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土曜のブランチはNY気分で (松之助)

今週は本当に忙しかった。

一万字超の原稿を仕上げなければならなくて、毎日深夜までワード文書の中の文字とにらめっこしていた五日間。

金曜になんとか初稿を提出して、やっと迎えた土曜日。


寝不足でぼんやり重たい身体を引きずって、毎週通っているピラティスへ迎う。

週末を寝て過ごすのが嫌で、どんなに忙しくても土曜の朝は必ずピラティスのレッスンを入れている。

強制的に頭と身体を叩き起こして、たった48時間しかない自由時間を有効活用したいからだ。

レッスンの予約を入れてしまえば、どんなに疲れていても起きざるを得ない。

ストレッチして身体を動かせば、頭の中がスッキリして目が覚める。


毎週土曜の朝に楽しみにしていることが、もうひとつある。

それが、ピラティス後のブランチ。

日経新聞の記事を読んで気になっていた場所があった。

専業主婦を生活経て、45歳過ぎてアメリカ留学した女性が帰国して開いたカフェ。

アメリカ本場のアップルパイが食べられるというそのカフェは、烏丸御池のど真ん中という好立地。

「松之助」というゴリゴリの日本語名と、NYの街角のような外観があまりにも正反対で、なんとなく以前から気になっていたのだ。


いつか行こうと思いながら、Googleマップにピンを立ててから、かなりの時間が経ってしまっていた。

忘れかけていたタイミングで、日経新聞のメルマガが、このカッコ良すぎるオーナー平野さんの記事を送ってくれて、「あのカフェだ・・・!」と思い出したのだ。


土曜の12時半。

ランチ時にもかかわらず、運良く席に座れた。

いや、このご時世だから空いていたのか。


店内には、アメリカ人のマダム2人組。

なるほど、本国の方も来る場所なのね。これは期待できそう。


席に着いて店内を見渡すと、NYダイナー風のインテリアに、心が躍る。

NYには出張で行ったきりで、その時はあまり自由な時間も取れず、こういうところに行けなかったんだよね。

オーナー平野さんはニューイングランド州に留学されていたそうだけど、ニューイングランドにもこんなダイナーがあるのかしら、と想像を膨らませる。


アップルパイ目的で来たけど、突然アメリカらしいパンケーキが食べたくなった。

あっさりした軽いブラックコーヒーをガブガブ飲みながら、甘いパンケーキと塩味の効いたベーコン&エッグを頬張りたい。

近くの席から聞こえてくるマダム達の英語も手伝って、そんなアメリカの朝が恋しくなった。


よし、今日はパンケーキブランチにしよう。


注文するとしばらくして、しっかり湯気の立つ温かいコーヒーが運ばれてきた。

これこれ。この大きいマグにたっぷり入ったブラックコーヒー。

雨がぱらつく中歩いてすっかり冷え切ってしまった両手を、大きいマグで温める。



ひと口すすると、軽やかな苦味。これなら何杯でもイケる。

LAに住んでいた時に自宅の近くにあった、コーヒーおかわり自由のブランチレストラン「The Original Pancake House」を思い出す。

当時同僚と、休日出勤前にここで待ち合わせして、気合いを入れるためにブランチを食べに行ったっけ。

後から知った話、社長も同じ時間にブランチを食べに行っていたらしい。

それくらい、そのお店は地元民には馴染みの場所で、「松之助」で飲めるコーヒーはそこで飲んだコーヒーの味に近い、アメリカンローカルな味がした。

アメリカのコーヒーは東海岸は深煎り、西海岸は浅煎りと聞いたことがあるけれど、きっとこういうダイナーのコーヒーはどこもこういう軽い口当たりなのだろう。


「パンケーキは焼き上がりに、少し時間がかかります。」


コーヒー片手に、人間観察ならぬ店内観察をしながら待つ。

白とグレーのチェッカータイルや、壁に飾られたNYの絵に、北米らしさを感じる。

店内に流れるノラ・ジョーンズ。

映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』をふと思い出して、「ああ、やっぱりパイが良かったかなあ。」と思う。



そうこうしている間に、あつあつのパンケーキが運ばれてきた。

ふんわり香る小麦粉の香り、つるんとした目玉焼き、鮮やかなピンクのベーコン。

いや、これにして正解だった。



まずは何もつけずに、そのままひと口。

ふわふわ過ぎず、サックリ感の残るパンケーキには、優しい粉糖がよく合う。


軽めのコーヒーで流し込んで、ふた口目は、メープルシロップと一緒に。

甘過ぎないシロップを口に含むと、アメリカ生活を経験した舌が、「早くベーコンと一緒に食わせろ」と言う。

甘いパンケーキとしょっぱいベーコンは最高の組み合わせなのだ。


三口目は、目玉焼きと一緒に。

味の濃ゆい黄身がそこへ重なれば、さらに満足感が高まる。



箸休めならぬフォーク休めに、メープルシロップでカラメリゼされたグラノーラが入ったヨーグルトをいただく。

最初はカリカリ,ジョリジョリと甘い部分を楽しんで、時間が経つと糖分がヨーグルトに溶け出して、それもまた良い。


13時半頃、お昼を終えた人々がおやつを求めに、次から次へと店内に入ってくる。

複数個買っていく男性客も多い。

暖かくなったら、テイクアウトして鴨川に座って食べるのもいいなあ。


すっかりお腹も心も満たされて、お店を後にした。

来週末は久々に、アメリカ留学時代によく寮の大きなオーブンで焼いていた、りんごとサツマイモのケーキでも焼こうかな。

あっさり目のコーヒーをたっぷり淹れて。

アメリカへのノスタルジーを感じたひと時だった。


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