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よく晴れた朝に。

5月1日。
その日の朝は、よく晴れていた。
目的地へは歩いて40分。
散歩がてら歩いて向かう道中、春めいた街並み。
赤や黄色、特にオレンジの花がよく目立つ季節だった。

大学の同級生で、
大手ハウスメーカーで設計士をする友達から
「自分が設計した建物の写真を撮影してほしい」
と仕事の依頼が来たのは
1週間ほど前のことだった。

嬉しかった。

二つ返事でOKして、とんとん拍子で撮影日が決まった。そして、この日、まさにその撮影場所へと向かっていた。

杜の都仙台の象徴的な風景である広瀬川を横目に、住宅街を抜け、徐々に中心地へと近づく。

好きな曲をごった煮にしたプレイリストを
シャッフル再生で聴いていると
ceroの「大停電の夜に」がかかった。
こんな晴れた昼間に、この曲が聴けることを
なぜかその時、贅沢だなと思った。

GWの谷間の月曜日。
仕事に向かう道中の、休日みたいな朝の一コマ。
曖昧で、贅沢な時間だった。

ふと横を見ると、目的地のほど近く、
県内でも指折りの進学校の前まで来ていた。
(もうこんなに歩いてきたか)と思いながら、
少し立ち止まって時間を確認する。余裕だ。

その時、目の前にはピンク色の花が、萎れて落ちていた。グラウンドと道路を仕切るフェンスの影がグリッド上に地面に落ちて、その花はまるで、将棋の盤面に置かれた駒のように見えた。

その花はこの春、
綺麗に咲くことができたのだろうか。
果たして、
何かに成ることができたのだろうか。

そういえば、これから会う設計士の友達も
この高校の出身であることを思い出した。
立派に働く友達も、フラフラ休日気分の自分も、
みんな、なりたい何かに成れているのだろうか。

ぐちゃぐちゃ考えているうちにまた歩き出して、
やがて目的地に着いた。

それから彼の指示に従って撮影し、
午後には別な仕事に向かって、
夜には高校の同級生と久しぶりに飲み、
いま家に帰って、
撮った素材をレタッチしている。

ついでに、
道端で撮った花や景色も取り込みながら。

そういえば、やたらと綺麗に見えたあのオレンジの花、調べたらどうやら厄介な雑草らしい。そんなもんか。

外には夜汽車が走っていた 
手を振る友達 楽しそう
普通の会話を愛している

「大停電の夜に」cero


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