき、夜ご飯は上機嫌にファミリーレストランで飯を食う。彼らの休日がしあわせだったことは、はしゃぐ子どもたちの表情を見ればわかる。これがしあわせというやつの正体なのか。

スマホをいじりながらパスタをすすっている場合じゃない。読みかけのエッセイ集を読み終えたら、家に帰ってシャワー浴び、冷たい麦茶でも飲もう。そして「おかえり」を言おう。

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