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オジサンが好きだったの

小さい頃からオジサンやお爺さんが好きだったのよ。

親戚の家に遊びに行ってもオバサンには目もくれずにオジサンの膝に座るもので(当時のオジサンは座敷で胡坐をかいていたのでそこに座ることが出来たの。日本の田舎の風景よ!)母の亀子(仮名)には「この子はホントに男の人が好きよね」と今思えば意地悪を言われていたわよ。その頃はわからなかったけれどね。フン!わたしは50年以上前のことをありありと思い出される異常な記憶力があるのよ!昨夜の晩御飯のメニューは思い出せないけれどもね。

ああ、話逸れたわ。いつものことだけれども。

少女の頃は藤竜也さんや二谷英明さん。海外ではクラーク・ゲーブルやショーン・コネリーにユル・ブリンナーにうっとりしていたわ。あ、藤竜也さん以外はもう物故者だけど。

母亀子は「藤竜也?フン裕次郎の子分よ。二谷英明?すぐ殺される役だったのよ」と馬鹿にしたけど気にしないもんね。

山村聰に佐分利信や三船敏郎、丹波哲郎(敬称略ね)骨の髄までのオジサン好きよ。

いま好きなのは阪東妻三郎、仲代達也ってとこかな。

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え?わたしの好みを延々と語るだけなの?って?そうよそうなのだけれどね先日59歳になったわたしには大きな問題が勃発しているのよ。聞いてー!

「もう年上の男性が少なくなっている」ってことなのよ。大問題だわよ。昔ある人が「ねえねえ、面白いジョークがあるんだよね。泉重千代さん(長寿世界一)が好きなタイプは?と聞かれて年上の人って答えたんだよね。アハハおかしい!」と嬉しそうに言うのを「なんてしょうもない事をおかしがるんだこの人は」と冷めた気持ちでいたのだけれども齢59歳の操には今になって深く沁みいるわけですよ。ああ、年上が減ってきているんだあ。ってね。

ああ、「愛のコリーダ」に出演した藤さんはまだ40前だったのね、んなの小僧っこじゃん!と思っちゃう自分が悲しいわ。まあ、いいわよ。これから好きな芸能人を増やさないで思い出の中で生きていれば良いのよ。思い出のなかではミサオ16歳、藤竜也にうっとり。でなんとかなるわよ。

問題は現実のことなのよ。オジサンが大好きだった若い頃のわたしはオジサンとの親和性があったっていうの?オジサンにも可愛がられるタイプだった。ちょっとダサくて世間知らずな人の言うことを鵜呑みにする女の子ね。アハハ。かっこわるいわー。

ところがこの年齢になるとわたしがキャラ変しちゃって、世間知らずは今でもなのだけれどもオジサンを見ると「何威張ってるのよ!」と闘争心が燃えるようになったわけ。居酒屋で「オヤジいつもの!」とか定食屋で会計をしながら爪楊枝を咥えているのを見ると、ぎゃ~~~!って叫びたくなるくらい嫌いなのよ。あんなに好きだったオジサンが(自分が同じくらいの年齢になると)大嫌いなのよ!

上京したの。楽しかった。帰りの飛行機は「強風のために激しい揺れが予想され、羽田に戻る可能性もあります」の条件付き飛行だったの。

空いているし三人掛けの左の端っこだしゆっくりできるわね。と思ったら「ああここだここだ」と大声で部下を引き連れて絵に描いたような出張帰りと思われるオジサンが右端の席に座ったの。ゲゲゲ。

黒ずんだ顔色、浮腫んだ上瞼と下瞼。艶の無い髪にごろんとした短い体躯。

「ああこの旅行最後がツイていないわ」と思ったわよ。

オジサンは真ん中の席に缶ビールと焼売弁当をドサッと置いた。普通「ここに置いていいですか?」って聞かない?とムッとしたわよ。オジサンは更に搭乗口で貰える手荷物を下に置く時の不織布カバー(わかる?カバンを包むための白いのよ)を足元に敷き、靴を脱いでその上に足を載せた。オジサンの肉厚甲高の足の裏をわたしに向けて。ヒー!マスクしていて良かったよーー。

オジサンはプシュっと缶ビールを開けて、ごきゅごきゅと音を立ててビールを呑む。ひゃー。そして焼売弁当を開けて割りばしを口に咥えて割って、ヒー。ぐちゃぐちゃと食べ始めたのよ。見なきゃいいじゃん!って思うでしょ?わかって!気持ち悪すぎて目が離せないのよーーー!わたしは折詰弁当の酸っぱい匂いが苦手なの。もうさっさと食べて飲んで捨てろよ!と冷たい目で見ているんだけど出張帰りのオジサンは仕事が終わったほっとした感をゆったりと楽しんでいるのかいつまで経っても食べ終わらないわけ。ぐちゃぐちゃ、味わう、ごきゅごきゅが続くのよ。

そこにえっとえっとなんたっけ?いまスチュワーデスさんじゃなくてなんとかアテンダントだかのお姉さんが「お飲み物いかがですか?」と来ると「ビール!」と偉そうにオーダーするの。「恐れ入ります現在機内では販売していなく…」と丁寧に断るなんとかアテンダントさん。ざまあみろ!とほくそ笑むわたし。

フフン、1缶しかビール飲めないんだったらごきゅごきゅ呑まなければよかったわね。と、わたしすっごく意地悪な目つきをしていたと思う。普段はこの小さい目がパッチリに見えるように気を付けているのだけれどもこういう時には上瞼が直線よ。「ああこの人だって赤ちゃんの時は可愛かったのよ」「みんな神様の子供」「我ら宇宙船地球号の仲間」「ワンネス」と言い聞かせてできるだけ身体を背けて匂いと音を避けていたのだけれども、真ん中の座席にカラになったビール缶(サッポロ黒ラベル)と焼売弁当の蓋がご飯粒が付いた状態で上向きに放置されていたのを見ちゃったの。その瞬間吐き気がして、これから揺れが予想される機内でこのオジサンと手を取り合って「ぎゃー!」と叫んだり、焼売弁当の蓋が飛び上がる光景を思い浮かべてしまい、トイレに行くふりをしてなんとかアテンダさんに「スミマセン」とお願いして席を替えて貰ったの。この席では死ねない!

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でもね、急に席を替わったらオジサンに失礼かしら?とちょっとは気にしたのよわたし。大丈夫だったわ斜め後ろの席から観察すると、オジサンは短い脚を伸び伸びと座席に上げてリラックスしていたわよ。あの感じ悪いババアいなくなって良かった!ってとこね。

見なけりゃいいじゃん!って言わないでね。見ないではいられなかったのよ。

そして悟ったの。あの焼売弁当オジサンだってもしもわたしの席に座っていたのが若くて初々しい女の子だったら嬉しくてちょっとは遠慮して焼売弁当の蓋を放置したりはしなかったのよね。「なんだババアかしかも変なヤツ」って思ったのね。キー!お互い様よ!「ああこの旅行最後がツイていないわ」と思ったのも一緒かもね。

考えてみたらオジサンを形容した「黒ずんだ顔色、浮腫んだ上瞼と下瞼。艶の無い髪にごろんとした短い体躯」これってわたしじゃん。肉厚甲高のわが足をじっと見る。だわよ。

他の座席にひっそりと座るサラっとした髪メガネひょろんとした体形の若者を見て「ああ、若いのはええなあ」とつくづく思っちゃうってわたしってオジサンオバサンなのね。

あ、でもねわたしが一番好きな人は山川紘矢さんなの。紘矢さんは居酒屋で「オヤジ、いつもの」と威張ったりしないわよ。絶対に!だからきっとわたしの好きなオジサンも広い世の中には生息しているよね。

神様いつかわたしに素敵なオジサンが現れますように。あ、「いつか」じゃ待てないわ。すぐに!よ!神様頼んだわよ!


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