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ベビーシッターわいせつ事件がまた起きてしまった。-いち事業者として感じていること。

ベビーシッターによる性犯罪のニュースがまた・・・。なんでまた・・・と考え始めたら眠れなくなってきた。”ベビーシッター”と聞いて私の顔を思い浮かべる友人もいるかもしれないし、事件のことなど全く知らずに件のアプリを利用し続けている友人もいるかもしれない。ベビーシッター事業者として、いま私が感じていることを書こうと思う。

こういう何の落ち度もない子どもが被害を受ける事件の報道がされる度、あるいは私の会社内でもなにかトラブルが発生する度、信頼してベビーシッターサービスを利用したご両親の気持ち、子どもの気持ちを想像するだけで心臓をえぐられる思いがする。こどもの命を預かり、心身ともにすこやかな育ちをサポートするサービスを継続することの責任の重さと恐怖を感じる。会社畳もうかなと思うくらい。

実は、昨年11月~複数のわいせつ事件を起こして5月に逮捕されたベビーシッターの男は2019年11月25日、私の会社にも求人応募があった。(エントリー時点で不審な点があり不採用にしたため面識はない。)衝撃的だったのは、応募のタイミングが容疑がかかり、ベビーシッターマッチングアプリの登録を抹消されたと思われるすぐ後だったこと。5月の報道で容疑者の名前を見た瞬間、恐怖で震えた。


小児性愛者(ペドフィリア)は再犯率が高く、チャンスさえあれば何度でも危うくても犯行を繰り返す。これについてはデータも出ているし、事実だと思う。
だからこそ、子どもに関わる職業から性犯罪者を排除するべく、各国では様々な法律で締め出しを行っている。(アメリカのミーガン法等)
日本では現状、採用の際に犯罪歴を確認すべく事業者ができることといえばせいぜいインターネットで名前検索をかけるか、本人からの自己申告頼みしかない。あとは、「性悪説」で面接に臨み、対話しながら事故や事件につながりそうな発言・人柄の表出がないかチェックしたり。採用過程でスクリーニングできることは、本当に限られている。

こういった痛ましいニュースが流れようが、ベビーシッターを利用せざるを得ない家庭はたくさんある。待機児童は依然として多いし、ベビーシッターサービスの需要も増えていく一方。まずは性犯罪者の締め出しという点で、政治・行政にも掛け合いながら、日本における法律の整備を一刻も早く推し進めていくことは、イチ事業者として私自身にも責任があると思っている。そのうえで、私のような保育事業者や保育者はすべて、子どもを守るために今できることはすべてやるというスタンスでサービス提供をしていかなければならないと改めて痛感している。

これからベビーシッターを利用するかもしれないお母さん、お父さんたちに、少なからず業界の内側を知っているものとして伝えておきたいこと。

子どもの命を預けるサービスに、過度な利便性を追求するとどうなるか?

アナログで保守的な業界なのでIT化も遅れているし、利用の際に正直不便を感じることもあるだろう。仕事や家事に忙しい最中で利用されることも重々承知している。でも、事業者や保育者とのコミュニケーション・情報共有は綿密に行ってほしい。子どもに最適化された環境で保育を行う保育園とは違って、自宅が保育場所である以上、子どもの安全の保障のために保護者の協力は不可欠だと常々感じている。
そして、いまいちど、利便性とトレードオフになるであろうことについて考えてみてほしい。経営してみてわかったけれど、保育にamazonやuberのような利便性を追求していくと、どこかの時点でトレードオフが必ず発生する。そもそもは保護者のサポートが目的のサービスだから、保護者の利便性を追求するのは当然だと思う。そのうえでビジネスだから、利益を出さなければ継続できないのも当然。自己資金だけでなく、投資を受けているのならば、「約束された期間の中で利益を出す」ということについてのプレッシャーはなおさらだろうな・・・。でも過度に利便性や利益追求をすると、本来、質の向上のために割くべきコストが別のところに使われて、利用者にとっては不利益につながる経営判断がなされてしまうこともあると思う。私も日々悩む。ごくごく限られた経営資源を、何に使うのか・・・。

そして、保護者や事業者の事情でなされた数々の判断が誤った方向に向かうと、最終的に被害を被るのは子どもたち・・・

保育サービスは質を上げようと企業努力すればするほどコストがかかる。私の失敗談だけれど、立ち上げ当初は富裕層だけでなく、誰でもカジュアルに身近なサービスとして使えるようにと1時間1500円でサービス提供をスタートした。やってみたところ、まったく採算が取れないことがわかり、8年たった現在は1時間2100円に値上げしている。もっと高い事業者もたくさんあるけれど、ベビーシッター業界に飛び込み、経営をしてみてはじめて、「それはそうだな」と納得できるようになった。一見、高い・・・と思うかもしれないけれど、“儲かって儲かってしょうがない”という事業者は皆無だと思う。(高価格帯のフルサービスで展開されている富裕層向けの事業者の内情はわからないけど。)

質の向上や保育者の待遇改善にコストを割いても表面上は見えにくい。質の向上に取り組み素晴らしいシッターを揃えられたならばマーケティングにも相応のコストを割いてみたいけれど、零細企業がほとんどの業界の中において、それができる事業者は一握りだ。だから、安易に検索上位の会社に飛びつかず、経営母体やサービスラインナップ、窓口の対応等いろいろな角度から、何より「サービスの質」という選択軸はぶらさずに事業者や保育者を吟味してみてほしいと思う。(検索上位が悪い会社、という話ではない)そして綿密なコミュニケーションができない事業者、保育者は絶対に選ばないで! 


一方で、多くのベビーシッター事業者、保育者は誠心誠意、責任と愛情をもって子どもをお預かりしている!ということは声を大にして言いたい。
報道されるのはネガティブな事件が圧倒的に多いけれど、ベビーシッターサービスのおかげで仕事との両立ができて助かっているという声や、感謝の言葉をわざわざ届けてくださるお客様も時折いる。心折れる出来事が起こる度、秘匿性の高い仕事ゆえ、身近な友人や家族にも相談できない。「ありがとう!助かりました!」というメッセージ無しにはこれまでサービス継続のモチベーションを保つことは不可能だった。

私は、時にミスをしても素直に謝罪し反省し、よりよいサービス提供をしようとひたむきに努力しているベビーシッターや事業者を知っている。一握りの悪意あるシッターの事件だけを見て、“ベビーシッターはやっぱり危険だ”という偏見の目を持たれてしまうことがとても悲しい。もし、利用を検討している友人がいるならば、私が知りうる限りで信頼できる事業者やベビーシッターを紹介するし、実際に利用している身近な誰かの声に耳を傾けてほしい。ネットの匿名口コミや〇〇ランキングみたいなサイトはあてにならないよ!(「ベビーシッター会社満足度ランキングで上位掲載しませんか?」みたいな営業電話が私の会社にもよくかかってくる。)

自分の命より大切な我が子の命を預けるのだから、利用者となりうるお父さん、お母さんには是非「子どもの命」を最優先に事業者の選定や保育者のチェックをし、信頼できる子育てパートナーと出会えることを願っている。

最後に、私のようなベビーシッター事業者や保育関係者が、業界の課題を見過ごしてきたことは大いに反省しなければならない。これから二度と同じ過ちを繰り返さないために、私が自分の会社で取り組めること、他の事業者と連携してできることを全部実行していきたい。特に、性犯罪者をスクリーニングするための法律は保育事業者が乱立し続けている日本でこれから絶対に必要だと思う。事業者として、保育者として、親として、未来の親として、それぞれの立場で子どもを守るためにできることがまだまだたくさんあるはず。何かアイデアがあったり訴えかけるべき相手を知っている人がいれば、ぜひ教えてほしいです。


参考URL:

ジャーナリスト中野円佳さん【独自】キッズライン、別のシッターによる性被害の証言。突然の男性活動停止の背景に   https://www.businessinsider.jp/post-214434



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