近未来ミイラ

爪を切っている人が爪痕を残していたら、それほど素敵なことはないのかもしれない

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最近の記事

言葉を奪われる

 素晴らしい作品に「心を奪われる」 という表現がある。しかしこれは、表現として定着してはいるものの、なかなか表面化しづらいものである。というのはつまり、その人が心を奪われているかどうかを客観的に調べる方法がないということである。  そもそも「心」というものを、私たちはなかなか捉えきれていない側面がある。特に他人の心ともなれば、いくら気がおけない間柄であっても分からないことが多い。対して自分の心であれば、人間はそれを手持ちの語彙である程度言語化できる。そして言語化されている心で

    • 『表現を仕事にするということ』を読むということ

       小林賢太郎さんの著書『表現を仕事にするということ』が、先日発売された。同書には、私も購読している「小林賢太郎のノート」の記事を加筆修正した文章も載っており、確かに目次には見覚えのある言葉がいくつか並んでいた。  ある項目について、noteに書かれた文章と、この本に載っている文章を一字一句読み比べてみた。それを通して純粋に感じたのは、「noteに書かれた文章の方が心に沁みる」ということであった。  思っていたよりもずっと多くの表現が修正されており、その修正はおおかた内容を削減

      • 老廃物となって

        いつもに比べて、1.5倍の長さ。 短めの、長風呂。 世界と自分の感覚のズレが、 浴室の壁に反響してよく聞こえるのです。 結局、いつものメニューが美味しくて。 結局、いつもの家が恋しくて。 結局、いつもの音楽を聴いていて。 結局、いつもの言葉で自分を表している。 蓄えた僕が、古くなって、いらなくなって、 やがて体外に排出されようとした時。 やはり大概は見るに耐えないほど汚くて、 目を背けたくなったり。 補うように、いつもをいつも補給していて ふとした瞬間の自分らしくない何か

        • 棒とか円とかが好きなのかもしれない

          私は、棒とか円とかが好きなのかもしれません。 グラフの話ではありません。 棒とか円とか箱とか板とか紙とか球とか車輪とか、地味だけどそれじゃなきゃだめ、みたいなやつが好きなのかもしれません。 紙袋の匂いが好き、とか、福袋のワクワク感が好き、とか。そういう個別具象的な好きよりも、もっと高次の、あるいは低次の「好き」みたいな。袋という概念が好きなのかもしれません。 そりゃ、紙がなければスマホにメモ書きができるし、車輪がなければ棒を何本も用意してその上を転がせばいいし、袋がなければ箱

        言葉を奪われる

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        • 掌編総集編
          37本
        • 読書感想文の所感集
          10本

        記事

          対話:飴

          A「なぁ」 B「ん?」 A「飴の存在意義って、なんだと思う?」 B「これまた急だな」 A「だってちょっと考えてみろよ。お前さ、いちご味の飴って見たことあるだろ?」 B「あるよ。なんなら食べたこともあるよ」 A「じゃあそのいちご味の飴をなめたときにさ、『ああ、もうこれさえあれば、本物のイチゴはいらねぇなぁ』って思ったか?」 B「思わないよそんなこと。大体、いちご味っていうけど、本物のイチゴはあんな甘ったるい味じゃないからね」 A「だろ?ということは、味のついた飴には、その味がす

          あなたにグリーンピースをのっけることを、法律で禁止してほしい

          言葉の通りです。

          あなたにグリーンピースをのっけることを、法律で禁止してほしい

          側溝

           僕は今、嫌なこととどうでもいいことと好きなことが一斉に終わって、なんだかとんでもなくぐったりとしている。世界と、世界を受信するすべての感覚器官との間に、ヘドロが溜まっているような気分だ。心の中ではもっと書きたいもっと動きたいもっと始めたいと思っているのに、今の僕には世界が2段階くらい暗く見えるし、身体の中を水銀が巡っているような重さがある。  外の空気を吸わなければ。無意識にそう思い、気づけば電車で梅田まで来ていた。ユニクロで真っ黒な服を1着だけ買った。そのあとも文房具売

          (-ざ-)

           重装備でドアを開けたが、恐るほどの狂気的な寒さではなかった。それでも空にはまだ明けきっていない夜が見えて、冬が目に染み入るような気持ち。  予定より何本か早い電車の中は、学生から老人まで様々。大半はスマホを見るか寝ているかだが、一定数本を読む人もいる。まだまだ紙の本も戦えるのだと、なんだか嬉しくなったり。  窓の外をぼうっと眺めていると、流れてきたのは「自動車免許最短14日」の文字。僕はいつになったら免許を取るのだろう。明日の自分のことを、あたかも自分以外の誰かであるかのよ

          下宿中にガチで価値変わったもの3選

           こんにちは。  大学に合格した暁には、下宿を始めるという人もいるかと思います。私もそのうちの1人でした。下宿を初めてもうすぐ1年が経ちますが、そんな中で私、気がついたことがあるのです。  家族と暮らしていたときと比べて、1人で暮らしている時に圧倒的に輝くものってあるんですよね。ということでこれより、「下宿を通してそのありがたみに気づいたもの」を3つ紹介していきます。もちろん主観ですので、ご了承ください。 ①天かす いや、いきなりショボいな!とか思いました?侮るなかれ。コ

          下宿中にガチで価値変わったもの3選

          生存逃走

           「逃げる」という行為自体は、本来難しいものであるはずなのだ。例えばRPGにおいて、MAP上をうろうろしている敵と接触した際に、バトルが始まる。ゲームによっては、「にげる」コマンドがあったり、「身代わり人形」みたいなアイテムがあったりして、その戦いから逃げることができる。ところが、ストーリーの道中で戦わなければならないボスとのバトルでは、そうした手段をとることができなくなることが多い。いわば、逃げられなくなるのである。  ホラーゲームなんかについても多くの場合、ゲームの基本的

          忘年note

           2023年の一年で、高校を卒業し大学に入学したというのだから、怒涛だったんですね、きっと。 1人で振り返ってみます 1月 コロナになりましたね。共通テストの2日前の夜に発熱しましたね。ここでコロナになって、「あーきっと今年は思い通りにいかないんだな」と直感的に感じて、志望校を変えた記憶があります。父に阪大の赤本を買ってきてもらったのも、コロナで寝てた時ですね。 2月 誕生日と同じ日に二次試験でした。二次試験の朝、彼女からお誕生日おめでとうの動画が届いて、その動画について

          親バカバカ

          発端と問いかけ  子供を溺愛している親のことを「親バカ」と言う。程度にもよるが、迷惑でさえなければなかなか微笑ましいものである。  ある日、知人と会話をしていると、この「親バカ」という言葉はなんとも不思議であるという話題になった。知人の主張はこうだ。  スポーツばかりやっている人のことを「スポーツバカ」と呼び、釣りを趣味にしている人を「釣りバカ」と呼ぶのだから、子供にべったりな親のことは、「親バカ」ではなく「子バカ」と呼ぶべきではないか。  ふむ。分からないでもない。もしも

          この記事は少し聞き取りづらいです。

          なんとなく言葉にしたいことがたくさんある。だけど、いちいちタイピングをするのが多くというか、わざわざ文字にしてまで喋ることでもないような気がする。そこで今回はスマホの音声入力の機能を使ってみることにした。何回か使ってみて1つ気づいたことがある。どうやらこの音声入力は、音声を単語とか文節とか、そういった単位で聞き取っているような気がするだから例えばこんにちはと一声で言ったときにはちゃんと聞き取ってくれるしかし子にちはと言うように一文字ずつ声に出した場合には正しいように聞き取って

          この記事は少し聞き取りづらいです。

          ジャケット

          必要以上に重たい鞄を運んで それで満足してしまうなんてね 場所が変われど関係ないの 左下の缶コーヒーで乾杯 同じ日なんて二度と来ないのに 「また冬が来たね」と笑う

          洗濯

          洗濯物が溜まっていることに気づく。 明日の朝洗おうと思って眠りにつく。 次の日。 少し起きるのが遅れて、急足で大学へ向かう。 お昼、洗濯をし忘れたことに気づく。 明日こそは洗おうと思って眠りにつく。 次の日。 予定通りに起きて、洗濯機を回す。 少し時間に余裕があって、優雅に朝食を食べる。 なんだかんだ時間になって、大学へ向かう。 お昼、洗濯物を干していないことに気づく。 家に帰って洗濯機を開けると、生乾きの臭い。 明日もう一度洗おうと思って眠りにつく。 次の日。 予定通

          【掌編小説】赤さま

          A「バブ」 B「どうされましたか?赤さま」 A「バブバブ」 B「はは。ミルクですね。ただいまお持ちいたします」 A「バーブ」 B「かしこまりました。ホットミルクでお持ちいたします」 A「バーブバブバーブ」 B「ええもちろん、表面に出来た膜は取り除いた状態でお持ちいたします」 A「ブ……」 B「では、少々お待ちくださいませ」 A「……バブバ」 B「……?どうされましたか?」 A「バブブバ、ブババブブババブブバ?」 B「はて、好きな人、ですか?いえ、私にはそのような人はおりません

          【掌編小説】赤さま