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知っておきたい『採用に関わる法律問題』#9

~問題のある新入社員が居たらどう対応する?~

以下の事例を基に、採用と採用後の問題社員の対応について考えてみたいと思います。

経理担当として採用された従業員(会計の専門学校卒業)が、給与計算のミスが無いように先輩から給与計算ソフトの使い方の指示を受けたにもかかわらず、独自の方法で給与計算ソフトを使った結果、給与計算に間違いが生じた。 当該間違いに対して会社が指導したところ、 従業員は、 「後で修正しようと思っていました」 「上司が確認してミスを見つければいいので私に責任はない」 と自己弁護に終始したため、会社は従業員としての適格性がないとして試用期間の満了をもって本採用を拒否した。
(東京地判平成27年9月30日判決を基にした)

1. いったん採用した社員はクビにできない?

⇒ 一方的にクビにするのはハードルが高い
法律では、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
と規定されています。

解雇が有効となるには
1.客観的合理的理由
2.1に対して解雇が相当であるという状況が必要です。
これらは会社側が立証しなければならず、また裁判所が解雇を認める場合には、相当固い客観的合理的理由とその証拠が必要となるため、解雇が争われた場合に会社側がその有効性を証明するのはハードルが高いです。

解雇が無効になった場合には、バックペイという解雇日以降の給与相当額の支払い+問題社員が復職するという往復ビンタ状態となるため、解雇無効になるような解雇は避けるべきです。(元事例では、400万円程度のバックペイが生じていますが、1000万円を超える事例も珍しくないです。)
そのため、解雇前に弁護士に相談し、解雇が争われても問題がないように準備しておかなければいけません。

2. 試用期間満了後に採用拒否できる?

⇒ 試用期間満了後の採用拒否は解雇よりハードルが低い。もっとも試用期間中に適格性をチェックし指導していたか、その証拠を残したかが大事。
試用期間とは、労働者の資質、性格、能力等を十分に把握し、従業員としての適格性を吟味する時間であり、法定されたものではないですが、労働条件通知書に記載されていたり、就業規則に定められたりしていれば労働契約の内容になります。

・新入社員の場合
最初は仕事ができないことが当たり前ですから、仕事ができないことをもって本採用拒否をすると無効になる可能性が高いです。
指導を行い当該従業員の改善を図ったこと、改善のためにフォローをしたことを記録に残し、当該新入社員の改善のための態度についても記録に残しておく必要です。
・中途採用者の場合
即戦力として採用しるため、試用期間中に期待した働きができないのであれば本採用拒否しても無効になることは少ないです。
もっとも、指導と改善内容を記録に残すことは忘れてはいけません。

3. 解雇が有効になるには小まめな改善指導が必要

⇒ 労働者から裁判された場合に、立証責任を負うのは会社側。あらゆる内容を記録化して第三者の裁判官を説得できるようにしておくことが大事。

今回、中途採用の経理担当従業員の事例でしたが、当該従業員のミスはケアレスミスであると判断され、これに対する会社の指導(上司からの口頭指導のみ)では改善のための指導として不十分と判断され、試用期間中の解雇は認められませんでした。
もっとも、別途具体的な指導を行ったり、試用期間満了後の本採用拒否の対応をとっていれば結論は変わっていたと考えられます。
問題社員、特に試用期間中の新入社員に問題があった場合には、弁護士に相談の上、穏便に会社から去ってもらうように準備をしておくべきです。


仕事ができない、協調性がないといった問題社員は一定程度発生しますが、映画みたいに「You're fired!」と解雇を決めるのではなく、弁護士に相談の上用意周到の上で解雇をするようにしてください。


【未来創造弁護士法人】 www.mirai-law.jp
神奈川県横浜市西区高島1-2-5横濱ゲートタワー3階
弁護士 野村拓也(神奈川県弁護士会所属)
TEL:03-6435-8622


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