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<SXSW2019>SXSW予報(4)Independece 〜自分の価値を自分で売っていく時代〜

【HPブログより転載】

SXSWのセッションを楽しむコツは、自分の専門領域”外”を横断的に見てみる事です。トラック(カテゴリー)をまたいで、共通するテーマを自分なりに見つけてみると、未来の兆しが見えてきます。SXSW2019特集記事の後半は、未来予報のインターン齋藤雄太さんの視点から書いた全6記事をお送りします。


はじめに


著書「<インターネット>の次に来るもの」の中で、著述家であり、WIRED雑誌を創刊したケヴィン・ケリー氏は未来を決める12の法則を記しています。こちらは2016年出版の本ですが、つい昨年話題になったビットコインや人工知能、自動運転車などのブームを予測しており、これから先のテクノロジーの潮流はどこへ向かうのか、私たちの進歩の先の未来にはどのような世界が待っているのかについて興味深い視点を与えてくれます。未来を知りたければ是非読んでもらいたい良著だと思うのですが、その中でもわかりやすく、また今回のテーマである「Self-Sovereingnty & Independence」に関わるであろう法則をいくつか最初に取り上げさせていただきます。


未来を決める法則

まず「Cognifying」(コグニファイング)という潮流を取り上げているのですが、これは人工知能が発達した未来におけるロボットと私たちの社会のあり方のことを示しています。人工知能はますます進化し、自分で学ぶAI、AI同士で学ぶAIへと進化を加速させており、こうした教師不要のAIは自分でルールを学んで行くため、あらゆる物事に対応可能になります。ルールを教え込む人間が不在になることでAIは自律した存在となり、大きく可能性を広げました。これは、今回のテーマである「Self-Sovereingnty & Independence」というのは我々人間だけでなくAI(人工知能)やロボットの自律性のことも示唆していると言えます。

次に「Flowing」(フローイング)という兆候を記していますが、これはデジタル化が進み、あらゆるものが容易に複製され、広まっていく社会のことを示しています。実際、後にご紹介するSXSW2019のセッションでも見ていきますが、アートや音楽の業界でもデジタル化・コピー化が進んでおり、クラウド技術や通信技術の発展により、リアルタイムでいつでもアクセスすることが可能になっています。このように、即時性に重きが置かれ、流動化が進む社会においては、商品やサービスを所有する価値は減り、製品などはどんどん一人一人にパーソナライズされていくでしょう。そうした流れの中でより大きな価値を持っていくサービスや体験というのはどういうものかを考えていくことが大事になっていくかもしれません。

さらに「Filtering」(フィルタリング)の重要性にも触れていますが、ゲーム・音楽・エンタメ・本など、これだけ多くのコンテンツが広まっていく中で全てを消費することはできないため、個人の好みに最適化されパーソナライズされた製品や情報に接することが求められていきます。最も身近なフィルタリングの例はAmazonなどでのお勧めリストですが、「あなたにはこの商品がおすすめ」や「これを買った人はこの商品も買っています」といったアルゴリズムは多大な経済的恩恵を生みだしたと言えるでしょう。

最後に「Tracking」(トラッキング)というキーワードも取り上げていますが、全ての物事が測られ、データとして記録されるようになると考えられます。デジタルカメラやスマートフォンの登場で映像や写真で簡単に記録できるようになりましたが、これからは更に、気分・血液・心拍変動・運動量・食事・睡眠などが数値化されたデータとして蓄積されていくでしょう。Amazonでは購入履歴、Googleでは検索履歴をデータとして蓄積していますが、これらのデータは個人の病気の判断や、マーケティングなどに使われ、パーソナライズの過程で重要な価値を持つようになると予想されます。

著書に記されている12の法則からいくつかを抜擢させていただきましたが、他にも興味深い法則が挙げられているため、是非本著をご参考にいただければと思います。上記で取り上げました法則が今回のSXSW2019で開かれるセッションの中の一つの大きなキーワードである「Self-Sovereingnty & Independence」にどのように関わっていくかを以下で考察してみたいと思います。

参考文献: 「<インターネット>の次に来るもの」


SXSW2019セッションのご紹介


まず、Music Industry & Culture部門の「Self-Sovereignty, Open Protocols & Future of Music」というセッションでは、アートや音楽がデジタルのデータへと変換され、コピーが容易になり流動性が高まる中、これらのデータはどのように管理され、誰が所有し、どのようなプロトコルによってアーティストが自らのデータをトラックし、マネタイズをしていくべきかについての議論をします。これは、先ほどご紹介した「フローイング」「フィルタリング」「トラッキング」の法則に関わるかと考えられますが、所有よりもシェアリング、そしてリアルタイムのアクセスが価値を増している中、コンテンツを製作する側は、いかにしてオリジナルな価値やブランド・信頼を築き、流動性を保ちながらもいかにそれらをトラックングし、いかに消費者に発見してもらうか、といった課題に直面していると言えます。最近日本ではSHOWROOMなどのストリーミングサービスが話題となっていますが、いかにインタラクティブ性を出し、新しいワクワク体験を提供するか、もしくはライブイベントやトークショーなど身体性を実感出来るものの価値を出していくといった新たなアプローチが求められているのかもしれません。

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次に、もう一つのキーワードとして「ローカル化」を見ていきたいのですが、以下の三つのセッションではこのローカル化の流れが垣間見えると思います。

最初に Film & TV Industry部門の「Film Hub, USA: Building a Hometown Film Ecosystem」では、 ニューヨークやロサンゼルスといった映画業界の中心部以外のアメリカの地域で起きている、よりローカルな映画コミュニティの登場、新たな映画文化や独立した映画製作者・産業・制作会社の誕生について紹介します。このセッションでは、映画エコシステムが上手く繁栄していくための構成要素や、どのようにして個人やローカルコミュニティがそれぞれのホームタウン映画業界の発展に貢献できるかについて議論します。

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さらに、Making & Marketing Music部門の「Advantages of Regional Music Services Around the World」では、 SpotifyやApple Music、AmazonやYouTube/Googleなどの人気が国際的な支配を続ける中、特定のマーケット・地域・音楽の種類への深い理解があり、よりローカルなサービスが増えていくことの重要性が見直されています。ストリーミング業界の情勢が変化する中、こういったローカルなサービスがより大きなジャイアントからいかに差別化をし、台頭すべきかについての議論がされます。

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三つ目に、Media & Journalism部門の「The Battle of Local News vs. Disinformation」では、ローカルコミュニティは強固なニュースエコシステム無しでは脆弱である課題点に言及し、市民エンゲージメントは上げ、住民が地域の重要な課題を知るための情報源を作り、より賢明な役人の選出を可能にするためのローカルニュースエコシステムについて議論をします。フェイクニュースを無くし、市民への情報伝達を良くするための動きがアメリカ国内各地で活発に起きている中、ローカルニュース機関とコミュニティの信頼関係を築くための議論がされます。

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これら三つのセッションに共通して見られるトレンドとしては、グローバルな情報やコンテンツの流動性が高まる中、多くのことがコモディティ化してしまい、最初に取り上げた「フィルタリング」の重要性が増していることが伺えます。IT技術などを通じてグローバル化が加速してきた中、もう一度ローカルなコンテンツに回帰しようとしている流れがあり、人々が、信頼性や自分の地元に根ざしたコミュニティ、パーソナライズ化された価値を求めるようになってきていることが伺えます。日本においても、地方復興などの議論が出てきている中、どのようにして地方のユニークな価値をそれぞれの地域で生み出し、コミュニティの信頼や繋がりを強めていくかを考えていく上で、アメリカではどのように同じような課題に取り組んでいるのかを参考にするのは一つの策かもしれません。

最後に、Music Industry & Culture部門の「Artists In Control: Technology and the New DIY」では、公平なストリーミングへの決済/トレードや透明性のある分配など、音楽を個人で配信したい人々のための解決策として去年から注目を浴びているブロックチェーン・スマートコントラクト・新しいトークン経済の可能性がいかにアーティストとファン・ビジネスパートナーとの交流を促進することができるのかについて議論をします。こちらも同様に、コンテンツの流動化や個人のエンパワーメントを象徴すると同時に、消費者が製作者のように振る舞う「プロシューマー」と呼ばれる現象も表していると思われます。これは最初に取り上げました著書の中で説明されている新たな概念ですが、現在の消費者はモノなどを所有する欲がなくなり「欲しい物がない」代わりに、「プロセスに関わる楽しみ」「一緒につくる喜び」といった欲求が強くなっていることを表しています。社会が豊かになってきたことで今の若者は物欲よりも「精神的な充足」を求め、社会のために何かをするという嗜好性へと変わってきているのかもしれません。そしてそれは、ブロックチェーンやAIなどの新しい技術によってパーソナライズ化が可能になってきた中、時代の潮目とぴったしのシナジーを起こしたのかもしれません。

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最後に


前節で少し触れましたが、これらの流れを可能にしている時代背景としては、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどの新しい技術による分散型・非中央集権型システムの台頭と、それによる個人の力の促進、今まで権力を保持してきた大きな組織から個人や小さな集団への権力の分散が起きていることが考えられます。例えば、ブロックチェーン技術を利用し、今後ビットコインなどの新たな貨幣の普及が進んでいけば中央銀行の権威は弱くなってしまうかもしれませんし、個人間同士での直接的な金融取引が可能になれば金融機関の居場所はなくなってしまうかもしれません。また、トークン経済などの台頭により、これまで価値が見出されてなかった所に価値が見出されるようになり、日本でも個人の時間を売買することができる「TimeBank」などのサービスが出てきている流れは、人々がより精神的な満足感や社会的価値の追求をしていくことの兆候の現れと読み取れるかもしれません。これらの大きな流れを一言で「Self-Sovereingnty & Independence」という言葉にまとめることは難しいとは思いますが、ケヴィン・ケリー氏が著書の中で記しているように、これらの大きな変革は今まさに始まったばかりのことで、未来の人から見たら「今ほど新しいチャンスに拓けた時代は無い」と言える時代の転換期かもしれません。仕事が減る以上に多くの新しい種類の仕事が生まれてくると言われる現在において、こうした不可避的な変化の流れを読み取り、未来を私たちになりに予測していくことはこうしたチャンスを掴む可能性を広げ、今まで想像もできなかった価値を世の中に生み出すための第一歩になるかもしれません。そういった意味でも、SXSW2019のこれらのセッションが示唆する未来への兆しを読み解き、一緒に議論をすることができれば私としても幸いです。

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