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中国、金保有3カ月連続増 世界的インフレでドル離れか~通貨は二極化体制へ向かうか~【日経新聞をより深く】

1.中国、金保有3カ月連続増 世界的インフレでドル離れか

中国人民銀行(中央銀行)が7日発表した2023年1月末の外貨準備の内訳によると、金の保有量は約2025トンと22年12月末から0.7%増えた。3カ月連続の増加だ。世界的なインフレをうけ、中国は安全資産として輸入を増やしてきた。米国債の保有を減らしており、ドル離れを進めている可能性もある。

中国税関総署によると、22年の金の輸入額は766億ドル(約10兆円)だった。前年から6割増え、確認できる17年以降で最高を更新した。人民銀行以外に国有銀行などが保有しつづけ、外貨準備以外の形で安全資産を増やしている可能性もある。

一方、米財務省によると、中国が保有する米国債は直近22年11月末時点で8700億ドルと1年間で2割減った。世界的なインフレリスクから準備資産を入れ替えているとの見方があるほか、米中対立を背景に中国がドル離れを加速させているとみることもできそうだ。

1月末の外貨準備高は3兆1845億ドルで、前月末より568億ドル増えた。4カ月連続で前月末を上回った。中国国家外貨管理局によると、グローバルで金融資産が総じて値上がりしたほか、ドル安をうけドル換算の評価額が上がった。

米連邦準備理事会(FRB)によると、1月末時点のドルの主要通貨に対する指数は、12月末から1.5%下がった。同局は「中国経済の回復が続いており、外貨準備高の安定に寄与している」と指摘した。

(出典:日経新聞2023年)

中国はドル離れを加速させているように見えます。そして、ロシアも脱ドルです。

フィナンシャルタイムズに米国発の世界金融危機(2007年-2010年)を予言した経済学者として知られているヌリエル・ルービニ博士が記事を出稿しています。世界の通貨の二極化です。

2.人民元の存在感

中国の通貨である人民元は国際的な地位を向上させてきています。米ドルは、戦後の固定相場を維持したブレトン・ウッズ体制(金・ドル本位制の下で為替相場を安定させる体制)が1971年に崩壊してからも、世界の基軸通貨であり続けました。そのため、世界各国は外貨準備としてドルを大量に保有する状態が一貫して続いていました。

しかし、この状況に大きな転換になったと思われるのが、ロシアのウクライナ侵攻です。ロシアの侵攻後、米国と西側諸国は次々と対ロシア経済制裁を打ち出しました。特に米国はロシアの外貨準備を凍結したのです。

その結果として、世界的にドルへの警戒感が増しました。特に中国は警戒を強めたと思われます。ユーロも国際的な地位を高めたい意向があります。外貨準備の多様化、脱ドル化が始まっているのです。

IMF(国際通貨基金)が発表した外貨準備統計(COFER)によると、2022年第3四半期の世界の中央銀行の外貨準備に占める米ドル割合は59.75%となっています。米ドルの割合は漸減しています。ユーロも20%台を切り19.66%と2021年第3四半期の20.52%から低下しています。

(出典:IMF Currency Composition of Foreign Exchange Reserves(外貨準備の通貨構成)
(出典:IMF Currency Composition of Foreign Exchange Reserves(外貨準備の通貨構成)

これに対して、人民元は2016年第4四半期が1.08%だったのに対して、2022年第3四半期には2.76%と増加しています。

(出典:IMF Currency Composition of Foreign Exchange Reserves(外貨準備の通貨構成)

この背景にはIMFが2016年10月に人民元をIMFのSDR(特別引き出し権)の通貨バスケットとして採用したことがあります。

SDR(Special Drawing Rights)の略で、国際通貨基金(IMF)に加盟する国が持つ「特別引き出し権」のことです。出資比率に応じて加盟国に割り当てる仮想通貨で、通貨危機などで外貨不足に陥った加盟国は、SDRと引き換えに他の加盟国から米ドルなどの外貨を受け取ることができます。IMFは支援融資をSDR建てで実施しています。世界貿易の拡大などにより、主要な外貨資産だった金と米ドルが不足するようになり、1969年に補完手段として設けられました。

このSDRの通貨バスケットに人民元が採用されたことにより、信頼が出てきました。

さらに2022年5月にはSDRの通貨構成比が見直されました。人民元の比率は10.92%から12.28%に引き上げられました。これによって、人民元はドル、ユーロに次いで3位となっています。一方で円は8.33%から7.59%へ、ユーロは30.93%から29.31%へそれぞれ低下しています。国際的な地位が高まっている人民元は、現在、世界の80以上の中央銀行や金融当局が準備通貨に組み入れているようです。

人民元のクロスボーダー決済も広がっています。国際決済銀行(BIS)によると、通貨別の取引シェアで5位に浮上しています。BISが2022年10月に世界の為替取引に関する調査結果を発表しています。各国中央銀行の報告を取りまとめたもので、3年に1度公表しています。(この時の調査は2022年4月時点の調査)

人民元の2022年4月の売買高(1日平均)は5260億ドル(約76兆円)で19年と比べ85%増えています。全体に占めるシェアは7.0%(売り買い合わせた合計は200%)と同じく19年と比べて2.7ポイント上昇しました。米ドル、ユール、日本円、英ポンドに次ぐ5位となっています。

(出典:日経新聞2022年10月27日)

また、中国人民銀行が2022年10月に発表したデータによると、中国の金融機関や企業、個人によるクロスボーダー取引総額の半分近くが人民元で決済されています。

中国の各大手銀行による人民元建てクロスボーダー受払金額は、2021年が前年比29%増の36兆6,000億元(約745兆5,000億円)で、同期の人民元・外貨建てクロスボーダー受払総額に占める割合は47.4%でした。2022年1~8月は前年同期比15.2%増の27兆8,000億元(約566兆2,000億円)で、同割合は49.4%にまで上昇しています。

この様に人民元は存在感を高めています。

3.脱ドル化はロシア、EU、中東でも起こり始めている

脱ドル化の動きは広がっています。中国に先駆けてドル依存脱却を目指してきたのがロシアです。

ウクライナへ侵攻する前年の2021年1月に公表した報告書によると、2020年6月時点でロシアが保有する外貨準備の構成比率で金が米ドルの比率を上回っています。無国籍通貨とみなされドルの代替資産と位置づけられる金が、基軸通貨のドル比率を上回るのは、統計を遡れる2014年以降では初めてです。

ロシアはウクライナ侵攻前に外貨準備を積み増していました。2015年末から2021年にかけて70%以上も急増し、6200億ドルを超えていました。2021年1月に発表されたデータによると、ドル準備は2020年外貨準備全体の約16.4%を占め、2020年6月時点の22.2%から低下しました。外貨準備の約3分の1がユーロで、21.7%が金、13.1%が人民元でした。ロシアは、ウクライナ侵攻前から脱ドル化を進めていたのです。

ロイター通信によると、2022年7月にインドのセメント最大手ウルトラテック・セメントがロシアから石炭を輸入し、人民元で決済していることがロイターが入手したインドの税関書類で明らかになりました。

ウルトラテック・セメントはロシアの石炭最大手SUEKからの15万7,000トンを、極東のワニノ港から出荷しました。7月5日付けの請求書では代金が1億7265万2900元(約2581万ドル)でした。

インドの銀行関係者によると、人民元を使ったインドの貿易決済では、金融機関は中国や香港の支店、あるいは提携している中国の銀行にドルを送り、人民元と交換して貿易決済を行う可能性があるとしています。また、インド財務省の元幹部は「ルピー、人民元、ルーブルのルートが有利と分かれば、企業は切り替えようとする。こうした取引は今後も行われる可能性が高い」との見方を示しています。

EU諸国もドル依存に危機感を抱いていると思われます。英国、フランス、ドイツは、米国によるイランへの経済制裁の影響を回避し、イランとの貿易を継続するため、2019年1月に貿易決済取引支援機構(INSTEX)を立ち上げています。

さらに、サウジアラビアは原油の決済を人民元でも行う動きを加速させています。

また、CBDC(中央銀行デジタル通貨)も脱ドル化に拍車をかけると思われます。

中国は国家戦略として自国のCBDCである「デジタル人民元」の大規模な実証実験を推し進めています。CBDC決済は世界中で拡大しており、BIS(国際決済銀行)によると、2021年末時点で世界81か国の中央銀行の約90%がCBDCに関する業務に取り組んでいるといいます。

ECBは2026年の発行を目指しており、中国もCBDCの先頭を走る国の一つです。

通貨は米ドルと人民元の二極化体制に向かっている可能性が高くなってきました。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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