私はアクリルスタンドになる~48歳の挑戦、葛藤、そして現実〜
衝撃のニュースが飛び込んできた。
デイリーポータルZのライター・江ノ島茂道さんがアクリルスタンドとなって、サイトの有料会員にプレゼントするというのだ。
江ノ島さんはライターではあるが、本業は会社員のはずである。大雑把にくくると「一般の人」になるのではないか?その人のアクスタ?誰が欲しがるの?
私は欲しかったので、応募した。
ハズレた。
そこに天啓を受けた。
「お前もアクスタになっちゃえばいいんじゃん」
今の時代、ネット注文でアクリルスタンド制作ができる。個人でも作れるかもしれない。
しかし、私(埼玉県・女性・48歳・パート)はアクスタ向きなのか?
作るにしてもちょっと1回試したい。
透明な台に乗ってポーズ取って写真撮ったらアクスタっぽくなるかもしれない。
どんどんアイディアが浮かんできた。もう誰も私を止められない。
やろう。
私、アクリルスタンドになります。
翌日、早速買い物へ。
向かう場所はここしかない。
この日は午前中に歯医者の予定があったので、その前に下見。使えそうなものを見て回る。
歯医者を終え、お昼ごはん食べて、100円ショップで買い物して、再びジョイフル本田に向かう。
とにかく図画工作が苦手で、中学時代の美術の成績は10段階評価の「2」だった。
それでも私は挑む。
これ使えそうだな、いやもっと見て回ろう、こういうアイテムあればいいな、ジョイフルならあるかもしれない、探してみよう。これ良さげだな、買っておこう。これ必要かも、いやこれは家にあるような気がする。
ジョイフル本田が私の背中を押してくれる。
これで良し!というものが買い揃えられた。
あとは家にあるものも駆使して、アクスタ制作に挑みます。
さて、アクリルスタンドには「余白」がある。
アクリルキーホルダーしか持ってないので、その写真で説明させて頂くが、このようにプリントされたラインの少し外側をカットしてあるのだ。
台座のアクリル板と、キャラクターの余白、組み立てるとキャラクターの足は浮いてることになる。人間は浮くことができないので、どうにか浮いてるように見えないか考えてみた。
2段にすることにした。
下段をアクリルスタンドの土台、上段を自分の余白と見立ててることにした。
アクリルスタンドなので、もちろんアクリルで作るつもりだったが、早々に方向転換した。
乙女の体重を支えるにしても、安全面を考慮するならそれなりの耐性は必要だろう。
アクリル板何cmの買えばいいのか?それを買ったとして自分で加工できるのか?作ったとして持ち運べるのか?そもそもお金かけたくない。
土台は市販のものを見繕って加工するとして、透明感をどう出すかだ。
塗装コーナーあたりを見回ってたらアルミテープを見つけた。鏡のように周りの風景を映し込むことで、透けてる感じを出せるかもしれない。
もう失敗は覚悟の上だ。
下段を作る。
発泡スチロールのブロックを3個組み合わせ、アルミテープを巻いていく。
ベッドの上に置いてみる。ヨレヨレのベッドカバーの色を映して、うまく透け感出てるのでは?手応えあり。上段も作ろう。
上段は玄関用の踏み台。
隙間はダンボールで埋めて、アルミテープをぐるぐると巻く。ダンボールの上に貼った部分はぐんにゃりしちゃったけど、ほぼ想定通りのものができあがった。
これを「ステルス土台」と名付けよう。
あとは私がこの台の上に乗って、写真を撮る。
アクリルスタンドになれるはずだ。
多分、きっと。
天啓を受け、工作したり、クローゼットを漁ったり、撮影を手伝ってくれる友人を探したりして10日経った。
撮影日。
撮影を手伝ってくれることになった友人・あおやまくんを伴ってやって来たのは地元の運動公園。サッカー場と野球場があるが、試合がなければ人はさほど来ない場所だ。
それなのに、今日に限って、というやつである。
子供たちがサッカーの試合してるんですけど!
保護者のみなさんいっぱいるんですけど!
それも「JFA全日本U-12サッカー選手権大会埼玉県大会」ってガチ目の試合やってるんですけど!
自分の子供、いやもう下手したら孫レベルの子供たちがこんなに頑張ってる横で、私は何をしようとしてるのか、大人としてもっとやるべきことがあるんじゃないかと落ち込んだりしつつ、撮影場所を吟味する。
この辺でやってみるかと、ステルス土台を置いて、あおやまくんを立たせ、1枚撮ってみる。
私は撮影した写真を見返して震えた。
人物が地面から浮き、景色には馴染んでないこの感じ。
私が想像した通りだ。
アクリルスタンドをよく理解してなかったあおやまくんも、写真を見て私のやりたいことをわかってくれた。
2人の間に共通の思いが走る「これはいける」と。
ここからは「勢い」だ。車から小物を下ろし、はい次!はい次!と止まることなく写真を撮った。
ここからは季節限定販売のアクリルスタンドになろう。限定になるので衣装も変えておこう。
えーと……
みんなついてこれてるかな?
無加工のおばさんの写真ばかり見せてごめんね。
ここから交代、モデルをあおやまくん(20代)に務めてもらうからね。顔出さないけどね。
彼の衣装は用意してある。私の推しボートレーサー・桐生順平選手のカッパ(抽選会を制して手に入れた)、そしてヘルメット(チャリティーオークションを制して手に入れた)だ。
ボートレーサーの条件のひとつに「身長175cm以下」というのがあり、また体重がものを言う競技なので、多くの男性選手は50kg台である。
その条件を見事クリアしてる男、あおやま、着せるしかない。
あおやまくんはアマチュアボートレース(そういうのがあるんですよ)をやっているので、本人愛用の乗艇着も着てもらおう。
1時間ほどで撮影を終えた。
私たちは走り続けた。
私たちはやり切った。
片付け終えたらすっかり気が抜け、ベンチに腰かけ、この日ラストであろうU-12の試合を眺めた。
家に帰り写真をまとめる。
115枚撮っていた。
顔の輪郭が気になる、体型が気になる。年齢が気になる、人目が気になる。
そんなことを忘れ撮られ撮りまくった115枚。
楽しかった。
満足した。
まだまだできることはあると知った。
私はアクリルスタンドになった。