居眠りと毛布

母は、ウチから歩いて5分ほどのアパートに一人で暮らしている。
父が亡くなってから処分してしまったので、実家はもうない。
だが便宜上、母のアパートを「実家」と呼ぶことが増えた。
「お母さんのとこ」みたいに言ったりもするが、語呂がよくないので定着しない。

でも、感覚的に母の家は実家になってきたような気がする。
母が住むことで、母の気配が家に満ちる。
そのことが随分私を安心させる。

昔から実家に顔を出すと、リビングにあったマッサージチェアで昼寝をした。
どういうわけか、いつもすごくよく眠れるのだ。
多分、親がいる空間の中で、私はすっかり安心するのだろう。
自室で眠るのとは違う感じだった。

母のアパートには、マッサージチェアはない。
代わりに、リビングにソファがある。
久しぶりにこの前顔を出した時、そこに寝転んでみた。
すると、いつの間にか眠ってしまったようだ。
気がつくと、何か掛けられたのを感じた。
母が毛布を掛けてくれたのだ。

気がついてはいたけど、眠っているフリをしてそのままでいた。
この年になっても、私はまだ母の子供らしい。
そのまま、またしばらく眠ってしまった。

年老いた母は、「もういつお迎えが来てもいい」とよく口にする。
気持ちはわかるけど、もう少し元気でいて欲しい。
居眠りする私に毛布を掛けてくれるのは、もうお母さんしかいないのだから。

豊かな人生のために、ファッションのスパイスを。 学びやコーチングで自分の深掘りを。 私の視点が、誰かのヒントになりますように。