法律的に正しいさるかに合戦

 むかしむかし,あるところに,猿(商人であるものとする。)がいました。

 おいしそうなおにぎりを持ったカニがいるのを見つけた猿は,カニに対し,「このカキの種をまけば、毎年カキの実がなるぞ。」等と申し向け,そのときちょうど持っていた柿の種とおにぎりの交換契約を申し出ました。

 カニが,かかる契約の締結に応じたため,猿は,柿の種を引き渡し,それと引換えにおにぎりの給付を受けました。

 しばらくたったころ,猿がカニの家の近くを歩いていると,カニの家の近くに,大きな柿の木が立っており,たくさんの柿の実がなっているのが見えました。どうやら,カニは交換した柿の種をきちんと育てていたようです。

 猿が,様子を見に近づいたところ,木のふもとでカニが困っていました。猿が話を聞くと,どうやらカニは木登りができず,せっかくなった柿の実がとれないようです。

 これを奇貨とした猿は,すかさず,カニに対し,「柿の実を取ってくる」という業務を委託する契約(準委任契約)の締結を申し出ました。柿の実がとれなかったカニは,よろこんで契約を締結しましたが,このとき,報酬については明確になっていませんでした。

 猿は,さっそく木に登り,柿の実をもぎとりました。このとき,猿の頭には,「報酬もちゃんと決めてなかったし,このまま柿の実を引き渡さずに食べてしまおうか」という考えがよぎりましたが,そのようなことをすれば,カニに債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求権が成立してしまうことに思い至り,やめました。

 結局,猿は木になっていたたくさんの柿の実をほとんど収穫し,これをカニに引き渡しました。

 猿の仕事に満足したカニからは,相当額の報酬(商法512条)として,収穫できた柿の一部が猿に交付されただけでなく,次年度以降の収穫についての業務委託契約締結の申出がありました。

 こうして,毎年秋になると,猿とカニは,おいしい柿を食べられるようになりました。

 めでたしめでたし。