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育児書よりも救われた本

育児書を読むと逆に落ち込む


育児に悩むとどうしても育児本に手がでがちだが、読むと余計混乱するだけで、むしろ自分の「できてなさ」に落ち込んだ………

そんな苦い経験が何度かある。



本だけじゃなく、インスタなどのSNS、果てはただググるだけでもダメージを受ける。


情報過多といわれて久しいこの令和の子育て世代は、情報からどれだけ適切に距離を置けるかが大事だと思う。

というわけで、もういっそ、本の世界でくらい育児から離れて、自分の内に潜った方がいいわ。そもそも読書の素敵なところって、そういうとこでは?と思い直し、久しぶりに本屋さんで小説を手に取った。


これが大正解だった。

育児書を置いて、小説を読む


育児の合間を縫って、夢中で読んだ。心がどんどんと潤っていくのを感じた。物語は多忙な毎日で沈んだ心の声にそっと気づかせてくれたし、時にはドラマチックに生きる力を与えてくれた。


特に好きなのは、小川洋子さんの作品。


はじめて読んだ「密やかな結晶」からもう、たまらなく心を奪われてしまい、小説もエッセイも少しずつ買い集めては読みつづけている。エッセイから感じ取れる、小川さんの優しい人となりも大好きだ。


小説もエッセイも、文章が繊細で美しくて、視点がとても優しいところが大好きなのと、淡々としながらしかし心の繊細な機微がじんわり感じとれる。
そして、少しファンタジックだ。「密やかな結晶」や「小箱」などのディストピアっぽいものはファンタジックになるのはわかるのだが、「博士の愛した数式」など現実的な舞台の時でも、どこか不思議な雰囲気が漂っている。これが本当に大好きで、読んでいてとても心地よい。自分以外のどこかや誰かのことは全てファンタジーなのだなと思ったり。
はあ、本当に、大好き。


特にその「淡々」がとてもありがたい。私はあまりにもドラマチックでスリリングな物語や文体だと、読むのがなんだかしんどいのだ。没入しすぎて、感情の動きに耐えられなくなる…
なので小川洋子さんの静かに、淡々と進む小説はとても読みやすくて、とても癒される。

特に印象的だったのが「小箱」

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かつて郷土資料館で過去の時間を閉じ込めていたガラスの箱は、今では死んだ子どもの未来を保存するための箱になっている。……死んだ子どもたちは箱の中の小さな庭で、成長し続ける。靴を履いて歩く練習をし、九九や字を覚え……

本文より

子どもがいない、新しく産まれることもない世界を舞台に、死んだ子どもの魂を入れる「小箱」を見守る大人たちの物語だ。

子育て真っ最中の私にはとにかく悲しい話だった。小箱の中で7歳になった娘に、人形をプレゼントしに来た父親の下りが20ページ目くらいにあるのだが、そこでもうクライマックスか?ってくらいに泣いた。その後もページをめくるたびに泣いてたので夫が心配していたくらいだ。あ〜今思い出しただけでも涙目……。

私も息子がもし居なくなったら、ずっとガラスの小箱の前で、息子の成長を見つめ続けるだろう。登場するこの大人たちの気持ちが、痛いほどにわかる。

読んでる間中悲しかったが、こんなにも思いっきり悲しむことなど日常に無いからか、不思議と読後はスッキリとしていた。安全に感情を感じ切れるのも、物語の良さだと思った。

これが私の感想だったのだが、その後読了した夫からは全く違う感想が出てきた。

どんな愛にも居場所がある

「すごく文学的で面白かったけど、怖かったよ?登場する人誰ひとり前を向いてなかったじゃん」

「小箱も、お菓子箱に閉じ込められて変形したカマキリも同じじゃん。いなくなった子どもに執着して、妄想という形で変形させて、成長させてるもん」

唖然としてしまった。言われてみれば確かに、その通りだ。

それを聞いてようやく、気付いた。
私は息子に執着していた。

可愛くて愛しくて、この子の為ならなんの躊躇も無く死ねるが(夫も同じ気持ちではある)いつの間にか愛はいびつに変形していた。

だから育児書に振り回されていたのだ。不安だから。私の全てと思える息子に不便をさせたくない、悲しい思いをさせたく無い。危険な目に遭わせたくない。安全な場所で、安心して大きくなってほしい・・・いつの間にか私は息子を小箱に閉じ込めていた。息子を失ったら、私の人生は終わりだから。


だけど、そんな変形した愛も、前を向けないくらいの悲しみも絶望も、小川さんの作品は肯定してくれる。やさしくそっと掬い上げてくれる気がしてる。


自己肯定感を高める育児とか書かれる、それが売れる世界とは別に、いびつな愛を受け入れてくれる場所が必要だ。じゃないと、行き場のなくなった想いは、暴走してしまうんだ。

小箱が並ぶ講堂は、私をいつでも迎えてくれる。

物語がくれた心の余白に、私は救われたのだった。

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